── 小沢さんや一色さんは、ケータイコミック向けには作品を出されていましたっけ?
小沢 ケータイコミックはないですね。
一色 出版社の方で出していたと思うんですが、それを見られるガラケーを持ったことがないので、自分では見たことがありません。
小沢 ケータイで読んでると(バイブ機能で)揺れたり、スクロールしたりするじゃないですか。ここはこの動きじゃないのに! というのはあります? 紙の漫画だと、ここはこの書体じゃないよ! いうのがまれにあるじゃないですか。
藤井 作家さんによるんですよ。わたしは編集さんに渡した原稿は、編集さんに好きにいじってほしいタイプです。わたしがいじるとこだわりの部分で我欲が出ちゃうから(笑)。オリジナリティを出したい作家さんもいらっしゃるから、そういう人たちはたぶん指定していると思いますよ。
── ケータイコミックにせよ電子書籍にせよ、コマを分割したりバイブ機能をつけたりするのに作家さんの意向が働いているのか、それとも基本お任せでやってしまっているのかは読者から分かりにくいですよね。
藤井 そうですね。わたしは編集さんに投げたものは好きにしていいよという代わりに、ネームチェックはほとんどないんです。依頼されたものを描いて渡して終了。でも「バクマン」を読んだ人は、編集さんと二人三脚で、夜まで膝をつきあわせて作っていると思うだろうし。
小沢 でもああいう、編集さんと二人三脚で進める作り方は、昔に比べると減った気がしません?
藤井 うめさんのとこはどうやってるの? 奥さんと二人三脚で作ってるの?(笑)
小沢 ええっ(動揺しつつ)
一色 小沢さんは編集さんとの打ち合わせはするんですか?
小沢 「トイボ(注:大東京トイボックス)」は、ネーム前の打ち合わせはありません。「トムソーヤ(南国トムソーヤ)」は、だいたい今週こんなネタね、というのを1時間ほど軽くやるけど、それで終わり。
藤井 わたしもお任せといっても、この人はこうなるみたいな、着地点ぐらいはもちろん話しますよ。
小沢 トイボはそれすら話してないですね。先は誰も分からないのに描き続けてるという(笑)。最終地点は考えてるけど、過程は毎回リアルタイムで考えているという。
── 一色さんはいかがですか。
一色 僕は編集さんがいないとだめですね。編集さんとがっぷり打ち合わせをしないと。
藤井 人によりますよね。そこが編集さんの手腕というか。せっつくとダメな作家もいれば、せっつかないと描けない作家もいるし。
一色 小沢さんは、編集者とがっぷり打ち合わせをして詰めていくみたいな完成度の上げ方のやりとりを、奥さんとの間で通常やってるわけですか?
小沢 そうですね。編集者相手にやるよりもがっぷりやってます。
一色 それがあればいいんですよね。逆にそれがなくて、うめさんや奥さんが単独でやっていたら、やっぱり編集者とがっぷり打ち合わせをして完成度を上げていくことになるんじゃないかなと思いますね。
小沢 編集って、特殊技能というよりも立場、あるいはもともと人に備わっている能力じゃないかと思うんですよ。もちろんプロはプロで、その能力が高い人なわけですけど。
── 小沢さんの場合は、奥さんの妹尾さんとの間でその立場の分担がうまくできているということなんですよね。
小沢 そうですね。僕は妹尾に、「編集者スキルを上げて」というのを昔よく言っていたことがあって。向こうのアウトプットに対しては見れるので、後は自分が出したアウトプットに対して向こうが見て編集的にチェックしてもらうと、完成度が上げられるんですね。
── 一色さんは原作付きの作品が多いと思うのですが、その辺りの影響はありますか。
一色 原作を無視して作ってますからね(笑)。『ダービージョッキー』を描いていたころはどのレースはどんな展開かというプロットはもらうんですけど、その中でじゃあどんなドラマがあるとか、1話1話どんなドラマを作っていくかというのは自分と編集さんで。
小沢 じゃあ競馬新聞を原作に描けそうですね(笑)。
一色 いけますね。『日本沈没』も、(原作者の)小松左京さんから自由にやってくださいといわれて、映画のシーンも取り入れて再構成したりと好き勝手にやっていたので。原作付きとはいえ、通常の漫画家と編集者とのやりとりに帰結できたので楽でしたね。
小沢 この前「パブー×青空文庫 漫画コンテスト」という、青空文庫の小説をベースにしたコミカライズで、太宰(治)原作の作品を描いたんですけど、完成している作品と、生で毎回もらう原作ってぜんぜん違いますね。
一色 あ、それはそうかもしれないですね。
小沢 パブーが、その漫画コンテストの受賞作と、プロに頼んだ幾つかの作品をアンソロ本みたいな形で一冊の電子書籍にするそうですけど、それは本を作るという編集作業なんですよね。パブーがそこをどう思っているのかは分かりませんけど、ITの世界で言うところの企画という職種は、出版の世界でいう編集という職種と似ているなと感じます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.