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» 2012年06月20日 11時30分 UPDATE

隣接権議論は“出版”をどう変えるか――福井弁護士に聞く(後編) (1/4)

時代に合った著作権とは何か。現在進められている著作権法の改正議論について、その全体像をつかむ本特集。知財に詳しい福井健策弁護士に話を聞いたインタビューの後編では、現在の課題をさらに深く考える。

[まつもとあつし,ITmedia]

 隣接権問題についてのインタビュー特集。漫画家の赤松健氏に聞いた「赤松健は隣接権とそれを巡る議論をこう見る」に続き、第2回では主に法制度の観点から福井健策弁護士に見解を聞いている。

 前編に引き続きお届けするこの回では、さらに問題の深遠に足を踏み入れ、目指すべき方向性を考える。ロングインタビューだが、ぜひ前編と併せてご覧いただきたい。

福井健策(ふくい・けんさく)

福井健策

弁護士(日本・ニューヨーク州)骨董通り法律事務所代表パートナー 日本大学芸術学部客員教授

1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についても積極的に論じている。著書に『著作権の世紀 ――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)などがある。「自炊」についても多くのメディアでコメントし、ニコニコ生放送『ネットの羅針盤』『「自炊」と電子書籍』にも出演。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中

骨董通り法律事務所Webサイト


劣後する禁止権という解決策

―― 一部では、海賊版対策に限った隣接権の付与を探る動きもあるようですね。ただ、本来、ほかのコンテンツ産業で成立している隣接権の持っている機能や意味を考えると、そこに留まるのかという疑問もあります。

福井 これはあくまで思考実験ですが、例えば作家がYesといっているものは邪魔せず、(作家も許していない)海賊版の取り締まりだけできればよい、ということなら、隣接権として「劣後する禁止権」を取り入れる選択肢もあるでしょう。

 いわば二次的な知的財産権です。「作家の同意がないと出版社の著作隣接権は行使できない」という感じにする。こうすれば訴権はあるので出版社は原告になれる。ただ作家の同意書を訴状にくっつけて訴えを提起する。それがなければ行使できない、とすればよい。

eBook USER西尾 そういった仕組みは音楽業界にはあるんでしょうか?

福井 ないでしょう。だから作詞家・作曲家がいくらOKを出しても、原盤権者がOKと言わないためにお蔵入りになってしまっているレコードもざらにある。それが常に悪いと言っているのではありません。原盤権者には歌手・ミュージシャンの事務所もいます。作家の意向で作品のお蔵入りが許されるなら、アーティスト側の意向でお蔵入りになるケースもあるでしょう。ただ、できるだけ死蔵が頻発しないような仕組みは必要ですよね。

 つまり、出版社にとって本当に大事な目標は何なのか。それによって、獲得すべき権利の内容や獲得のための手段は変わる、という話です。隣接権で獲得するのか、契約で個別に獲得するのか。また、推進する側も反対する側も同じ「隣接権」という言葉を使っているんだけど、想定している権利の内容は大違いということもある。出版社の目標は何であり、それは作家の懸念と両立できるのか。そこは整理が大切。

 ……もっとも、「何か権利をあげると、テコにして次はもっと強い権利を取られてしまうかも」と言われると、それを完全に払拭するのは難しいですね(笑)。

独占ライセンシーに訴権を与える

福井健策 「契約こそが本丸」と福井健策弁護士

―― しかし、隣接権という枠組みでしか、目的は達成できないものなのでしょうか?

福井 手段はいろいろあるでしょう。海賊版対策なら、独占ライセンシー(独占的な契約を結んだ会社)に法律で強い権限を与える。訴権も与えるという対策もあります。やはり法改正が必要ですが、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどでは実際認められています。これは出版界に限らず全ジャンルの問題として、私もライセンシーの保護強化は必要だと思います。

―― ということはそれ(独占ライセンシーに訴権を与える)でいいじゃないか、ということにはなりませんか?

福井 選択肢にはなる。いわば契約を結ぶかは当事者の個別交渉に任せて、いったん契約を結んだらそれを法律で強化してやる方向です。私自身は、以前から契約こそが本丸で、それを補完するための法改正、という選択肢を挙げていました。出版社の希望は分かるが、版面権的なものは「総付け」の権利だけに、反発が強い割に得るものが少ない方向に行きやすいですよ、と。

 独占ライセンシーに訴権を与えるという解決策は、ほかの問題にも解を与えてくれます。隣接権だとほぼ版面にしか及びませんが、独占契約は違う。例えばある作家が出版社との契約(許諾)に反して、別な電子書店での出版を強行した場合、版面でなくテキストや原稿からの出版であってもその電子書店を訴えることが可能になります。その意味では、版面にしか及ばない隣接権よりも効果は大きい。

―― 確かに独占ライセンスを前提とするわけですから自然ですね。

福井 ライセンスの供与は作家も合意の上でやっていることです。もちろん新人作家が対等に交渉できるわけではありませんが、それは独立したての弁護士だってそうだし(笑)、世の中押し並べてそうですよね。だからといってどんな契約でもよいという気はまったくありません。独禁法もあるし、白田教授のいうように著作権法自体がおおむね作家優位に設計されている。Arts & Lawのように、十分な交渉力がないクリエイターを守るための仕組みも必要でしょう。ただ、新人の保護を絶対条件にしてしまうと、それはそれで市場の現実にも反するしジャンル全体の活力を削ぎかねない。バランスですよね。

 そして通常、契約は期間が限られるわけです。双方が各人各社の戦略をもって腹をわった交渉をし、契約を結ぶ。その契約に基づいてある期間中は出版社に電子についても独占権を与える、訴権も与える。期間が終わればどうするかまた交渉するというのは、私はひとつのバランスではないかと思います。

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