インタビュー
» 2014年07月18日 12時00分 UPDATE

「これまでにない小説表現を」――バンナムが手がけるボイス付き小説「ボイノベ」

技術の進歩が進み、少しずつ表現の幅を広げる電子書籍。今春、バンナムが配信を開始した「ボイノベ」も新たな表現を取り入れた電子書籍の1つ。一体どんなコンテンツなのか、プロデューサーの鈴木氏に話を伺った。

[宮澤諒,eBook USER]

 2014年4月、バンダイナムコゲームスは自社のゲームを原作とした電子書籍を配信するアプリ「ボイノベ」(iOS/Android)の提供を開始した。

 配信第1弾は、大人気ゲーム「テイルズ オブ」シリーズから、「テイルズ オブ ヴェスペリア」の主人公ユーリ・ローウェルとその幼馴染フレン・シーフォの出会いと成長を描いた物語『テイルズ オブ ヴェスペリア-断罪者の系譜-』(上・中・下巻)。

 文章の背景に描き下ろしのイラストを挿入したり、場面ごとに異なるBGMを流すなど、読書をより楽しむための工夫がされているほか、キャラクターのセリフに声を付けることで、臨場感あふれる一味違った読書体験を可能としている。また、声優はゲームと同じく鳥海浩輔さん(ユーリ役)や宮野真守さん(フレン役)が担当、ファンを意識した作品作りを心がけている。

 配信開始から約3カ月、着実に原作ファンの心をつかみ始めているボイノベの誕生から展望までを、ボイノベのプロデューサー・鈴木氏に聞いた。

rmfigvoice1-4.jpg 「テイルズ オブ ヴェスペリア」のユーリ(画像左)とフレン(画像右)。『テイルズ オブ ヴェスペリア-断罪者の系譜-』では二人の幼年期から青年期までを描いている

ボイノベは新時代の小説表現

―― 初めに、ボイノベの魅力についてお聞かせください。

鈴木 ボイノベとは、当社のサービス名称としての造語ですが、「ボイス」と「ノベル」を組み合わせた言葉でもあります。

 文字コンテンツとして小説は長い歴史の中で楽しまれ続けているひとつの形式ですが、ある程度読み慣れていることで楽しめる形式ではないかとも考えます。言い換えると、何らかの方式でもっと読みやすい形態にすることで、よりハードル低く楽しんでいただくことができるのではないかと考えました。

 ボイノベは、登場人物のセリフ部分に音声データの再生を行うという「ちょっとした工夫」を組み合わせたことで、従来の文字のみの小説よりも大幅に読みやすく、また、小説ならではの深い没入感をもって楽しんでいただける、新時代の小説表現であると考えています。

―― ボイノベ誕生のきっかけは何だったのでしょうか。

鈴木 当社はゲーム会社としてさまざまなタイトルを年間数多く発売させていただいておりますが、そこに含まれる文言量はかなり膨大です。大規模なRPGだと30万字近くを内包しており、これは小説の文庫本でいえば少なくとも3冊以上となります。読書離れ、というような言葉を耳にする際に私自身としては「でもゲームではものすごい量の文章を読んでいるのに」という思いがありました。

 このことから表現としてのボイノベを思い立ち、試行錯誤の末に現在の形式としています。縦書きの小説表現をコンテンツの中心とし、必要と判断した付加表現(音声、音楽、挿絵)をしぼり込むことで、あくまで小説としての「読み、イメージする楽しみ」を残すことが実現できたと考えています。

―― ゲームにはビジュアルノベルといわれるジャンルがありますが、両者の違いは?

鈴木 仕様としての違いは多くありますが、最も違うのは思想としての違い、と考えています。

 ビジュアルノベル、という言葉で示すものがしっかり定義化されていない状態と認識していますので、おおよそのところ、での回答となってしまいますが、一言で言えば、「全く違うもの」と考えています。

 文字があり、声が出て、音楽とイラストが出て、主に文字にてコンテンツが進行する、というところは同じですが、ボイノベはとにかく「小説」であり、「小説を、より楽しみやすくする」ということに最大の注力を行っています。ゆえに、分岐や、キャラクターイラストをセリフとともにぱたぱた切り替えるようなことはしていません。

 これは、技術的な仕様の違いでもありますが、それ以前に「何をしたいのか」「何のためのものなのか」「どうしていきたいのか」の思想が全く違う結果であると考えています。

 この部分は特に、「小説なのにグイグイ読める! 声つきだからどっぷりハマる!」「バンダイナムコ公式ボイス付き小説」という、ボイノベを表現するときに用いている言葉にすべて集約している部分かな、とも考えています。

伝えたいことはなるべくシンプルに

―― 数あるテイルズ オブシリーズの中で、なぜヴェスペリアを選択されたのでしょうか。

鈴木 社内のテイルズ オブチームとの意見交換ではさまざまな案が出ました。テイルズ オブ シリーズには各作にテーマがあり、ファンのお客さまがいらっしゃいます。また、シリーズの人気キャラクターが一堂に会するオールスター的なタイトルもあります。

 その中で、ボイノベの今後の段階的な発展とテイルズ オブ シリーズ自体の持つパワーを総合的に考え、既に5年前の作品ではありますが、現在も多くのお客様に愛していただいているヴェスペリアの人気コンビである、ユーリとフレンの子ども時代から青年時代を選択しました。

 ユーリは多数作が続くテイルズ オブ シリーズでも希(まれ)なダークヒーロー的なテイストを持っており、その子ども時代を語るのに相性がいいのではないかという判断もありました。おかげさまで、社内のクリエイターによる公式外伝として多くのお客さまに受け入れていただいていることをスタッフ一同うれしく思っております。

―― 『テイルズ オブ ヴェスペリア -断罪者の系譜-』を制作する上で注力したところや、苦労した点はありますか?

