eBook USERがお勧めのマンガ作品を毎週ピックアップしてお届け。今回は、30代、40代の男性にお勧めしたいあの名作の続編。
続編というのは諸刃の剣だ。
新しい物語を楽しみにする人もいれば、期待が高まりすぎた結果「こんな続編見たくなかった」と非難の声が挙がることも少なくない。長く続き、物語がきれいに終わった後の続編ならなおさらだ。
しかし、かつて胸を躍らせながら読んだ作品の続編は否が応でも期待してしまうというのが多くの読者の本音ではないだろうか。
不老不死の術を持つ三ツ目の妖怪である三只眼吽迦(さんじやんうんから)の少女・パイと、パイによって不死身の无(ウー)となった少年・藤井八雲の物語を描いた『3×3 EYES』(サザンアイズ)も、そんな作品といえる。
高田裕三さんが『ヤングマガジン増刊海賊版』で3×3 EYESの連載を開始したのは今から28年も前の1987年。第2部からは『週刊ヤングマガジン』に連載の場を移し、2002年まで15年にわたって連載された。コミック累計部数は3300万部を超え、名実ともに高田さんの代表作といえる。
筆者も当時3×3 EYESにハマったクチだ。第1部のオカルトとエロがほどよく混じった構成にとりこになり、たどたどしい日本語で話すパイの姿にアジア圏の女性のイメージを強烈に植え付けられたような気すらする。「出でよ土爪」だなんて口走ってみた記憶も……うっ頭が!
ともあれ、中国やチベット、インドなどアジアのエッセンスを多く取り入れた独特の世界観、心躍るボーイミーツガールの物語、土爪や光牙など創造性あふれる獣魔術、ベナレスをはじめとする圧倒的に強大な敵、そしてヒロインであるパイの魅力――3×3 EYESには人の心をとらえて放さない魅力があった。
15年にわたる連載終了後、2010年には外伝が短期連載されたこともあるが、その正統な続編は存在しなかった。しかし2014年4月、講談社ヤングマガジン編集部とエブリスタが協業しWebコミックレーベル『ヤングマガジン海賊版』が誕生、2014年12月より満を待して実に12年ぶりとなる正統続編『3×3 EYES 幻獣の森の遭難者』の連載が始まった。2015年6月にはコミックス第1巻が発売されたところだ。
舞台は前作の最終回から12年後の現代。前作のラストで、鬼眼王(カイヤンワン)という三只眼吽迦羅の親玉が行った“サンハーラ”という儀式。全人類の肉体から魂を抜き取り世界を浄化するこの儀式に、八雲は肉体をナノレベルに解体し、すべての人々の魂を合体・融合した上で、それぞれの肉体へその魂を導き引き戻した。パイや八雲の人間になる、という願いこそ叶わなかったものの、世界は安定し長い物語に終止符が打たれた。
すべてが終わった後の新たな物語はどんな展開があり得るのか。そんな思いを抱きつつ読んでみると、(実際には年を取っていないとはいえ)幾分大人になったようにも見える八雲の姿は宇宙空間にあった。国際宇宙ステーションの船外に見つかった獣魔の卵の除去のためだ。
獣魔の卵といえば、どこからやってくるのか前作から不思議だったが、卵というくらいなのでそれを産む存在がいるはず。今回、物語冒頭で八雲は宇宙でその存在に出くわし、大気圏へと落下していく。一方そのころ、八雲たちの知らぬところで静かに不死人捕獲作戦が始まろうとしていた。
フランス・パリを舞台に展開する本作では、前作のようなエキゾチックな要素は薄い。エキゾチック、という言葉がもともとギリシャ語に由来していることを考えれば、ギリシャ神話のエッセンスが取り入れられている本作もエキゾチックではあるのかもしれない。また、八雲もパイもすでに精神的に未熟な様子はなく、ハーンのように結婚し子の親になった者すらいる。成長譚であった前作と比べると全体のテイストはやや変わったが、作品に引き込む画力は相変わらずだ。
日本出版販売(日販)の「ほんのひきだし」では、『3×3EYES 幻獣の森の遭難者』の読者属性に関する面白いデータが公開されている。該当箇所を引用しよう。
『3×3EYES 幻獣の森の遭難者』の読者は30代、40代の男性が多いです。更に細かく見てみると、30代後半がピークになります。世代的には小6〜中1あたりに『3×3EYES』の連載が始まって、社会人5年目くらいに最終回を迎えた方ですね。まさに「『3×3EYES』こそわが青春!」と言えるような世代です。
3×3EYES 幻獣の森の遭難者は、いろいろな楽しみ方ができる作品だ。とりわけ前作のファンなら、大人になった自身の変化と、作品内のキャラの変化に何か重ね合わせられるものがあるだろう。続編のジンクスを吹き飛ばすような胸躍る大作になっていくのを期待しながら楽しみたい。
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