漫画はどこへ向かうのか徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.5(1/3 ページ)

現役漫画家である赤松健氏と、編集家の竹熊健太郎氏による出版界と漫画界の未来予想は、危機感や現状認識という点では合致する部分もあるものの、両氏の価値観の違いが如実に表れた対談となった。果たして対談はどのように収束するのか。5日間に渡ってお届けしてきた本特集もいよいよ終幕。

» 2011年02月18日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

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自分が面白いと思ったことではなく、人が面白いと思うことをやりたい(赤松)

赤松健 赤松健氏

竹熊 この対談ね、まとめるときに、2人の対立を前面に出したらいいんじゃないですか。一見同じことを考えてるようで、実際に会って話をしてみたら、まったく立ち位置が違うので。

赤松 まったく違う。未来予想も違うし、立ち位置も違う。

竹熊 「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」という現状認識については一致するところもあるとはいえ、解釈が違う。ここまでかみ合わないのも逆に面白いかなって。

赤松 対談企画の最後に「そうですね」「そうですよね」って入れてまとめる形にできないですもんね。1つも交わらない。

竹熊 むしろ、ここまで交わらないってすごいですよ。これはもう人生観が違うのでしょう。同じような現状認識で出発しても、立場の違いでここまで変わるんだなと。こう言っちゃうと失礼かもしれませんが、赤松さんは勝ち組の発想なんですよ。

赤松 でも、どちらの未来予想が厳しいかというと、私のほうが厳しいですよ。竹熊さんの未来予想は、楽観してるところがあったり、夢があったりしますよね。私はもうダメだから次の手を考えようって言ってますから。

竹熊 ええ。僕の知る限り、赤松さんの業界予想が一番シビアで現実的です。でも、今のネットの急激な進化を見ていると、5年後に何が出てきているか分からないですよね。想像を絶するようなシステムやコンテンツが出るかもしれないし。だからそのときはそのときですね。ただ、僕としては自分が面白いと思ったことをやりたいですよね。

赤松 私は違います。他人が面白いと思うことをやりたいです。

── なるほど、そこが根本的に違ってるんですね。

赤松 竹熊さんがおっしゃった、自分の好きなことをやりたいというのは、私の価値観で言う「楽しみ代」にほかならないです。だから危険信号がすごくピカピカと光ってる。

竹熊 でも、僕はこれまで30年間、好きなことだけやってきたんです。痛い目にも苦しい目にもだいぶ遭いましたけど、楽しかったですよ。もちろん満足はしてませんけど。

赤松 それはすごいバイタリティですね。

竹熊健太郎 竹熊健太郎氏

竹熊 ただ、4年前に脳梗塞(こうそく)で死にかけまして、それで人生の締め切りをリアルに考えるようになりました。自分の中では、人生はあと10年と思ってるんですよ。そこで死にたくはないですが、その先のイメージがない。それまでにやりたいことをやっておきたいとうのが、今の目標になってます。

── 目標というのは、具体的には。

竹熊 新人の育成も含めて、僕の原作で作りたい作品が3本くらいあるんですよ。これは20歳のころから考えてることで、それをようやく実現できるかって雰囲気になってきたんです。ただ、あと10年で全部完成させる自信がないので、そのうちの1本でもやりたい。でもそれは10年前から出版社に持ち込んでいて実現不可能だったので、自分でシステムから作ってやるしかないんですよ。

── 純粋な漫画なんですか。それとも、漫画を中核にした何か?

竹熊 漫画を中核にした総合的な表現です。ちょっとこういう言い方しかできないんですが、そのうち発表します。

―― 竹熊さんの方が、いわゆるアーティスト体質ですよね。

赤松 そうですね。

竹熊 夢が明日実現するのと、10年後に実現するのと、どっちがいいですかと聞かれたことがあって。僕は10年後がいいと答えたんですよ。だってプラモデルも組み立ててる過程が楽しいんじゃないですか。できあがったプラモデルって、組み立てることが趣味の人にとっては面白くも何ともないですよ。

赤松 私だったら、プラモデルは翌日すぐに完成させて、2つ目に取りかかります。

竹熊 だからそこが根本的に違うんですよ(笑)。僕の場合、ぶっちゃけて言うなら完成しなくてもいいんですよ。

赤松 え〜(笑)。

竹熊 僕、自慢じゃないですけど、プラモデルが完成したことはほとんどないですよ(笑)。途中で嫌になっちゃう。だから最後まで完成させる作家にはなれなかったんです。つらくても最後まで完成させるというのは僕には大変なことですが、赤松先生の今があるのは、それができるからでしょう。

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