電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。電子書籍ビューワの開発者が感じる電子書籍市場の現状とは?
―― 画面サイズについてはどうでしょう。Tさんだと、これまではガラケー、いまはAndroid中心ということで、サイズの種類も多そうですね。
T そうですね。ガラケーでは多少の大小はありますがだいたい同じ画面サイズで、解像度は基本的にQVGAとWVGAの2種類ですが、スマートフォンになってから、さまざまな画面サイズと解像度のものが登場しています。片手で持てる小さいものから、GALAXY TabやXOOMなどの大きなものもありますし。物理的な画面サイズが違うと、やっぱり世界が変わってきますからね。
基本的には表示倍率を変えて画面に合わせるのですが、何でも無限に拡大すると粗くなりますし、さらにオーサリング時に「最低限この範囲は表示」「最大はここまで」という設定があるのでそれらを基に表示を計算しています。もともとガラケーは、各キャリアごとに標準とするサイズが違います。コンテンツを作る側はそれぞれのサイズ向けに生成する手間は掛けたくありませんから、1つの元データから別々に最終データを作るという概念を導入しているわけです。
出版社の編集の方からは、「ページで作る方が楽なのは分かっているが、ガラケーで漫画を読んでいる人たちは『デジタルコミック』としてその動きに慣れてしまっているので、ページでは売れない」とよく聞きます。つまり、コマ区切りが標準というデジタルコミックならではの動きに慣れている層が一定数いるわけです。だからといって最初からコマ区切りで制作してしまうと、いざ売れたから単行本化しようという段階で困るわけですが(笑)。
―― 今、デジタルコミックは幾つか種類があるじゃないですか。ページ全体を見せるタイプもあれば、ページを拡大しながら右上、左上、右下、左下という逆Zの順序でスクロールするタイプ、完全なコマ単位で横に長ければスクロールするタイプ、だいたいその3パターンですかね。
T そうだと思います。スクロールについては逆Zに限らず、コマに合わせて読む順番をオーサリングできますね。スクロールするスピードも制御できます。
―― こうしたスタイルが出てきたのは2003年前後ということですが、7、8年経ってこのスタイルに慣れたユーザーが増え、漫画の読者の中でも、コマ分割タイプに慣れているユーザーもいれば、1ページ単位で決められたレイアウトがなじむユーザーもいると。
T そうですね。「携帯で見る漫画はこう」みたいな。ガラケーに関しては、9割はコマ形式での配信だそうです。実際に編集者の方に聞くと、「だってコマが売れるんだもん」という(笑)。製作コストが10倍ぐらい違うらしいので、できればコマ形式で配信はしたくないというお話はよく伺います。
実際に使っていても、iPhoneサイズぐらいだと、まだコマ分割タイプの方が見やすいですよね。ページだと頻繁に拡大しなくちゃならないので。GALAXY Tabぐらいの画面サイズになると、まあいいかなという気になるんですけど。
X 元の漫画がどういう形で描かれているかですよね。元からデジタルコミックを前提に制作されているのならともかく、ページング前提で制作されたものを無理やり切り貼りして、バイブのところでブルブルブルっていうのはちょっと。個人的には、ページングで作られたものはそのまま見たいですね。
―― 携帯漫画のバイブ機能、あれは誰がディレクションしてるんですか。
T 出版社によって外注のオーサリング会社に丸投げもあれば編集者がやることもあったりとさまざまなようです。TVアニメを静止画で取り込んで漫画風に見せるコンテンツなどでは、アニメの演出家の方が絵コンテみたいな感じで細かく演出を入れているそうです。
―― その一方で「これ、やっといて」みたいな感じで紙の単行本をポーンと渡されて、自炊みたいな感じで裁断して、後はお任せというパターンもあると。
T あるようですね。聞くところでは、吹き出しが切れているのをくっつけたり、足らないコマを勝手に描き足しちゃうケースもあるそうです。それはちょっとどうかなとは思うんですけど。海外のオーサリング業者に出したらひどいのが返ってきたという話も聞きますね。
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