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» 2013年05月22日 08時00分 UPDATE

Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングを試す(制作編)

個人でも簡単に出版できると話題のKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)。しかし、実際に作業してみると、そこにはトラップもあり、あまり知られていないノウハウもある。これは、KDPという肥沃な大地につながる荒野を熱意と知恵で乗り越えていく冒険の軌跡である。

[鷹野 凌,ITmedia]
tnfig000.jpg Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング

 以前、KindleやKoboへ個人作品を連携配信できるパブーのプロ版についてレポートした。外部ストア連携では、配信開始時期やデータの差し替え、売れた冊数が把握できるまでに時間が掛かるという課題を挙げた。こうした点は、著者自身がKindle ダイレクト・パブリッシング(以下、KDP)で出版することで、その多くは解消できる。

 しかし、実際に自分でやってみると、さかんに喧伝されているほど簡単ではないことを嫌というほど思い知らされる。そこで、本稿では「制作編」として、配信するデータの作成時に注意したい点や、筆者が作業上つまづいた点をレポートしたい。実際に販売する際の注意点は、「配信編」として別途紹介するる

どういうファイル形式で制作すればいいか?

 KDPがサポートしているファイル形式は、Microsoft Word、HTML、XMDF、そしてEPUBだ。このうちXMDFは、制作ツールが企業向けへの提供に限定されているため、必然的に個人での利用は対象外となる。また、Wordの日本語文書の変換は試験的導入段階で、まだトラブルも多いようだ。HTMLに慣れているのなら直接記述していくのも手だが、HTMLの派生形であるEPUBで制作するのが全体的な効率としてはよいように思う。

 作りたい本がマンガや写真集で、Kindleストアだけの配信でよい場合、Amazonが提供している「Kindle Comic Creator」を使うのが一番確実だ。Kindle Comic CreatorはWindows/Mac OS X版がKDPのヘルプ「KDPツールとリソース」から無料でダウンロードできる。Kindle Comic Creatorで出力できるのは、Kindleストアの独自ファイルフォーマットであるKindle Format 8(KF8)形式のみなので、Kindleストア以外でも配信するつもりであれば制作環境としては適していない。

 結局のところ、KF8はEPUBをベースにしたファイルフォーマットなので、Kindleストア以外での配信も考慮したなるべく汎用性が高い形で、想定した通りのレイアウトで配信するためには、現時点ではEPUBでの納品が最も望ましいということになる。そこで問題となるのは、そのEPUBをどうやって作るかだ。

「どういう本が作りたいか?」で適した制作環境は変わる

 本にはさまざまな形態がある。文章主体の本もあれば、マンガや写真集のような本もある。縦書きの場合は右開き、横書きの場合は左開きになる。文章主体の場合はリフロー形式、マンガや写真集の場合は固定レイアウトのEPUBを制作することになる。筆者が制作した本は、Webサービスのガイドブックということもあり、図版と文章が混在する少し複雑なレイアウトのリフロー形式だ。

 パブーで制作する場合、ブログを書くのと同じような感覚でEPUBやPDFが出力できる。著者側も難しいことを考えずに作業できるのはよいが、縦書きに対応していないのと、EPUBで出力する場合はルビが外れてしまうので、そうした本を考えているのなら別の環境が必要になる。

 しかし、縦書きの本を作ろうと思うと、とたんに難易度が跳ね上がる。例えば数字やアルファベットをどう表記するか、ルビはどうするか、図版と文章の配置やキャプションをどうするかなど、考慮しなければならないことがたくさんある。

