インタビュー
» 2010年12月09日 09時30分 公開

「ラブひな」170万ダウンロード突破の衝撃:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(後編) (3/4)

[山口真弘,ITmedia]

漫画ファンとして、漫画原稿が散逸している現状に対抗したい

赤松氏 持参した幾つかのeBookリーダーでの見え方をチェックする赤松氏

── 今回サービスの発表から26日のスタートまで1週間ほど間があったかと思うんですが、その間、ITmediaなどでもニュースとして取り上げられ、ネット上ではかなり盛り上がりました。

赤松 でもあの時点では、こういうのをやりますよってブログが出ただけですよね。Jコミのトップページはできていましたが、そのブログの中に小さく写ってるだけで、ブログを見ただけでは実際にどんな感じになるのか分からないじゃないですか。だからそれほど話題になってるという意識はありませんでした。

 それを感じたのは、Jコミを正式公開した11月26日からですね。当日の昼11時40分、12時ぴったりだとみんな殺到するので20分前にあらかじめ開けておいたんですが、そこからダウンロードが始まって、その半日だけで200万ページビュー。そのインパクトはいまだに大きいですね。

 今回のβテストをやってみて、意外と広告気にならないねとか、ダウンロード時間は短いね長いねとか、解像度が粗いね細かいねといった反響がようやくダイレクトに来て、われわれとしてはβテストの意義があったなと思っています。

── そういえば、まだ正式オープンじゃなくてβテストなんですよね。

赤松 ええ。このβテストで広告の価格を決めて、解像度も決めて、サーバの負荷も測定して、各ページのクリック率を調べて、さらに1巻から14巻に至るクリック数の減退率を調べます。『ラブひな』だったら何巻までで急に下がってその後はゆるやかになるとか、そういう減退率のグラフを作って、これからの漫画に当てはめていく予定です。

── 1月の正式公開に向けて、今後こういったことを予定している、または、まだ実際に固まってはいないがこういうアイデアがあるというものがあれば教えていただきたいのですが。

赤松 前から言ってるのが「同人誌」ですね。あと、プレミアム制でエロをやりたい。クレジットカードで年齢確認ができますから。それでプレミアムの会費を作者さんに渡すというものです。ただ、プレミアムだけはさすがに何%か手数料を取らないといけないのかなとは思います。もう広告じゃないですからね。エロに広告を入れる手もありますが、エロ広告しか入らないから危険なんですよね。

 で、エロにだけはDRMが掛かると思います。子供たちに自由に配布されては困るので仕方ないですよね。とはいえそれも漫画文化ですから、どんどん残していかなければと思います。そうしないと本当になくなっちゃいますよ。

黒咲一人氏の自伝漫画『55歳の地図』

── 残すことのほうが優先ということですね。

赤松 そう。わたしの中で心に残ってるのは、黒咲一人先生っていう、週刊少年マガジンの先輩なんですけど、『ハスラー・ザ・キッド』っていう漫画を描いておられた方で、かなり古い時代の先生です。

 この黒咲先生が、『55歳の地図』という自伝漫画の中で、もう全然漫画の仕事が来ないので、住んでいる部屋を出ることになるのですが、若いころに描いた原稿を捨てるには忍びないと漫画専門店に持って行くと、「これはちょっと……」と言われて捨てるシーンがあるんです。市役所に聞いたら「燃えるゴミです」と言われて、全部ゴミ袋に入れてゴミの収集車が持って行くんです。泣きますよ先生。できるなら取り戻したいという。それを友達のさとう(輝)先生が、命より大切なもんでしょう、と怒鳴りつける。

 これは自伝漫画ですので、実際の話です。つまり、『ハスラー・ザ・キッド』の原稿はもうこの世には存在しないんです。どこかに単行本が存在していれば、スキャンすればまだ間に合いますが、生原稿の美しさには劣ります。漫画原稿が散逸してるんですよ、文化遺産なのに。漫画ファンとして、こういう状況に対抗したいんです。

── こうした文化事業的な面は赤松先生のような現役バリバリの漫画家さんではなくて、本来は国などでやるべきことではないかと思いますが。

赤松 先ほども言いましたが、国や企業や図書館からは、作家に利益を還元するという観点がなかなか出てきません。Jコミの広告モデルに関して、広告代理店さんに「わたしのほかに漫画家さんでこういうのを進めている話がありますか」と尋ねると、一切無いと言う。ほかの企業、出版社や一般企業でもこうした話は無いということです。

 ではなぜ広告モデルをやらないのかというと、例えば出版社は非常に文化事業的な側面があるから、原稿に広告を入れて無料で配布するっていうのは商行為としていかがなものかという見方があるのではないでしょうか。

── 10年くらい前から、過去の漫画を文庫版やコンビニ本で出す動きがありますよね。最近であれば電子書籍やケータイコミックで出すというのもありますが、その辺りとバッティングするという認識があったりするんじゃないでしょうか。

赤松 紙の本で出るなら、それに越したことはありませんので、そちらを優先していただきたいと思います。ただ電子化の場合は、無料で、しかも作者の取り分が100%の弊社が適切じゃないですかね。新刊じゃないから出版社も困りませんし、WIN-WIN-WINですよね。

関連キーワード

Jコミ | 漫画家 | 出版社 | 赤松健 | 講談社


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

コンテンツパートナー

新刊JP
ラノコミ.com
hon.jp
新文化通信社
Good E-Reader Blog
ぶくまる