鈴木 当社にはゲーム会社としてクリエイターが在籍していますし、自社タイトルを制作する能力を有しています。音声収録をはじめとしたボイノベの制作における必要ノウハウはすべて既存の制作能力にありましたので、特にその部分での苦労はありませんでした。

 ですが、既存のゲームに比べれば物語の分岐も行わない「小説」の一表現としてお客さまに楽しんでいただくためには何が必要か、という判断には悩ましいところがありました。

 その中で、方針としたのは「盛る」のではなく「削ぐ」ということでした。多くの場合あれもこれもと多くの機能を盛り込み、「使いやすい」ようにしたつもりが、「使いにくい・分かりにくい」になってしまう場合が多くあります。言ってみれば、ボイノベの「小説から声が出る」という単純な表現を十分楽しんでいただける仕組み作りには、かなりの時間とノウハウを投入しています。

 今回の開発では、今後のボイノベタイトルの制作環境(オーサリングシステム)の開発も同時に行っています。いわば、ボイノベ第1作となった『テイルズ オブ ヴェスペリア-断罪者の系譜-』上・中・下巻は、そのオーサリングシステムを使用して制作する第1作でもありました。そういう意味では「これからこの制作システムをもっとよいものにしないといけない」という思いで、作品の制作とオーサリングシステムの機能向上を同時に行ったことは注力点でもあり、苦労でもありました。

 多くのメンバーの大変な努力で、これから継続的に、かつ大規模に活用していくことが可能な仕組みを作り上げることができました。ボイノベのビジネスを今後よりよく行っていく礎となったと考えています。

―― ボイノベは原作に対してどういった位置付けとなるのですか。

鈴木 いまのところボイノベプロジェクト側としては「小説としての面白さを提供できる内容にしたい」という以上の希望はなく、逆に言えば、それが損なわれるような内容・表現は行うべきではないと考えています。

 ゆえに、ボイノベで出していく作品それぞれによって、最も楽しんでいただけそうな内容を選んでいくことが優先で、位置付けはそのタイトルごとに異なってくるかと思いますが、少なくとも今回、また予定している次回作の2作は、ともに「そうきたか!」とお客様に思っていただけることが重要と考え、内容の選択をしました。

―― サロンではファンによるオフ会が開催されたようですが、ボイノベ側がリアルイベントなどを実施する予定はありますか。

rmfigvoice1-2.jpg ファンの交流を目的とした掲示板。運営スタッフが常駐しているため、初心者でも安心して利用可能

鈴木 サービス開始から2カ月経たないうちにオフ会が開催されたようで、大変に驚きつつもその盛り上がりに感謝しております。常駐スタッフが最終的にはとりまとめて実施したと聞いていますが、この盛り上がりは私たちの予想以上です。現在も、第2回のオフ会の企画が進んでいると常駐スタッフから報告を受けています。

 現在のところ、当社として公式でイベントを開催することは予定していませんが、ボイノベのタイトル数が多層化してきた際には、何らかの形で感謝をお伝えする場を持てたらという話はプロジェクト内でも出ています。ですが、それはまだ先のことと考えています。

 サロンは、あくまでお客様同士での交流をよりよくしていただいて、ボイノベへの感想を話し合える場所になればとの思いで設置しました。いわば、「映画を見た帰り道に、喫茶店で感想を話し合う」みたいな感じです。ですので、共通のボイノベ読書体験を通して、実際のオフ会にまでたどり着いていることは本当にうれしく、感謝しております。

電子書籍ではまだまだめずらしい「貸し借り」のサービス

―― 電子書籍を貸し借りできるサービスは、まだ実装している電子書店も少なく新しい試みだと思います。回し読みは読者にとってはうれしいですが、購入数が減る心配もあるかと思います。その辺りはどのようにお考えでしょうか。

鈴木 ありがとうございます。今回、ボイノベの「貸し借りシステム」はプラットフォームサイドから機能実装の承諾を得られるかどうかも含めて、社内でも大きなチャレンジであると認識していました。結果として、多くのお客さまに使っていただける新しさを切り開けたかと思っています。

 また、SNS上でもお友達にボイノベを借りた(貸した)などの発言を見ることが増えてきています。そうやって貸し借りを通して、お友達や新しい仲間を増やしていけるのは、「本」や「物語」が持つ力だと思いますし、それが実際に表れているというのはうれしいことです。