 筆者は当初、縦書きレイアウトに挑戦してみようと考え、Web上で縦書き文書が制作できる「BCCKS」というサービスを試してみた。BCCKSのエディタはかなり高機能で、BCCKS専用フォーマットであれば地の文は縦書き・図版のキャプションは横書きというレイアウトも可能だ。


tnfig001.jpg BCCKSの編集画面
tnfig002.jpg BCCKSのプレビュー画面

 地の文は縦書き・図版のキャプションは横書きというレイアウトで何とか完成させたのだが、EPUBで出力したところ、横書きにしておいた図版のキャプションは、縦書きに変換されてしまい、縦書きと横書きが混在したレイアウトでは出力できなかった。さらには、縦書きEPUBで図版の下に文章を回りこませるようなレイアウトは、ビューワによって再現できない場合があることも知り、縦書きレイアウトは断念することにした。

 大半が文章でイラストは数点という構成の本であれば、BCCKSは無料で利用できる縦書きEPUB制作環境として重宝すると思うし、BCCKS専用フォーマットで出力するなら意図した通りに出力できる。今回はEPUBでの出力を前提にしていたこともあり、ここでBCCKS以外の選択肢を探すことにした。

 文章主体の本を作るのであれば、「電書ちゃんのでんでんコンバーター」を利用してEPUBを出力するのも有力な選択肢の1つだ。EPUBの検証ツールとして知られる「epubcheck」をパスする“正しい”EPUBが出力できる。

 多少コストをかけても構わないのであれば、ジャストシステムの「一太郎 玄」や、EPUB形式専用オーサリングソフト「FUSEe」といったツールを使うのもいいだろう。結局筆者は、複数の制作環境を渡り歩いた果てに、「EPUB形式専用ツールで制作すれば問題は出ないだろう」と考え、FUSEeを購入することにした。

専用ツールで出力しても問題は発生する

 ところが、FUSEeで出力したEPUBをそのままKDPへアップロードしたところ、販売開始後に2つ大きな問題が見つかった。1つは「目次が表示できないこと」、もう1つは「改ページしているつもりができていなかった」のだ。


tnfig003.jpg [移動]メニューから[目次]が選択できない
tnfig004.jpg 「1. Googleのサービスメニュー」の上で改ページするつもりだった

 先に断っておくと、これはFUSEeの問題ではない。きちんとebubcheckで検証したり、動作検証をせずに、そのままKindleストアへ出してしまった筆者が悪い。また、複数の制作環境を渡り歩いたことがたたって、FUSEeに取り込む前の段階で既にかなり難のあるデータになっていたようだ。

 実際、Web上でebubcheckができる「EPUB Validator (beta)」を使ってみたところ、うんざりするほどエラーが見つかった。逆に言えば、そうしたクオリティの低いデータでも、KDPでは販売できてしまうのだ。エラーの多くは<head>タグ内で指定している要素がおかしいとか、<p>タグなどがちゃんと入れ子構造になっていないというものだった。目次が選択できないのはKindleストア向けのファイルには特殊な記述をしておく必要があるからで、改ページは指定の仕方次第で対応できないビューワもあることを知るのは少し後のことだった。

 たまたま筆者は、EPUB制作を専門にしている方々と知り合う機会に恵まれたおかげで、どう対処すればよいかを教えてもらうことができた。そうでなければ、恐らく”正しい”EPUBを完成させることは諦めていたかもしれない。正しくなくても、販売できてしまうのだから。しかし、品質の低いデータを販売することは、制作者のみならずストアの信頼性をも貶めてしまいかねない。少なくとも、ebubcheckでエラーの出ない”正しい”EPUBで納品することは、著者として最低限やらねばならないことだろう。

 ebubcheckでエラーが出なくなったら、次にKindle PreviewerでKF8に変換して確認しておこう。EPUBはiPadとNexus 7両方でざっと検証したが、KF8に変換した際にどうなるかという検証を省いてしまったので、目次が選択できないことを読者から指摘されて初めて気づくことになった。


tnfig005.jpg Kindle Previewerも無料でダウンロードできる
tnfig006.jpg Kindle Previewerでの変換はすぐに終わる

 Kindleで目次を有効にするには、目次ファイルであるnav.xhtmlの</body>の前に、以下のような記述を追加しておけばいいそうだ。こちらは、電書ちゃんでお馴染みのイースト高瀬拓史氏によるプレゼン資料「EPUBのナビゲーションを理解しよう」が参考になる。

