漫画はどこへ向かうのか徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.5(3/3 ページ)

» 2011年02月18日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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5年後にまた会いましょう。どっちが笑うか、泣くか(竹熊)

赤松 この対談、会話が全然かみ合わずに終わってしまいましたね。これどうやってまとめるんですか。

竹熊 かみ合わないことを素直に出しちゃっていいんじゃないですか。読者からすると、僕は編集者って言ってるのに作家っぽくて、赤松さんはむしろ編集者とかプロデューサータイプだったというのは面白いんじゃないですか。結論としては、5年後にお会いしましょうと。どっちが笑うか、泣くか。ひょっとすると、どちらの予想とも全然違う5年後になってるかもしれない。

赤松 こういう対談って、だいたい最後が予定調和的に終わることが多いんですけどね。

竹熊 だから逆に話題になるんじゃない。で、5年後にお会いして、もう1回、この5年間を振り返ってやりましょうみたいなさ。

赤松 私、5年後に会いましょうってのは口癖で。高校、大学のころから、意見が割れると「じゃあ5年後にもう1回飲みましょう」みたいなことはよく言います。

竹熊 大枠では一致しているわけですよ。出版界と漫画界はもうあと5年持たないとか。それで電子出版で活路を見いだすとか。多分そこだけは一致するんですよ。

赤松 そうですね(笑)。

竹熊 じゃあ5年後に。

赤松 頑張りましょうということで。

竹熊 これ、僕がまとめ役だったら、どうしようかなと頭を抱えるな(爆笑)。


 夜21時に始まった対談は、場所を変えながら翌朝の4時まで続いた。両氏の考えは漫画界に対する危機感や現状認識という点では合致するものの、議論の多くは平行線をたどり、両氏の価値観の違いが如実に表れるところとなった。後半になると、あまりの議論のかみ合わなさに、両氏自らそのことをネタにし始めるという展開であった。同席していた筆者が終始ハラハラさせられたのは言うまでもない。

 今回議論がかみ合わなかった理由を、漫画家と編集者という立場の違いに求めるのは早計だろう。赤松氏は限りなくプロデューサー志向の漫画家で、逆に竹熊氏は芸術家志向の編集者であるなど、一般的に言われる「漫画家」「編集者」像とは逆転したイメージが強い。漫画界に対する危機感や現状認識がほぼ共通であるにもかかわらず、それらに対するアプローチがまったく異なるのは、むしろ両氏の処世術、人生観の相違から来るものだろう。「自分が面白いと思うことをやりたい」とする竹熊氏に対して、赤松氏が「他人が面白いと思うことをやりたい」と返したやりとりは、それを象徴している。

 週刊連載を抱える現役漫画家である赤松氏と、大学教授として京都と東京を往復するなど多忙な日々を過ごす竹熊氏。それだけにまるで意見が合わないとなれば早期に見切りをつけて散会しても不思議でなかったわけだが、にもかかわらず7時間にもおよぶ意見交換となったのは、お互いの立場からの問題解決のアプローチに興味があったからにほかならない。

 新人発掘のプラットフォームとしての可能性をJコミに見い出した竹熊氏と、Jコミをあくまで絶版作品のアーカイブおよび漫画家への還元手段としてとらえ、正式公開に向けて歩みを進める赤松氏。赤松氏個人はJコミ以降の構想もすでに頭の中にあり、また竹熊氏も新人発掘と個人の作品構想を実現させるための「野望」があると聞く。最終的には5年後に再対談の約束をして散会となったが、今回の対談内容を踏まえつつ、両氏のこれからの活動をチェックしていくと、漫画に賭ける両氏の思いがより深く理解できるのではないだろうか。

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