 なお、ビジネス上での損失は確かに「貸し借り」によりそのタイミングでの購入数は減る可能性もありますが、最終的にはビジネス側にも有益な結果となると私たちは考えています。

 開発時にこの仕様の意味を説明するに当たって、「例えば、中学・高校時代に漫画の1巻を貸し借りした結果、続刊を買うようになった」という経験の話になりました。ですがこれは、物理的な書籍の時代での経験です。

 ボイノベでの「貸し借りシステム」の実装は、旧来書籍のメタファとして既存経験の再現をしているという部分はありますが、最も再現したいのは上記の経験となります。現在3カ月の運用でもログ解析の結果、ほぼこの仮説は実証できていると考えています。

―― ボイノベでは、配信作品の声優が出演する「ボイノベレイディオ」を聞くことができますが、過去に配信したものをアプリ内で聞くことはできないのでしょうか。

rmfigvoice1-3.jpg ナレーターの三村ロンドさんがMCを務めるラジオ。毎回ボイノベに出演した声優がゲストで登場する

鈴木 現在のところ配信は予定していません。これも観念的な部分で実現したいことがあったからですが、お客さまからのアーカイブ聴取に関する要望を多くいただいたことと、現代的なコンテンツの運用方法として当然の部分を実現したく、当社のネットワークサービス「FUNラジオ」では、過去回を含む配信を開始しました。

 すでに多くのお客さまにこちらも楽しんでいただいており、このFUNラジオでの認知でボイノベアプリのインストールや購入を行っていた事例も多く認識しています。こういった部分は、従来の書籍やラジオのメタファ的な解釈と実施にこだわらずこれからも実施していきたいと考えています。

―― 今後、ボイノベ作品を紙の本として刊行する可能性はありますか?

鈴木 今のところ、ボイノベプロジェクトでのビジネスフローとしては考えていません。あくまでボイノベとして制作していますので、そこでのビジネスと結果のために制作しています。

 ですが、これもボイノベにした各タイトルそれぞれの特性や展開として必要と考えた場合、紙の本としていくことは否定しません。その結果、ボイノベ版も買っていただくようになった、という事例も多く発生するのではないかとの予想もしています。

―― 次回作はテレビアニメ「アイドルマスター」の劇中劇『無尽合体キサラギ』だとお聞きしていますが、待っているファンの方々に向けてお届けできる情報はありますか?

鈴木 内部的には、小説原稿が仕上がったところです! ヴェスペリアと同じく、ファンのみなさんに愛していただいているアイドルマスターでありテレビアニメからのスピンオフである『無尽合体キサラギ』ですので、絶対の完成度を持った小説をボイノベにしてお届けしたいと考えています。

 ボイノベのよいところの1つとして、小説やイラスト、音声という要素が完成すれば、ゲームに比べると開発期間が比較的短くて済むというところがあります。しかしそれと同時に、各要素に凝(こ)れば凝るほど泥沼のように凝れてしまうというところもありまして(笑)。

 少なくとも、プロデューサーとして今回の小説原稿を読んで「これはいける!」と心から思った、ということはお伝えしたく思います。ご期待ください。なお、お読みになるときはハンカチをお忘れなく!

広がりを見せる「ボイノベ」という名称

―― 今後、ボイノベに新たに実装予定の機能はありますか?

鈴木 技術的に実現できる機能増強は数多くありますが、段階を追って実装を進めたいと考えています。少なくとも、現段階でのボイノベアプリには一通りの機能実装を行っていますので、今後については利便向上が目的になります。

 ですが、これも先だってお話させていただいた「盛る」のではなく「削ぐ」の考え方に基づいて、必要最小限で十分な機能を見極めて搭載していきたいと考えています。

 なお、時期はまだ検討中ですが、しおり機能やページジャンプ機能の実装は優先度高く考えており現在準備中です。

rmfibvoice1-1.jpg ボイノベのプロデューサーを務める鈴木氏

―― これからのボイノベの展望についてお聞かせください。

鈴木 ボイノベプロジェクトでは、今後ビジネスの展開を3フェイズに分けて考えています。現在はその第1段階に当たり、当社の人気タイトルのボイノベ化を進行させています。これは、今後のフェイズでも継続していきます。

 ですが、ボイノベという表現自体は大変応用範囲が広いことを今回のサービス開始よりお客さまの評価から十分確認しています。また、お客さまの中ではボイノベという言葉がびっくりするくらい早く一般用語化している様子も感じられ、驚いています。「ヴェスペリアのボイノベっていうのが出たらしいよ」だけではなくて、「ヴェスペリアのボイノベが出たんだって!」というように(笑)。これは大変うれしいことです。

 このボイノベという表現方法、貸し借りシステムも含めたすでに実現している仕様とアプリ、ビジネスの考え方、表現の思想をもって、より広くお客さんに楽しんでいただけるサービスに育てていきたく思っています。

 「小説なのにグイグイ読める! 声つきだからどっぷりハマる!」バンダイナムコ公式ボイス付き小説、ボイノベを今後ともどうぞよろしくお願いします。ご期待ください!

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