<nav id="landmarks" epub:type="landmarks" hidden="hidden">
<ol>
<li><a epub:type="cover" href="cover.xhtml">表紙</a></li>
<li><a epub:type="toc" href="nav.xhtml">目次</a></li>
<li><a epub:type="bodymatter" href="titlepage.xhtml">本文</a></li>
</ol>
</nav>

tnfig007.jpg Kindle Previewerでも右上の目次メニューが利用できない状態だった
tnfig008.jpg Kindle Previewerで無事に目次が開けるようになった

 これ以外にも、陥りやすいポイントはいくつもある。例えば、文字の大きさや背景色、行間・フォントの種類などは、ユーザーがEPUBビューワ上で任意に設定変更できる。例えば文字色を黒と指定してしまっていると、ユーザーが背景色を黒にしたときに、字が読めなくなってしまうのだ。


tnfig009.jpg Android版Kindleで、文字サイズ最大にした表示
tnfig010.jpg 背景色をセピアに変更し、文字サイズを最小にした表示
tnfig011.jpg 背景色を黒に変更し、文字サイズは中間にした表示

 また、Kindleストアでは、文中に外部へのリンクを貼ることは問題ないが、Amazonアソシエイトのリンクを貼るのは禁じられている。こういった問題点は、KDPにアップロードした段階でAmazonがチェックするが、チェックをすり抜けて販売開始されてしまう場合もある。後で発覚すると、強制的に販売停止されてしまうので要注意だ。

tnfig012.jpg My Kindleから新しい版へ更新できる

 紙の印刷物とは違い、電子データは差し替えが容易なことがメリットとしてよく挙げられる。実際KDPでも、著者がデータを差し替えるのは簡単だ。しかし、KDPでは著者がデータを差し替えても、差し替える前の版を購入した読者の手元にあるデータは、自動では差し替わらない。

 まず著者は、データの差し替えと併せて、Kindleサポートへ修正点があることを報告しなければならない。そして、Kindleサポートに大幅な修正と判断された場合は、購入済み読者へメールで案内が送られる。小さな修正と判断された場合は、メールは送られない。そのレビューには、最長で4週間掛かる。そしていずれの場合も、購入済み読者はWebで[My Kindle]メニューを開き、手動で更新しなければならないのだ。メールが送られた場合ならともかく、[My Kindle]メニューを頻繁に見るユーザーは少ないため、差し替えがあったことに気づかない可能性が高い。だから著者としては、なるべく差し替えが発生しないように、事前に入念に確認しておくことが大切だ。

 ともあれ、本の中身を「書く」だけではなく、「編集」や「制作」の工程まですべてを自分でやるのがダイレクトパブリッシングだ。道具がいろいろ用意されていたとしても、それを扱う人間が怠惰であればどうにもならない。結局のところ、どこまで品質にこだわるかは、著者次第なのだ。すべてを自分でやるということは、そういうことだ。

 クオリティの低いデータを販売して、売りっぱなしで終わるというのも選択肢の1つだ。ただ、筆者ならそういう著者の本は、仮に内容が面白かったとしても二度と買う気が起きない。逆に、販売後に見つかった問題点を手間暇掛けて修正し、差し替える誠実な対応をしてくれたら、たとえ内容が凡庸だったとしても、次の本も買ってみようと思うかもしれない。そうやって自分のファンを少しづつでも増やしていく努力が、これからの著者には必要なのではないだろうか。

著者プロフィール:鷹野 凌

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 フリーライター。ブログ「見て歩く者」で、小説・漫画・アニメ・ゲームなどの創作物語(特にSF)、ボカロ・東方、政治・法律・経済・国際関係などの時事問題、電子書籍・SNSなどのIT関連、天文・地球物理・ロボットなどの先端科学分野などについて執筆。電子書籍『これもうきっとGoogle+ガイドブック』を自主出版で配信中。

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