日本語を紡ぎ、未来へ残す――ジャストシステム、「一太郎2012 承」で電子書籍に進出

ジャストシステムは、2012年2月10日に発売予定の製品群を一挙公開。日本語ワープロソフト「一太郎2012 承」はEPUB 3の作成をサポートし、個人向け電子出版のスタンダードを狙う。

» 2011年12月08日 17時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 ジャストシステムは12月8日、来年2月10日に発売予定の製品群を一挙公開した。日本語ワープロソフト「一太郎2012 承」と「ATOK 2012」を中心に据えた製品群だが、eBook USER的注目は「一太郎2012 承」だ。新たにEPUB 3での出力をサポートしたことで、個人出版の時代における有力な個人向け制作環境になり得るポテンシャルを秘めている。

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日本語表現に関する機能はこれでもかというほど強化

 日本語ドキュメントが持つ縦書きを初めとする伝統的様式の継承と、それを文化として将来に継承する日本語ワープロソフトとはかくあるべきかを考え抜いたという今回の一太郎。同製品には2011年のバージョンからそのバージョンを象徴する漢字が一文字つくようになった。2011年は「創」、そして今回は「承」だ。これが意味するのは上述した2つの「継承」だ。

 多彩な日本語表現に関する機能は重点的に強化され、画面右側にツールパレットとして集約された。章立ての長文編集に威力を発揮し、縦書き専用の連番もプリセットされた「文書編集パレット」、古典文学や文芸分野で用いられる特殊な文字、例えば「仝」「〆」「ゞ」「くの字点」などの文字入力を容易にする「準仮名ツール」、漢文の白文に返り点や送り仮名などを容易に振る「漢文ツール」などがそれだ。目新しいところでは、想定文章量を決めておき、その達成度をバーで可視化する「文字数パレット」などもある。

「一太郎2012 承」の画面。ここでは原稿用紙のテンプレートを用いている。原稿用紙には名入れも可能。画面右側にはツールパレットが確認できる

 なお、「一太郎2012 承」に標準搭載されるフォントはすべてJIS2004字体対応。「異体字ツール」を使えば、JIS90字体の文字が入力でき、「葛」や「辻」も意図した字体で表記できる。また、一太郎2012 承シリーズの購入者特典として、縦書き専用かなフォント「連綿体」を含む、縦書き文書に映えるフォント6書体と、テンプレートなどが用意されている。

ツールパレットには「漢文ツール」やJIS90字体の文字も入力できる「異体字ツール」など表現にこだわりを見せている

EPUB 3のサポートにより個人向け電子出版のスタンダードとなるか

 コンテンツの永続性は汎用的なフォーマットによって担保されると言わんばかりに、一太郎2011 創ではPDFをサポート、そして今回の一太郎2012 承ではEPUB 3をサポートした(書き出しのみ。読み込みはできなかった。テンプレートにはEPUB向けのものも用意されていた)。

 EPUBは電子書籍などの世界で国際標準として普及が進んでいるファイルフォーマット。縦書きなどを含む日本語組版関連のプロパティが追加された最新版の「EPUB 3」は、International Digital Publishing Forum(IDPF)が10月に最終推奨仕様へと引き上げたことで、世界的にも、また、日本の中でもこれから普及が急速に進むとみられている。画面に合わせた文字や図の再配置(リフロー)が行われるのが特徴の1つで、スマートフォンやタブレットなどでもコンテンツが読みやすくなる。なお、世界的にはどちらかといえばプログラマブルなリッチコンテンツを作ることができるフォーマットとして注目されている。

 国際標準であるということもあり、国内の出版社などはこのEPUB 3を積極的に採用していく機運が高まっており、国内の電子書籍ストアでも徐々にではあるがEPUBを取り扱うところが増えてきている。ヤフーの総合電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」などはEPUBを正式採用している。

 こうした状況から、出版社など比較的規模の大きなコンテンツプロバイダーは、その制作環境の整備や、EPUBのマークアップについて議論を深めているが、「個人利用に目を向けるとまだ制作環境は十分に整備されていない」とジャストシステムコンシューマ事業部企画部の大野統己氏は話す。そうした個人向けに文章主体のEPUB3制作環境として一太郎2012 承をアピールしたい考えだ。

 実際、一太郎2012 承でEPUB 3形式のファイルにするのに、特別な知識は必要ない。文章を書き上げたら、ファイルメニューから「EPUB保存」を選択するだけの手軽さだ。以下は、試用版を用いて実際にEPUB出力したものをEPUBをサポートするAppleのiBooksで開いてみたものだ。ルビなどもきれいに出力されることが分かる。

EPUB 3での出力はメニューから「EPUB保存」を選択するだけ
EPUB保存を選択したところ。画面での「キーワード」以下は詳細項目だ。任意の画像を表紙として設定することも可能
作成したファイルをAppleのiBooksで開いたところ。ルビなどもきれいに表現されている

 そして、こうして作成されたものを公開する場として、paperboy&co.と協業、同社の電子書籍配信サービス「パブー」との連携を進めていく考えが示された。パブーは2010年6月に誕生した電子書籍作成販売プラットフォームで、いわゆる個人出版の場として国内でも有数の存在になりつつある。サイト上で直接ブログを書く感覚で出版するような機能も持つが、今回ジャストシステムと連携を深めたことで、一太郎2012 承で書き上げたEPUBファイルをパブーで公開・販売するといったユーザーが増加するとみられる。

 ジャストシステムは今回、個人向けEPUB3の制作環境を一太郎というブランドで世に送り出すことになったわけだが、EPUBビューワを提供する考えは当面ないようだ。「(EPUBビューワを提供する)緊急性はないと考えている」(大野氏)。また、ATOKで提供しているような月額のサブスクリプションモデルで一太郎を提供する考えについても、「辞書などのアップデートが頻繁に行われるATOKとの特性の違いがある」とし、ニーズが高まれば別途検討したいと述べた。

 「一太郎2012 承」に、「花子2012」「Shuriken 2012」や「ヒラギノフォント」6書体などを加えた上位版の「一太郎2012 承 プレミアム」、さらに「一太郎ハンディスキャナー」やOCRソフトウェアを加えた「一太郎2012 承 スーパープレミアム」の3モデルが用意される。それぞれの価格は以下の通り(いずれも税込み)。

製品名 希望小売価格
一太郎2012 承 2万1000円
一太郎2012 承 プレミアム 2万6250円
一太郎2012 承 スーパープレミアム 3万4650円
「一太郎2012 承」の価格(一太郎2012 承には『ATOK 2012 for Windows』も含まれる)

 日本語ドキュメントの世界でリードしていこうとする熱意を一太郎2012 承に込めたジャストシステム。個人向け電子出版のスタンダードとなるか。

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