ビューワ開発者から見た、電子書籍業界のいま(後編)電子書籍覆面座談会(2/3 ページ)

» 2011年10月07日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

EPUB 3はあくまでもフォーマットで、運用フローはまだない

―― 今、EPUB 3という新しい規格が出てこようとしています。お二人はEPUB 3についてどのような見解をお持ちですか?

X EPUB 3はHTMLの拡張でしょ。HTMLの拡張ということは、HTMLを表示しなくてはいけない。HTMLを正確に表示するためには現状WebKitとかのライブラリを使うしかない。

 でも、文字を表示して横にルビを打つだけなんて、文字を書ければ出ますよね。そこに対してHTMLのレンダラを持ってきて、CSSのレンダラを持ってきて……となると、初めから書けないくらい実装難度が高いんですよね。オープンソースのソフトウェアを持ってきたらいいと簡単に言う方もいますけど、どうやって使っていいか分からないものを持ってきても、うまくはまるか分かりませんしね。今のビューワをEPUB 3対応させたいとは思いますが、実装するのはコストが高いので悩ましいところですね。

T わたしは直接EPUB 3にはタッチしていませんが、組版をそこまで意識しなきゃいけないのかな、という気はします。それと、あんなに仕様が大盛りだと、果たしてそれに合わせたコンテンツが作れるのかなという。

 あと、例えばiBooksは今のEPUB 2でも独自拡張していますよね。だからEPUB 3といっていても、昔のブラウザ問題みたいな、例えばIEだけスクロールバーの色を変えられたりとか、そうなる懸念はありますね。特にEPUB 3はJavaScriptも全部動いちゃうんで、高機能なものを作ろうとすると、挙動もみんな違うし、作るコストも高くなるという。

―― コンテンツについては、紙を前提に制作されたものと、これから増えるであろうボーンデジタルの違いもあるかと思います。例えば漫画なら、既存のものはPDFやZIP圧縮JPEGで見せるとか、あるいはEPUB 3で一手間掛けてコマ単位で切って見せていくかという。それに加えて、今後、何か出てくるかもしれないけど、現時点ではまだ見えてないと。

T そうですね。作り手側もいきなり作れるわけじゃないですからね。EPUB 3はあくまでもフォーマットであって、アウトプットをEPUB 3にする標準的な運用フローはまだないじゃないですか。

X ユーザーにとってはフォーマットなんてどうでもいいですしね。ましてやDRMが掛かっていたらどのフォーマットも無理ですからね(笑)。

T そこがFlashが支持される理由の1つですよね。凝ったものが確実に作れて、しかも実行モジュール込みだからDRMも掛けられる。結局のところ、リッチなコンテンツで作るんだったら、じゃあ、みんな「やわらか戦車」つくるのか、という話になってきますよね。あれは全然違うものじゃないですか。アニメでもない、まあ、パラパラアニメですよね。

X 個人的には、漫画家さんにはそういったものにチャレンジしてもらうのではなく、その時間を使って、好きなように描いてほしいですね。

T 漫画家さんは本を出して初めてまとまった収入になるわけですし、もちろんデジタルコミックがお金になるのならやる人は増えるでしょうけど。何だかんだ言って電子書籍単体で収益を上げている方はそうそういないですしね。

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