コラム
» 2010年11月24日 11時00分 UPDATE

紙とeBookを楽しむために:書籍購入者に全文PDFファイルを提供して見えてきたこと (1/2)

ITジャーナリストの本田雅一氏が、最新著作で書籍購入者に全文PDFファイルを無料で提供する試みを行った。その成果と、そこから見えてきた課題とは?

[本田雅一,ITmedia]

書籍購入者に全文PDFを提供する試み

ht_1011wi01.jpg 「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ!”」

 先日、ITmediaで拙著「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ!”」を紹介していただいて以降、紙の書籍を購入した読者に電子データを提供するという試みについて、多くの方から励ましと意見をいただいた。ちょうど、そのダウンロードサービスの期間を延長するという発表を行うタイミングで、コラム執筆のチャンスを得た。

 当時、掲載いただいた記事にもあるとおり、この本では書籍にユニークコードを印刷しておき、そのコードをWebサイトで入力することで、全文のPDFファイルをダウンロード可能にするという仕掛けを盛り込んだ。本を購入いただいた読者には、紙でもeBook端末でも、その時々や好みに応じて自由なスタイルで読んでほしいと考えたからだ。

 今回のコラムは、その経緯や将来の課題について書き進めたいと思う。

どうやって全文PDFファイルをダウンロードしてもらうのか?

ALT ウィブックスのホームページ

 書籍購入者に全文PDFファイルを無償で提供するというアイデアを、コーディネーターとして出版に関するアレンジを担当していただいたウィブックスの倉持太一氏に相談したときは、果たしてユニークコードを印刷するためのコストがどれぐらいなのか、書店で誰かが不正にコードを取得・利用した場合にどう対処するのか(ユニークコードを使ってのダウンロードは原則1回というシステムになっている)、そもそもコード生成と認証サーバは独自に開発せねばならず、その手間はどうするのかなど、実現にはさまざまな障害があった。

 わたしがウィブックスにお願いしたことをまとめると、次の2点に集約できる。

  • 1.PCや電子デバイスでも立ち読みができるよう、可能な限りページ数の多い電子プレビュー版を無償配布する(結局、59ページ分の無償配布を行っている)
  • 2.紙でも電子デバイスでも読めるよう、購入者は全文が掲載された電子版を無償でダウンロードできる

 1に関しては、すでにいくつかの出版社が挑戦済みなうえ、紙の本を流通させる書店に対してもプラスに働くと考えられるため、まったく問題はない。問題があるのは2の方で、まず出版社には全文の(しかもDRMもかけられていない)本のデータを無償でダウンロードさせることを許してもらえないかもしれない、と懸念していた。ところが、まったく問題なく企画が通過した。拍子抜けといってもいい。読者にとってプラスになる要素を、著者が盛り込むことに関して、少なくとも小学館は前向きに対処してくれたといえる。

 一方、ユニークコードの印刷に関しては、次のテーマがあった。

  • 書籍のどこに印刷するのか(簡単に見つかる場所ではコードが盗用されてしまい、本来の購入者が無償ダウンロードできない可能性が考えられる)
  • どうやって印刷するのか
  • ダウンロードできない場合や、盗用コードを正規ユーザーが使う場合の対処をどうするのか
ALT 本書のプレビュー版PDFファイルはここでダウンロードできる

 無償ダウンロードサービスは、新たな収入を生み出すものではないので、当然ながら追加コストはほとんどかけられない。例えば粘着テープで銀色のマスクをはがす、いわゆる“銀はがし”でユニークコードを隠すといったことも考えられたが、コスト的にはとても採算が合わない。

 そこで倉持氏は、実にシンプルで(厳密には盗用を防ぐものではないが)運用上、あまり問題ないだろうという方法を考えてくれた。本を読み始めるとすぐに気が付く場所にURLを書いておき、そのURLにPCのWebブラウザからアクセスすると、そこでユニークコードが記載されている場所が教えられ、コードを入力するとダウンロード用のURLが電子メールで届くという仕組みだ。

 倉持氏によると、書店でコードを読みながら携帯電話からアクセスされるのを防ぐため、端末が何であるかをUser agentで判別し、携帯電話からは申し込みができないようにするアクセス制限をかけたそうだ。また、ダウンロード用URLを送るメールアドレスに携帯電話のメールアドレスも使用できない。

 個人的にはここまでする必要はないかもと思うが、どのようなことが起きるか、初めての試みで予想できない面もあったため、なるべく安全な道を選んだ結果である。運用上、不正行為をしにくくしているだけで、避けようと思えば避けられるシンプルな作りだが、実際の運用では問題はないと判断した。

ht_1011wi04.jpght_1011wi05.jpg PDF版のインサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ!”をiPadで閲覧しているところ。ビューワは「i文庫HD」を利用した

 当初、全文PDFファイルのダウンロードサービスを2010年11月末まで(書籍の発売は10月2日)と早めに設定していたのも、プラスαの負担がどの程度になるのか不確定な面も想定していたからだった。今回、ダウンロードサービスを無期限で延長(終了時期は未定だが、当面はダウロード可能と考えていただいて構わない)することにしたのも、システムを運用し続ける際の出版社側の負担が見えてきたからである。

 これまで約1カ月半に渡ってシステムを動かしてきたが、不正アクセスと思われるダウンロードのリクエストはなく、ダウンロードに伴う深刻なトラブルはほとんどなかった。発売前にプレビュー版のダウンロードサービスを開始し、経験を積んでいたこともプラスに働いたと思う。

 実は、本書とまったく同じ仕組みで本文の電子データを受け取れる本が、エンターブレインからも発売される。タイトルは「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(著者は西田宗千佳さん)で、12月20日に1500円(税込み)で発売されるとのことだ。この同じシステムをウィブックスがエンターブレインに提供する形になる(ただし、これは本の著者がわたしやウィブックスの倉持氏の個人的な友人だったからであり、ウィブックスが事業としてダウンロードサービスを提供しているわけではないので注意してほしい)。

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