インタビュー
» 2010年12月09日 09時30分 UPDATE

「ラブひな」170万ダウンロード突破の衝撃:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(後編) (1/4)

漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題だ。なぜ今この取り組みが注目されているのか? 赤松健氏へのロングインタビュー後編では、漫画文化に対する同氏の考え、そして彼を突き動かすものは何なのかをさらに掘り下げてゆく。

[山口真弘,ITmedia]

 漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題となっている。初回のタイトルとして投入された『ラブひな』は、公開から1週間あまりで累計170万ダウンロードを突破。かつて一世を風靡(ふうび)した大人気コミック、かつ無料であるとはいえ、メジャー週刊誌の部数並みの数をこの短期間で達成するというのは極めて異例である。

 ITmedia eBook USERでは、週刊連載と並行して「Jコミ」に取り組む多忙な赤松健氏にインタビューを敢行。同氏の価値観や思想などについて赤裸々に語ってもらった。後編では、漫画文化に対する同氏の考え、そして彼を突き動かすものは何なのかをさらに掘り下げる。前編と併せて堪能してほしい。

赤松健 赤松健氏

子供たちは漫画の読み方が分からなくなりつつある

── 今回のβテストで無料公開された『ラブひな』のPDFファイルはオリジナル原稿から作られたものではなく、単行本をスキャンされたのですよね。あれはご自身でお持ちだったものをスキャンされたんでしょうか? 奥付を拝見すると版がバラバラでしたが。

赤松 そうです。うちにあった単行本の中から日焼けしてないものを選んで、裁断機でズバッと。あとは漫画家仲間の出口(竜正)先生がPhotoshopで補正してくれています。昔の単行本は結構ページが傾いてるんですよ。それを補正して、コントラストも調整してくれています。最初に出すものだからきちんとやりましょうということで、手作業でやってくれました。1週間ぐらい掛かったようです。

── カバーや表紙など、装丁のところの許諾はどのように処理されたんでしょうか。

赤松 音楽と違って、日本では著作隣接権や版面権というのが認められていないんですよね。ですので、そうした権利は出版社にはありません。あと皆さん勘違いされているんですが、出版社には著作権はありません。ある期間、その漫画原稿を使って商売をするという権利しかないのです。そして漫画が絶版になった後のすべての権利は、作家に戻るようになっています。

 文章がメインの本の場合は、作家はテキストのデータしか持っておらず、版のデータを持っているのは出版社や製版所なのですが、作家側が「この版の全データが欲しい」と言ってきても、出版社や製版所に渡す義務はありません。だから原稿全体をそのまま持っている漫画家と違って、ちょっとややこしいことになっています。

 じゃあ『ネギま!』(編注:『魔法先生ネギま!』)や『ラブひな』のロゴはどうなのかと言うと、最初の時点で買い取りをするので、そのデザイナーの著作権は残らないと考えられています。もちろんアシスタントが描いた部分の著作権も、彼らは主張できないようです。単行本内の記事もそうです。特別に契約書を作っている場合はこの限りではありませんが。

── ブログで、ケータイ漫画のコマ割り表現は作者の意図が伝わりにくいと書かれていましたが、『ラブひな』や『AI止ま(編注:『A・Iが止まらない!』)』はケータイコミックでは出ていないんですか?

赤松 出ています。『ネギま!』が講談社の電子出版物として一番売れていた時期があったのですが、それでも数万円くらいですよ。これで食っていくのは無理だなって感じがしますよね。まあ印税率が低いというのもありますけど、いろいろ考え直さないとやっていけないんじゃないかなという感じはしました。

 あと、ケータイで1話50円で9話入ってるとかいうのがあるじゃないですか。計算していくと単行本で買うのと似たような値段になるんですよね。紙で買うよりも高くなるようなケータイサイトも結構あって、すると、「あれ? 俺が買ってるのは何なんだろうな」って読者も気づくんじゃないかと。今後ケータイコミックは減っていくのではないかなとわたしは考えています。ボーイズラブのように書店で買いにくいものは買う意味はありますけど。

── 『ラブひな』が150万ダウンロードを超えた(12月1日時点)ということですが、『ラブひな』だとアニメのDVDもありますし、「ラブひな0」「ラブひな∞」といった関連本もあります。そういった関連商品の売上に影響が出てきたりはしていないのでしょうか。

赤松 アフィリエイト的に売れることはありますけど、講談社が、「お、ラブひな盛り上がってるな」って重版することはあり得ますね。今日打ち合わせしてきたら、その辺りにかなり興味を持たれていたように思います。ほかにも、「Jコミでこんなのがいきなりリバイバルしてるんだ、すごい人気らしい」ということになると、紙でそれを出すというのはありですよね。

── Jコミの配信でドーンと盛り上がったことで、過去にメディアミックス展開をやってきた作品周辺が再燃することがあるかもしれない、ということですね。

赤松 ただ、今はそれ以前の問題で、昔は水曜日に電車乗ったらみんな週刊少年マガジンか週刊少年サンデーを読んでいましたけど、いま水曜日に電車に乗っても誰も読んでないですよね。実は、子供たちが漫画の読み方を分からなくなりつつあるという話を聞いたことがあるんですよ。どういう風に読むのか分からないという。

── 文字通り、読む方法が、ということですか?

赤松 そう。少し大げさだとは思うんですがそうした報告があって。ですので、未来につなげるために、漫画文化を、漫画を読むという行為を絶やさないようにしたいなと思うんですよね。漫画の読み方が分からないと面白いか判断できないから買わないじゃないですか。でもJコミで配布されているものを無料で読んで、「へー漫画って面白いんだ」と思ったら、紙の本を買うかもしれませんよね。これが紙の本を読む裾野を広げたいという概念なんですよね。

── 紙がよいとか悪いといった話ではなくて、全般的に裾野を広げるという。

赤松 そうです。特にJコミは「作者による作者のためのサイト」ですので、もしいったん許諾を出した先生の漫画がコンビニ本や文庫本になるとして、Jコミに削除要請がきたら当然削除します。クリック保証が満たされてたら即削除。払った広告料を返す必要もありません。それで紙の本が出たらいいじゃないですか。その先生だって喜ぶでしょうし。

 例えばある出版社と作家が出版契約を結んでいて、「あの作品は絶版になったんですか?」と出版社に聞くと、「いや絶版にはなっていない」と言う。「じゃあ刷ってくれるんですか?」と聞いたら、「いや刷りません」と。そういうときにJコミに来てくれればすぐに作家にお金が行きます。もしそれがきっかけで、出版社がやっぱり刷りますということになれば、それはそれでいいことです。われわれとしてはどちらでもグッドなんですよ。紙の本が出たらいいし、出なくてもJコミでもうけてくれればいい。作者が喜べば何でもオッケーなんですよ。うちで独占したりということはありません。

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