インタビュー
» 2012年10月22日 11時00分 UPDATE

「アプリケーションをつくる英語」著者インタビュー:ボーンデジタルから紙出版、その知られざる紆余曲折 (1/3)

紙の商業出版物では一度刊行が見送られ、その後達人出版会から電子書籍として発売されるやいなや、エンジニアを中心に大きな話題を読んだ「アプリケーションをつくる英語」。その反響を受けてインプレスジャパンから出版された同書から分かる出版業界の周辺事情を聞いた。

[山口真弘,ITmedia]

 電子書籍の普及にともない、個人が電子書籍の出版を試みるケースが散見されるようになった。海外では電子書籍発の大ヒット作家も誕生しているが、日本においてはこうしたケースは皆無に近い。個人向け出版サービスのプラットフォームは続々と増えつつあるものの、実際に個人の手による電子書籍がヒットし、大きなムーブメントにつながった事例は、ほとんど耳にしないのが現状だ。

tnfig3.jpg 発表直後には高橋氏のツイートに反応する形で多くの声が寄せられた。その「瞬間最大風速」の様子はTogetterでまとめられている

 そんな中、今年夏にネット上で話題になったのが、達人出版会から発売された電子書籍「アプリケーションをつくる英語」だ。アプリを海外向けにリリースする際に用いられる単語や構文をリファレンス形式でまとめたこの書籍は、発表されるやいなやエンジニアを中心に大きな反響を巻き起こし、ついにはインプレスジャパンから同名の紙書籍として刊行が決定。この9月下旬に書店に並ぶに至った。

 著者である西野竜太郎氏は、フリーランスで翻訳業を営むとはいえ、書籍の執筆に関してはまったくの未経験。いわば「素人」が書いた電子書籍がヒットし、それに出版社が目をつけて紙の書籍の発売に至った国内では非常に珍しいケースになる。

 しかも実はこの書籍、電子書籍化の前に紙の出版社に持ち込んで「売れない」と判断されたものの、電子書籍版が想定以上の売れ行きを見せたことで紙の出版に至った経緯があり、なお興味深い。

 今回は西野氏に一連の経緯や書籍の狙いについて伺うほか、電子書籍版の発売をサポートした達人出版会の高橋征義氏、そして紙版の発行元であるインプレスジャパン コンピューターテクノロジー編集部の鈴木教之氏に、電子書籍と紙、それぞれの出版にまつわる周辺事情について聞いた。電子書籍がどのような形で「触媒」の役目を果たしたのか、三者の証言をご覧いただきたい。

tnfig9.jpg 左から達人出版会代表取締役の高橋征義氏、西野竜太郎氏、インプレスジャパン コンピューターテクノロジー編集部の鈴木教之氏

英語さえできれば世界にソフトウェアを出せる人がもっといる

西野竜太郎氏 西野竜太郎氏

── まずは西野さんの普段のお仕事をご紹介いただけますか。

西野 メインの仕事はソフトウェアのユーザーインタフェースやマニュアル、Webサイトなど、IT関連の翻訳が主です。英語と日本語の双方向ですね。アプリケーションの販売もしています。

── アプリは西野さんご自身で開発されているんですか。

西野 はい、自分で作っています。以前翻訳会社に勤めていた際、今後アプリを海外に売る需要が出てくるかもしれないということで、宣伝目的で日本語と英語の体重管理アプリを作ったんです。2009年の初めくらい、まだAndroidが出始めたころです。ところが僕が退職する際、管理する人がいなくなってしまうので、結局個人で引き継ぐことになって(笑)。

── なるほど、そんな経緯があるのですね。あと、朝日新聞社の「週刊英和新聞・朝日ウイークリー」でコラムを書かれているとのことですが、これは翻訳関係の知識を生かしてライターとして書いているわけですか。

西野 ええ、そうですね。

── 今回の本はそうした連載やブログの内容をまとめたわけではなく、完全な書き下ろしですか?

西野 はい、書き下ろしです。着手したのは2010年の末ごろで、本当は半年ぐらいで書けるかなと思っていましたが、途中で東日本大震災があって中断したこともあり、結局1年以上かかってしまいました。

── その時点ではどこかの出版社と話がついていたわけではないんですよね。

西野 そうです。全部書き終わってから、どこかに持ち込もうと思っていたので。

tnfig1.jpg 達人出版会の販売ページ。数百件の「いいね!」など、熱い支持が寄せられている

── なるほど。達人出版会の高橋さんに伺いたいのですが、著者が本を持ち込んでくるときは、今回の西野さんのようにほぼできあがってる状態で打診してくるパターンが多いのでしょうか。

高橋 概ね2つのパターンに分かれていて、1つは何も書かれておらず、こういうのを書いた場合に電子書籍として出せますか、と打診してくる場合。もう1つは完成済み原稿を持ち込まれる場合ですね。ただ西野さんの場合は、本の1部と2部、単語集と構文集はExcelの単語データとWordで作った見本で構成されていて、3部は普通の文章がある特殊なケースでした。

 そのExcelファイルがまたバカでかいわけですよ(笑)。単なる単語のリストではなく、解説や用例とその訳まで1つのシートにすべて含まれていたわけですから。弊社がこれまで刊行した本は、A4のPDFに換算して100ページや200ページ、普通の技術書にしては薄いものが多いんですが、それより明らかに大きい。しかも元データがExcelなのでページ数の見当がつかない(笑)。ただ内容的には面白いので、これはぜひ出しましょう、という話をさせていただきました。

── その時点で類書がすでにあったりはしなかったんでしょうか。

西野 ITニュースを例文に単語を解説したようなものはあるんですが、ソフトウェアのインタフェースやメッセージに特化したものは調べた限りではありませんでしたね。

達人出版会 達人出版会の高橋征義氏

── 先ほどの話に出てきた、会社退職前に作ったアプリなどからエッセンスが抽出されて、こういう本ができあがったという理解でいいんでしょうか。

西野 はい。それともう1つきっかけがありまして、産業技術大学院大学という、社会人向けの大学院に働きながら通っていたんですが、そこは普通の修士課程のように修士論文を出すのではなく、プロジェクトをやることで修了できるプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)を採用しているんですね。

 そのとき僕が入っていたのがベトナムの大学と共同でソフトウェアを開発するプロジェクトだったんですが、日本の学生は技術力はあるのに、UIを作ったりメールをやり取りする英語がすごく弱いんですよ。英語さえできれば世界にソフトウェアを出せる人がもっといるはずなのに、もったいないと。そういう人に対してサポートできる資料があればいいなという。

── 海外のソフトウェアを翻訳して日本に持ち込むのとは逆で、国産のソフトやアプリを海外に羽ばたかせたい思いがあったんですね。

西野 ええ。ソフトウェアの輸出入の金額を見ると圧倒的に輸入が多いんですが、日本から世界に売っていく、そういった方向がもっと増えればいいなというのがありました。

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