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» 2010年07月02日 20時00分 UPDATE

デジタルパブリッシングで成功する秘訣は?:毎日新聞とVPJが「電子出版」のセミナーを開催

“iPad&ePublishing”をテーマに毎日新聞社がセミナーを実施。同社によるiPad向けコンテンツ配信などの具体的な事例を交えながら、各方面の著名人がデジタルパブリッシングの最新動向を紹介した。

[ITmedia]
og_epub_001.jpg セミナーには多くの出版関係者が参加した(毎日ホールにて)

 毎日新聞社とビジュアル・プロセッシング・ジャパン(VPJ)は7月1日、「iPad」と「ePublishing」をキーワードに掲げた「メディア・プレミアムセミナー」を毎日新聞社東京本社(毎日ホール)にて開催した。

 同セミナーでは、東京電機大学出版局長(日本出版学会副会長)の植村八潮氏や、欧米の大手出版社を中心にネットワークパブリッシングソリューションを提供するWoodWingのレムコ・コスター(Remco Koster)氏、ITジャーナリストの本田雅一氏が招かれ、それぞれの視点からデジタルパブリッシングの可能性や今後検討すべき課題が語られたほか、毎日新聞社によるiPad向けコンテンツ配信への取り組みなども紹介された。

 冒頭の基調講演に登壇した植村八潮氏は、「iPad、ePubに代表される電子書籍の今後の可能性」と題してデジタルパブリッシング業界の最新動向を紹介。米国と日本の市場規模や電子書籍に適したコンテンツの種類、流通する文字情報のプラットフォームの変化を解説した。同氏は「文字情報の流通は、従来の紙やCD-ROMベースからブログやSNSを始めとするネットへと世代交代している。これは紙ベースの情報よりもはるかに多い。“文字離れ”という言葉があるが実際は反対で、若い人たちは文字情報の洪水の中にいる」と述べ、コンテンツプラットフォームとしての携帯電話が当然のように使われている現状に電子書籍普及の可能性を示唆した。

 また、本のデジタル化においては、検索性やインタラクティブ性、動画をはじめとするリッチなコンテンツをメリットとして挙げ、再生装置が必要不可欠であるというデメリットを埋めるために「デジタルでしかできないコンテンツを見つけ出す必要がある」と指摘。表示デバイスにE-Inkを使うKindleとマルチメディアコンテンツに適したiPadとの違いを挙げ、「Kindleがカバーする(文字情報中心の)電子書籍市場は限定的だが、iPad以降は市場規模が大きく拡大するのではないか」と予想する。

og_epub_002.jpgog_epub_003.jpgog_epub_004.jpg 東京電機大学出版局長の植村八潮氏(写真=左)。文字情報の流通形態は従来の紙からネットへと移行した(写真=中央)。植村氏は携帯電話の普及が“電話”としてではなくコンテンツプラットフォームとしてだったと振り返る(写真=右)

 ジャーナリストの本田雅一氏による講演では、iPad向けに「IKKI COMiX」を販売する月間IKKI編集長の江上英樹氏とウィブックス代表の倉持太一氏、iPad/iPhone向けコンテンツ作成サービス「Handbook」を提供するインフォテリア代表取締役社長の平野洋一郎氏がゲストスピーカーとして登壇し、海外向けコンテンツ配信の試みや、社内外ドキュメントなど商業出版物以外での電子書籍の可能性を語った。

 また本田氏は、電子出版の発展を考えるうえで、電子書籍と紙の特性を生かしたコンテンツの使い分けや、発行者と読者/読者どうしをつなぐSNSとの関連付け、特定のコンテンツ配信サービスが特定のデバイスでのみ再生できるという、現状みられるサービスとデバイスの依存関係を取り除く必要性を挙げ、「既存のビジネスモデルに頼らない、新しいビジネスモデルの創出と可能性に着目すべき」と総括した。

og_epub_005.jpgog_epub_006.jpgog_epub_007.jpg ジャーナリストの本田雅一氏(写真=左)。右から月間IKKI編集部(小学館)編集長の江上英樹氏、ウィブックス代表の倉持太一氏、インフォテリア代表取締役社長の平野洋一郎氏(写真=中央)。「IKKI COMiX」の第1弾では海外でも評価の高い松本大洋先生による「ナンバーファイブ 吾」(1話)が無料公開された。英語表示も可能なマルチリンガル仕様となっており、海外で広告をしていないにも関わらず海外からのダウンロードが多いという(写真=右)

 一方、実際にiPad向けコンテンツを配信している事例として、毎日新聞デジタルメディア局次長の糟谷雅章氏が「photoJ.」を紹介した。photoJ.は“読む写真誌”をコンセプトにしたデジタルマガジンで、縦と横(iPadの向き)で変わるレイアウトや、アップデートで変化していく表紙、一覧性の高いインデックス、多言語対応など、iPadに最適化したユーザーインタフェースが特徴だ。

 糟谷氏は「紙の雑誌をPDF化するだけでは、iPadにはもったいない」と語り、photoJ.が従来のデジタル雑誌とは一線を画す試みであることを強調する。実はこのphotoJ.、パブリッシングソリューションを提供するWoodWingのワークショップに参加した糟谷氏自身が、わずか2日という短期間でプロトタイプを作成したという。また、iPadの国内発売日である5月28日にあわせてリリースされ、App Store(有料iPad App)のランキングで1位を獲得するなど、ユーザーからの評価も高い。同氏は今後の展開として、無料アプリ内での有料コンテンツ配信やインタラクティブな機能の実装なども検討しているといい、「できるのならやりたいアイデアはたくさんある」と新しいチャレンジに意欲的だ。

 ただしその一方で問題も多い。特にUIやレイアウトについては、ほぼ完成されている紙媒体とは異なり、「どんなものがiPadに最適なのか常に話し合っている」と手探りの状況が続く。糟谷氏は紙のノウハウが通用しない状況を「かつて悩みながら雑誌を作っていたころと同じ」と表現し、「楽しくて、苦しい」と笑った。

og_epub_008.jpgog_epub_009.jpgog_epub_010.jpg 毎日新聞デジタルメディア局次長の糟谷雅章氏(写真=左)。photoJ.の制作現場を紹介するクロスデザイン代表取締役社長の黒須信宏氏。デジタルパブリッシングを生かすためには「紙の置き換えではなくメディアにあわせたコンテンツが必須」としながらも、その裏で制作コストが大幅に上がる点を指摘した(写真=中央)。WoodWing社のレムコ・コスター(Remco Koster)氏。WoodWingのパブリッシングソリューションは、従来の紙だけでなくWebやSNS、電子書籍など、配信先のメディアに応じて出力を管理できるクロスメディアパブリッシングプラットフォームで、米TIME誌をはじめ、電子書籍事業に参入する数多くの出版・新聞社に採用されている。同氏は、WoodWing Enterpriseを導入することで制作フローの最適化とコスト削減を図り、余ったリソースを新しい電子出版事業に振り分けられると訴える(写真=右)

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