Amazon Kindleにおける初の日本語漫画『青空ファインダーロック』からはや3年。Kindleストア日本語版がオープンし新たな動きが起こりつつある電子書籍×漫画の現状と未来について、うめ・小沢高広氏に3年ぶりのロングインタビューを敢行した。
Amazon Kindleにおける初の日本語漫画として『青空ファインダーロック』(AOZORA Finder Rock)がリリースされ話題になったのが2010年のこと。作者である「うめ」の原作/演出担当こと小沢高広氏に、リリースに至る経緯や電子書籍への取り組み、漫画業界が抱える問題点について、筆者が誠Biz.ID誌上でインタビューを行ったのはちょうどその直後のことだ。
それからおよそ2年半後の2012年10月にオープンしたKindleストア日本語版は、インプレスR&Dが四半期ごとに行っている「電子書籍ストアの利用率に関する調査結果」で初登場ながら40%のシェアを獲得するなど、国内でもその地位を着々と固めつつある。2013年に入ってからは、漫画家の鈴木みそ氏がKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)で出版社を経由せずに公開した『限界集落温泉』が、Kindleストアの有料ランキングで1位を獲得するなど、小沢氏の「第一歩」から始まったムーブメントが、いよいよ目に見える形で現れ始めている。
3年前に比べて明らかな変化が感じ取れる電子書籍×漫画の現状について、今回、改めて小沢氏にロングインタビューを敢行した。果たして電子書籍×漫画を取り巻く環境はどのように変貌を遂げ、そしてこの先どうなっていくのか。クラウドファンディングの活用など次々と新たな取り組みを見せる小沢氏に、思うところを語ってもらった。
―― 前回のインタビューから約3年、ついにKindleが国内でサービスインしました。これまでかたくなにKindle本体を買わなかったうめさんも、ついにKindle Paperwhiteを買われたと聞きましたが。
小沢 そう。やっと。いまごろ初めて買ったというのはひどい話ですよね(笑)。
―― Kindle Paperwhiteをご自身で所有されてみていかがですか。
小沢 いまは、文字中心のものは読みたいものが出ていればすべて(Kindleで)買っていますが、漫画はページの反転がやはりどうしても気になりますね。漫画は小説に比べて、1ページ当たりの滞留時間が短く遷移の回数が多いので、そこが少し引っかかる。iPad miniのRetina版が出たら、そっちでいいよということになるかもしれませんが。
―― 確かに漫画はページをめくるスピードが早いですよね。1ページまるまる1コマということもありますしね。見開きが左右ページで分断されることについてはどうでしょう。
小沢 3年前に比べると慣れました。タブレットで読んでいると気にならないことからして、どうやら頭の中で補正して読んでいるみたいです。特にiPadだと、あまり遷移のストレスはないですし。
改めて感じたのは、ノド(編注:冊子の綴じられた部分のこと)の変形がないのは大きなメリットですね。絵の美しい漫画家さん、例えば井上雄彦さんの絵を曲がった状態で見るのはもったいないですが、電子書籍であれば平らな状態で見える。そういう意味では一長一短ですね。
あと紙の本はその構造上、先に目に入るのは左のページなんですね。つまり1つ先のページがネタバレしている。それが実はストレスだったことを、電子書籍を読むようになって気付きました。
―― 今回Kindleストアでリリースされた『大東京トイボックス』の短編6作品は、本誌に載った作品を出版社経由で出されたわけですが、これはKindle向けに準備されていたのでしょうか。3年前のインタビューの際も、「単行本一冊に満たない話数を安い単価で出すのは効果的かもしれない」という仮説を立てられていましたが。
小沢 Kindleが日本で普通に買えるようになったらやってみようと前から思っていて、僕の方から企画をまとめて幻冬舎に提案しました。ただ、わざわざ描きためていたわけではないですね。
―― 漫画のサイドストーリーを単行本の巻末に載せるのはよくありますが、今回はそれが別冊として出てきて、作品の世界観を広げつつ、電子書籍というプラットフォームで手軽に買ってもらえるという、デジタルならではの付加価値になっているのが面白いと感じました。
小沢 短編集って、相当売れてないと(出版社からは)出してもらえないんですよね。そういう意味では、短編を出すにはすごく向いている媒体だと思います。
―― 今回はKindleストア以外のプラットフォームは考えなかったのですか?
小沢 考えませんでした。そもそも自分自身、Kindle以外であまり電子書籍を買っていません。Amazonだと何をすれば売れるのか、いま自分が出している作品がその中でどれくらいの位置にいるかなど、体感で分かっている部分もありますが、他の電子書店に対してはそれがない。
あの短編集を出すことで生活を潤そうとはまったく思っていなくて、いま出すとどれくらい動くんだろうという、試金石的な意味も多分にあります。なので、勘が働かない媒体で出すことにはほとんど興味がなかったですね。今後絶対にプラットフォームを広げないわけではないですけど。
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