国内では、大きく3つ注目したい動きがありました。
まず、凸版印刷の子会社であるビットウェイが設立した「BookLive」が、電子書籍ストア「BookLive!」を2月17日からオープンしたことです。
凸版印刷と、インテルの投資部門であるインテル キャピタルから第三者割当増資を通じた投資を元に立ち上がったBookLive!の特徴は、電子書籍の利用におけるユーザーの利便性を向上させる「共有書庫」構想です。かいつまんで説明すれば、現在の電子書籍市場は、それぞれのプレイヤーがそれぞれの電子書籍ストアを展開しており、ユーザーからすれば購入した電子書籍を一元的に管理できないという問題を抱えています。これらを一元的に管理できる共有書庫を提供し、PCやスマートフォン、タブレット端末など、複数のデバイスから購入した電子書籍コンテンツを共有できるようにするというのがBookLive!の目指すところです。
実際にオープンしたBookLive!については、「クラウド型電子書籍ストア『BookLive!』の実力は?」にレビューがまとめられているので、こちらを見ていただければと思います。確かに、PCや幾つかのAndroid搭載スマートフォンで購入した電子書籍コンテンツが共有できるのはよいのですが、ほかの電子書籍ストアのコンテンツも一元的に管理したいというユーザーのニーズには応えられていないのが残念なところです。
筆者が驚いたのは、上記記事でも触れられていますが、活字系のコンテンツを読もうとすると、とても読む気になれないフォントで表示されるビューワであったことです。たまたまそうした電子書籍コンテンツだったのかもしれないと、幾つか読んでみましたが、どれも同じフォントでした。
「biblio Leaf SP02――それは、本好きに対する挑戦?」という記事の中で、著者の方が、「本の読みやすさを左右するのは、フォントサイズのみならず、文字の書体や文字詰めの微妙な空気感、そして行間スペース」と述べていますが、これは的を射た表現です。コミック系のコンテンツはよいと思いますが、活字を読みたい筆者からすると、これはぜひ改善を期待したい点です。
コンテンツのラインアップについては、上記記事で紹介されていた各ジャンルのラインアップを確かめてみると、6710点から8036点(3月5日時点)と順当に増えています。しかし、サイトトップには「9937タイトル 15916冊配信中」と表示されており(3月5日時点)、計算が合いません。
おかしいなと思い調べてみると、「セーフサーチ」という機能で、官能小説など幾つかのジャンルがフィルタリングされているために計算にズレが生じていたようでした。セーフサーチをオフにすると2400点ほど増加したので、そういうことなのでしょう(それでも計算は合わないのですが)。ふとしたところで大人の世界を垣間見てしまいました。
ジャンル | 2月18日時点の作品点数 | 3月5日時点の作品点数 |
---|---|---|
少年マンガ | 131 | 177 |
少女マンガ | 310 | 428 |
青年マンガ | 398 | 479 |
女性マンガ | 298 | 426 |
TLマンガ | 33 | 59 |
文学 | 824 | 520 |
ミステリー | 710 | 804 |
歴史・時代 | 277 | 297 |
SF・ファンタジー | 80 | 96 |
ライトノベル | 85 | 302 |
ビジネス・IT | 405 | 514 |
ノンフィクション | 214 | 250 |
趣味・生活 | 294 | 354 |
雑学・エンタメ | 485 | 583 |
教育・文化 | 158 | 200 |
ハーレクイン小説 | 2008 | 2052 |
エッセイ・紀行 | - | 495 |
そしてもう1つは、書籍を「裁断→スキャン」してデジタルデータ化する行為、いわゆる「自炊」関連のトピックです。2月10日には、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が「TSUTAYA 横浜みなとみらい店」で、店頭に設置した裁断機とスキャナーを1冊当たり300円で利用できるサービスを「試験的に」開始し、物議を醸しています。
こちらのサービスを実際に体験した様子が「TSUTAYAみなとみらい店で『BOOK ON DEMAND』を試してみた」として掲載されていますが、店員が裁断してくれた書籍やコミックなどを店舗に設置されたScanSnap S1500を使って自分でスキャンするというもので、価格は1冊当たり300円となっています。
電子書籍市場が拡大する中、読みたい本が電子書籍ストアで販売されていないという状況があるのは事実で、さらに、所有する書籍をデジタルデータ化したいというニーズもそこに加わって、昨今はこうした“自炊”サービスかいわいがにぎやかですが、司法の観点からはまだこうしたサービスに対して合法か違法という判断がついていない状況です。
CCCのケースで法的な懸念はないのかという疑問に関して、CCCは記事の中で「複製の主体は利用者であり、かつ著作権法の附則5条の2で「当分の間、30条1項1号の『自動複製機器』には、『文書又は図画の複製に供するもの』は含まないものとする」と規定されており、書籍のスキャンはこれに該当するため複製権の侵害には当たらず、問題はない」という見解を示しています。
CCCのような大手企業がこうしたサービスを試験的とはいえ提供開始したのは興味深いところです。しかし、国内の主要な出版社が参加する日本書籍出版協会(書協)もこの状況に対して動き始めており、スキャン代行サービスは著作権法違反の疑いがあるとして、近く各業者に警告文を送る方針を決めたと一部報道で伝えられています。
察するに、書協の中でも比較的赤字体質が続き、危機感が強い出版社が先導に立ってこうした動きを起こしているのだと思われます。著作権を侵害されている出版社と、著作権を侵害しているスキャン代行業者という分かりやすい対立軸でのみ語る多くのメディアでの論議は実にかしましいですが、全体像がとらえられていないように筆者は感じます。スキャン代行業者の中には、書協に対して著者への利益還元が図れるような提案を行っているところもあると聞きますが、これらは書協に取り合ってもらっていないようです。こうした動きについては、eBook USERで調査中だと筆者の担当編集の方が話していましたので、それが早く記事として公開されることを期待しています。
そして最後は、2月24日に発表された角川グループホールディングス(角川GHD)とグリーのインターネットコンテンツ事業における業務提携です。筆者はこの動きに注目しています。
このニュースは「『台風の目に入らなければ』 角川とGREEが提携、『ソーシャル電子書籍』配信」として記事になっていますが、角川グループの電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER」のコンテンツをGREEのユーザーが利用できるというのがミソです。
すでに2300万人を超える会員基盤を持つGREEに対してコンテンツを提供するというのは、うまい方法です。ソーシャル電子書籍アプリなどの案も示されており、非常に有望な業務提携だと思われます。今後はこうしたソーシャルなプラットフォームに対してコンテンツを提供しようとする動きが加速するのではないでしょうか。Facebookなどでも同様の話が持ち上がってくるかもしれませんね。今後が大注目です。
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