コラム
» 2011年01月19日 16時00分 UPDATE

InDesignは電子書籍の中間ファイルたり得るか?

DTPで標準的な位置づけを与えられているAdobe InDesignは電子書籍の制作でもその地位を保ち続けるのか? 実際にEPUBで電子書籍を販売しているDTPのプロフェッショナルがInDesignと電子書籍の関係について分析する。

[市川せうぞー,ITmedia]

(当記事はブログ「名もないテクノ手」からご寄稿いただいたコンテンツを一部編集の上、転載したものです。エントリーはこちら

InDesignからのEPUB書き出しは本命ソリューションか?

 2011年、電子2年(あるいは何度目の元年なのか)などといわれている昨今、電子出版への取り組みを始められた出版関係の方も多いと思います。電子出版とひとくちに言っても、アプリ形式のものからPDF、EPUB、専用フォーマットに至るまでさまざまな種類があります。中でも、自社のコンテンツを構造化されたXMLやDB、または管理されたCMSに取り込む必要性を感じていらっしゃる方も多いかもしれません。

 構造化されたコンテンツを取り出すために、組版ソフトである「Adobe InDesign」からのEPUB(XHTML)書き出しに期待している方も多いでしょう。実際にそうしたワークフローを推奨する書籍やネット上の記事も散見されます。しかしながら、InDesignからのEPUB(XHTML)書き出しは(現状では)まったく使い物になりません。ここでは3つだけ理由を述べます。

 まず、1つ目にInDesignから書き出されたEPUB(XHTML)はまったく構造化されていません。ルビ要素などもなくなってしまいます。とある書籍では書き出されたデタラメなタグをパーサーも使わないまま、検索置換で置き換えるバッドノウハウが紹介されていたりします。こうしてできたEPUB(XHTML)はもはやInDesignのコンテンツと同期していません。1度目はそれでよいかもしれませんが、再版時、修正時には膨大な手作業を伴います(もちろんこれにはコストがかかります)。出版物は長いスパンで保存すべきコンテンツがあり、こうしたワークフローを続ければコンテンツの一意性の維持さえ難しい状況が生まれるでしょう。

 2つ目は、EPUB(XHTML)書き出しを前提にしたInDesignドキュメントには、特別な配慮が必要である点です。InDesign内部のスタイル名の命名や種類に気を遣ったり、見出しや図版を1つのストーリーに集約したりする作業です。過去データならば、最初にこれを作り直す必要があります。この作業でレイアウトが変わってしまうので、もう元の紙用版下にはなりません。新規で作成するとしても、紙面デザインの大きな制約になります。EPUB(XHTML)書き出しを前提にするというだけで、デザインの制約を受けるなんて本末転倒ではありませんか。

 そして3つ目は、わざわざ面倒なInDesignから書き出す意味がないという単純な事実です。EPUB(XHTML)が必要であればAdobe DreamweaverSigilを使う方が100倍簡単です(編注:筆者がEPUBで販売している『InDesign者のための正規表現入門』はDreamweaverとSigilのみで作成された)。このことは、実際にやってみればすぐに分かります。

近い将来、出版の制作は紙媒体より電子出版が先に?

 紙を最初に作る理由はあるでしょうか? 情報コンテンツの「鮮度」から見れば、電子出版を先行させるのは理にかなっています。あるいは、電子版で売り上げの様子を見ながら、印刷流通コストの掛かる紙に展開するのは穏当なやり方に見えます。

 もしこのとき、InDesignのドキュメントを中間ファイルとするワークフローが定着していたらどうでしょう? InDesignを仲介するワークフローは、この可能性を考慮していません。制作ワークフロー全体を見直す中で、大きな流れから1歩も2歩も遅れてしまうのではないでしょうか。

 コンテンツはDBやCMSで管理されるべきであると筆者は考えています。こうした一次コンテンツから電子出版物を制作するソリューションは既に幾つかあります。紙媒体へ展開する必要があればDBからXMLを書き出し、InDesignでレイアウトします(InDesignはずっと以前からXMLを扱えます)。InDesignはコンテンツの入れ物であって、紙媒体のためのデバイスです。

 AdobeはInDesignプロダクトをコンテンツのハブとして位置付けているようです。前述のEPUB(XHTML)書き出しだけでなく、FLASH書き出し、インタラクティブPDF、そして「Adobe Digital Publishing Suite」もあります。一見してにぎやかで、将来性があるように見えます。しかし、全体の道筋や方向性が違うような気がしてなりません。

 このことは、成果物の完成度に端的に現れています。例えば、Adobe Digital Publishing Suiteでは、ユーザー操作のちょっとしたダイアログやビープを追加したりするようなUIのカスタマイズすらできません。そもそもこれをアプリと呼ぶのは正しくありません。細かい操作や振る舞いが制御できないのですから、根本的に違う何かです。そして今後、(アプリとして)より多くのことができるように機能が追加され続けるとしたら、それはほとんど拷問に近い学習が必要となることを意味するでしょう。

 また、将来性といったところで、それはAdobeのロードマップに過度に依存することを意味します。不具合があってもそれがいつ解消されるか分からない状況はワークフローを常に危険にさらします。Adobeでは、かつて幾つかのアーキテクチャが何の催告もなく突然打ち捨てられた過去もありました。(電子出版のワークフローが整っていない)今の段階で多様性はよい兆候ではありません。InDesignには組版ソフトとしてやるべきことがまだ山ほどあるのではないかと思います。

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