インタビュー
» 2013年05月28日 16時43分 UPDATE

大ヒット『月とにほんご』作者・井上純一さんインタビュー (1/2)

大人気ブログ『中国嫁日記』の書籍化が大ヒット中の井上純一さん。ご本人に出版の裏話や生活の様子などを伺いました。

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 40代でオタクの日本人男性・井上(ジンサン)と、20代の中国人女性・月(ユエ)がお見合いを経て結婚! そんな夫婦の生活の4コママンガが掲載されている大人気ブログ『中国嫁日記』は書籍化され、シリーズ50万部を突破している。

 そして、このほど15万部を突破した『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(アスキー・メディアワークス刊)は、ジンサンと月、そして月の日本語学校の仲間たちの日常を中心に描きながら、“日本語の不思議”を解き明かすコミック。中国人から見た日本語や、日本語学校の様子が描かれており、とても興味深い一冊だ。

 今回は著者の井上純一さんをお招きし、『中国嫁日記』の大ファンでもある新刊ラジオ・ブックナビゲーターの矢島雅弘がインタビュアーとなって、お話をうかがった。

自画像を変えるとネタが出てこなくなる? マンガ家の不思議な特性

fhfiglc327.jpg 大ヒット! 『月とにほんご』作者・井上純一さんインタビュー

矢島 さっそくですが、『月とにほんご』についてお話をうかがっていきたいと思います。まず、この本を出版されたきっかけを教えていただけますか?

井上 実は出版業界には「日本語」本というジャンルがありまして。その手のジャンルの本は結構売れていて、『日本人の知らない日本語』は有名ですよね。で、中国人が日本語をどう理解するのか、中国人から見た日本を描くというコンセプトをいただいて描いたというところです。

 でも、これも凄い話なんですが、実は月が日本語学校に通うかどうか決めるころにはすでに書籍化しようと思っていました。『中国嫁日記』の1巻に描いた、いつかこれを本にしてやろうと思って日本語学校の月謝1カ月10万円を出したというのは本当です。

矢島 そして実際に決まったのはすぐだったんですか?

井上 そうですね。一週間か二週間後には書籍化が決まっていました(笑)。ただその後、執筆にすごく時間がかかりまして、月はとっくに日本語学校を卒業しているんですよね。東日本大震災の話も出てきますし。

矢島 ブログでもその話題は出てきていましたよね。例えばワダ先生をおばさんに描いてしまった話とか。

井上 最初は月からの伝聞で描いていましたからね。実際の授業風景がちゃんと分かったのは後半部分で、ワダ先生に取材するまではお会いしたことがなかったんです。後、細かく読んでいただくと分かると思いますが、最初に書かれている教室の様子と、後半で描かれている教室の様子も全然違いますよ。キャラクターではソンヒくんは顔が全然ちがいますね。最初に韓国人の美少年がいると聞いたときに、頭に浮かんだのがラインハルトだったので、外見がなんとなくラインハルト寄りになったんです。

矢島 それは『銀河英雄伝説』のラインハルト・フォン・ローエングラムですね(笑)。そういえば若いころのラインハルトに似ています!

井上 似ているでしょ? だからどうしてソンヒくんが金髪なのかというと、染めていたわけじゃなくて、僕が美少年のイメージそのままに描いちゃったからなんですよ(笑)。マンガって途中でキャラを切り替えることができなくて、一度キャラ立てした後に顔の形を変えると、そのキャラを認識できなくなってネタが出てこなくなるんです。

矢島 なるほど、井上さんの中でもう揺るぎないものになってしまっているんですね。

井上 そうですね。マンガ家はキャラクターの外見にも支配されていて、その外見を変えてしまうとキャラクターが崩壊してしまうんです。もちろん、真実に近い外見であれば直すのですが、あくまでマンガは誇張の部分もあるので、キャラクターの遊離があまりにも起きすぎるとそのままにします。

 ゆんちゃんはセレブ妻で銀座の豪邸に住んでいて、この先も中国嫁日記の方に出続けているのですが、実は顔がまったく違うんです。完ぺきに違います。本人が『ゆんちゃんです』といっても、たぶんみんな分からないと思いますよ。それはなぜかというと、ゆんちゃんが最初セレブ妻と聞いて、僕がそこからイメージした絵を描いたからです。

矢島 では、ワダ先生はまだ追いついて直した、と。

井上 ネームを描いている時点で、若いということに気づいて書き直したんです。もし、取材が少し遅れていたらそのままだったでしょうね。混乱しちゃうから。

矢島 その混乱を打ち破れるのは、ゆでたまご先生くらいですよね(笑)

井上 そうですね。前の展開をなかったことにできるマンガ家っているんですよ。特に週刊連載を持っているマンガ家は多いですね。例えば、持ち込んだ棺桶が2つあったことになって生き残るディオとか(笑)。

矢島 ああー(笑)

井上 荒木飛呂彦先生にとっては間違いなくその瞬間、棺桶は2つあったと信じている、もしくはお嫁さんが入って逃げた棺桶のことをさっぱり忘れてしまっているはずなんです。

 作者がそう信じることでマンガに説得力が出てくるんですよ。少しでも不安心みたいものが見えると、瞬間的に説得力がなくなります。だからマンガは信じる力みたいなものが作者に必要なんです。

矢島 なるほど!

井上 だから、マンガでルポルタージュを描くのは難しいんです。真実を伝えるということですから。真実になるとどうしてもつまらなくなってしまうんです。

 もちろん描ける人もいますが、かなり特殊な能力だと思いますね。それくらいすごいことなんです。たいていは誇張するか、どこかうそをついている、もしくはうそを本当に信じ込んでいないと描けないよと思いますよ。

矢島 中国嫁日記でも、4コマの枠の下のところに月さんが『わたしはこういってない!』という訂正が入っていたりしていますよね。

井上 それは僕と月の見ている世界が違うからでしょうね。そこを月が見たように描き直すとつまらなくなってしまったりするので、読んでいる方に類推してもらうしかないですね。

矢島 実はこのインタビューはスカイプでつないでお話をうかがっていて、画面上には井上さんの画像が表示されているのですが、最初自分をキャラクターとして描いたときから、ちょっと痩せたデザインになってきているんじゃないですか?

井上 そうなんですよね。この自画像をつくったのが実は高校生のときなんです。で、これが問題なんですが、『中国嫁日記』や『月とにほんご』の主人公って月ではなくて、僕なんです。

 で、セオリーでは主人公は見栄えが良くないといけないので、読者が感情移入しやすいように顔を変えるつもりだったのですが、顔を変えたらまったくネタが出なくなったんです。だからマンガ家はマンガの中で自由に描けないんですよ。自画像ですらそうなってしまう。面白いなぁと思いますね。

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