インタビュー
» 2014年03月19日 10時00分 UPDATE

電子から紙への大跳躍(グレートリープ)――『オービタル・クラウド』藤井太洋さんに聞く (1/2)

『Gene Mapper』でKindleストア「ベスト・オブ・2012」小説・文芸部門1位を獲得し、「第7回 JEPA電子出版アワード」で選考委員特別賞を受賞した藤井太洋氏が次に送り出したのは『オービタル・クラウド』。制作秘話や電子出版の意義について話を伺った。

[まつもとあつし,eBook USER]

 近未来を舞台にし、拡張現実や作物工場などの情景を精密に描いた『Gene Mapper(ジーン・マッパー)』。2012年7月にまずセルフパブリッシングでの電子書籍が発表され、翌年4月に全面改稿された『Gene Mapper -full build-(ジーン・マッパー フルビルド)』が早川書房から発売された。

 それからわずか約10カ月で、今度は宇宙を舞台にした『オービタル・クラウド』を送り出した藤井太洋氏に、ネットをフル活用した物語のつむぎ方から、電子出版の意義まで幅広く聞いた。

物語でも現実でもITの力を駆使

―― 今回、宇宙をテーマに選ばれた理由は?

『オービタル・クラウド』 『オービタル・クラウド』

藤井 セルフパブリッシング版のGene Mapperを書き終えたころ、NASAのデータを使ったデータハッカソン(アプリ開発イベント)に参加したんです。取材というわけではなくて、ISS(国際宇宙ステーション)の現在地をGoogleマップ上に表示する「GoogleSatTrack」を公開している友人(柏井勇魚氏)と一緒にコードを書きに。そこでの体験がきっかけですね。

 天文台にあるような大型望遠鏡などを使わず、ITの力を駆使して「データで宇宙を見ている人たちがいる」ということを知り、資金のない個人であっても新しい発見のできる時代が来たと実感しました。そこで、宇宙に向かう純粋な個人の情熱と、その利権を巡る国家の思惑、これらをテーマに物語を書こうと。

―― 日本、米国、イラン、北朝鮮など国家やそれぞれの情報機関、そこでの役回りを背負った人物たちが登場し、物語が進んでいきます。取材など手間が掛かったのではないでしょうか?

藤井太洋氏 藤井太洋氏

藤井 宇宙についての考証は柏井さんにもお願いしましたが、実は海外での取材は行っていません。インターネット上の公開情報に徹底的に当たって書いています。例えばイランの科学者のブログやFacebookを追いかけたり、F-15の操作手順が書かれたPDFを探し当てて読み込んだりしました。ASAT(衛星攻撃兵器)の描写などは先日亡くなったトム・クランシーの『レッド・ストーム作戦発動』から影響を受けた部分はありますが、基本、現在ある技術が6年後に使用されている姿を想定して、調査した上で書いています。

 「アラブの春」を国際的に支援することにもなったGoogle翻訳のペルシア語対応を利用して、わたし自身もTwitterと連携したツールを作って公開していました。利用者のそのツールのIPをたどって、活動を調べたりしましたね。「おー、まだWindows98を使ってるんだ!」という発見があったりとか(笑)。

―― 執筆にはどれくらい掛かったのでしょう?

藤井 2012年5月のハッカソンから下調べや下書きを行いつつ、会社を辞めるきっかけとなったGene Mapper -full build-に向けた全面改訂を行った後、2013年7月から本格的に書きはじめました。

―― 約半年で、あのボリュームの作品ですか。筆の早さもさることながら、調査に利用したネットというツールの効果もあったようですね。随所に「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」や「Unity(ユニティ)」のような専門的なガジェットやツールが登場するのも印象的でした。

藤井 裏設定も含めるとあのボリュームどころか、ページ数が1000枚くらいあったんです(笑)。そこから削りに削って、今のボリュームになりました。ガジェットも、一部の人にとっては面白くても、ついていけない人がいるようなものは登場させていません。例えば、FPGA(プログラミング可能なCPU)にしたかったものをラズベリーにした、とか(笑)。あと、そのガジェットを知らなくても、何となく「そういうすごいものがあるのだな」という理解で読み進められるように工夫はしてあります。

wmtaiyo_03.jpgwmtaiyo_04.jpg 本邦初公開。事細かに時間軸や登場人物の動きなどが書き込まれたストーリーマップ。泣く泣く削った設定も

―― 世界から認められる技術を持ちながら、シェアオフィスでWeb制作をしながらどうにか生計を立てている主人公たちの姿が、現代の若い人たちと重なります。小説の中の彼らは、やがてそこから飛び出さざるを得ない展開が待っているわけですが。

藤井 サラリーマン時代に何度か米国に出張した際、起業する若者たちと、そこに投資するエンジェル(個人投資家)たちの熱狂を目の当たりにしました。大失敗もありますが、全体を覆う情熱の熱量の違いに驚かされます。そういう場に才能ある人が飛び込めば、花開くことは当然あるだろうと。互いを、まずは認め合う文化があると思うんですね。GoogleSatTrackがまさにそれで、日本人が作ったツールがNASAで大々的に使われているわけですから。そういった世界を物語として提示したかったという思いはありますね。

GoogleSatTrack satellite tracker on googlemaps GoogleSatTrack satellite tracker on googlemaps
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