「余白」にまで気を配ったデザインが美しい 旅行記『Hallo journal』ダイモンアヤカに聞く司書メイドの同人誌レビューノート

秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。

» 2015年07月31日 12時00分 公開
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 一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。

 今週は、フィンランド・アイスランドという北国を旅した様子を『Hallo journal』という一冊の本にまとめた、ダイモンアヤカさんにお話を伺いました。

Hallo journal Hallo journal

紹介する同人誌

タイトル:『Hallo journal』(oはアキュート・アクセントを付したもの)

著者:ダイモンアヤカ

形態:A5 28ページ 表紙カラー・本文カラー

Webサイト:http://ayakadaimon.com/

Twitter:@nigari

同人誌入手先:Webサイトにて

次回参加イベント:ZINE DAY OSAKA、COMITIA114


素敵なイラストは、現地での簡単なスケッチから描き起こされたもの

ミソノ まずは、お名前をお願いします。

ダイモンアヤカ(以下、ダイモン) ダイモンアヤカと申します。よろしくお願いいたします!

ミソノ こちらこそ、よろしくお願いいたします。さて、先週レビューしたダイモンさまの『Hallo journal』は、アイスランドとフィンランドを旅した本ですが、行き先をその2カ国に決めたのはなぜですか?

ダイモン アイスランドは10年ほど前に音楽がきっかけで知り、それ以来、美しい自然、ユニークな文化に惚(ほ)れ込んでしまっている国です。今回行ったのは3回目だったのですが、有名な観光スポットをめぐったこれまでの2回よりも、もっとゆっくりと過ごすことが目的でした。

 アイスランドへは日本からの直行便がほぼないので、ヨーロッパのどこかの国で乗り換えが必要です。なので「今までに訪れたことのない国で一度降りよう!」と思ってフィンランドへも行くことにしました。

ミソノ ああ! それでなのかしら、のんびりとした旅のリズムを本からも感じました。本の中にあった「旅の計画を立てるとき、到着時間を明るい時間にしておく、という自分ルールに助けられます」という文章などから、旅慣れてらっしゃる印象を受けたのですが、これまでたくさん旅をしてこられたのですか?

ダイモン たいてい航空券や宿を自分で手配して行くのですが、旅の回数自体はそんなに多くはないと思います。出発のときは毎回楽しみと緊張が半々くらいです(笑)。

ミソノ そうなんですか! 現地の方とのちょっとした会話をごく自然に文章に織り込んでいらして、その土地の日常が伝わってくるようで素敵でした。語学は堪能でいらっしゃいますか?

ダイモン 英語は旅行に困らない程度です。ゆっくりとしたテンポなら日常会話もできるのですが、細かいニュアンスが伝えられないので毎日特訓しています。アイスランド語は読めるくらいですが、北欧ではほとんどの方に英語が通じるので、とても助かっています。

ミソノ 特訓……! 素敵な旅の陰には、ちゃんとその土地を楽しもうという下準備をきちんとしていらっしゃるんですねぇ……!

 本を手に取ったとき、シンプルで大きなタイトル文字とともに、表紙の寒そうな、でもどこか優しさを感じる絵が印象的でした。誌面でも異国の一場面が軽やかに描かれていて、旅先から友人が送ってくれた絵葉書を見ているような気持ちでした。こういった絵は、現地で描いていらっしゃるんですか?

ダイモン そうおっしゃってくださってとてもうれしいです。旅の間はインプットに必死なのか、簡単にスケッチする程度です。なので本に載せている絵は全て本の構成を決めてから描きました。

ミソノ 簡単なスケッチを基に、素敵な旅の思い出が描き起こされるんですねー。

ポイントは「読み手の目線を迷わせないこと」、そして余白

ミソノ 絵はどのような環境で描かれていますか?

ダイモン 基本的にはアナログで描いています。鉛筆・色鉛筆・水彩・アクリルなどを主に使っています。後からPhotoshopで描き加えたりすることもあります。

ミソノ デザインがとっても美しくて、読みやすくて驚きました! デザインをする時に気をつけていることはありますか?

ダイモン ありがとうございます! デザインするときは、まず“見てくださる方の目線を迷わせないこと”に気をつけています。そして、情報が載っていない「余白」に気を配ることも大切にしています。

 シンプルだけど、きちっとした美しさのあるデザインを目指しつつ……、でも文字組みはまだまだ未熟なので、もっと勉強したいです!

ミソノ 余白ですか……なるほど。確かにダイモンさまの本は圧迫感がなく、でも決して薄いとは思わない内容でした。文章と絵の他に、要所要所で写真も使っていらっしゃいますが、これもご自身で撮影されたのですか?

ダイモン はい、北欧では空気が澄んでいたり日差しの角度が浅いこともあってか、とても心地よい空気の写真が撮れる気がします。

ミソノ そんな空気に出会える旅って素敵ですね。今回は最初から「本をするために旅に出よう」と思っていらっしゃったのですか?

ダイモン 旅に出る前は具体的に本にまとめる予定はありませんでした。ですが、以前から旅行記は出したいなあ〜と、うっすら考えていて、友人の「コミティアで出せばいいじゃん!」という言葉に背中を押されて実現できました。

 いつも旅をするときは日記をつけるようにしているので、その瞬間に感じたこと、その日の印象深かったことなど、旅日記を読み返しながら制作していました。

ミソノ うわぁ……! 「同人誌にすればいい」って、とっても良いエールですね!

「こんなにいっぺんに観てしまって良いのかな、と、思わず笑ってしまうほどの、とてもとても明るいオーロラでした」とのこと。素敵な夜空ですね 「こんなにいっぺんに観てしまって良いのかな、と、思わず笑ってしまうほどの、とてもとても明るいオーロラでした」とのこと。素敵な夜空ですね

ミソノ 実際に、こんな素敵な本を作られたダイモンさま、これからはどのような活動を考えていらっしゃいますか?

ダイモン 今回、なんの制約もなく自由に本を作ることがこんなに楽しいものなのか! ということを知ってしまったので、今後はイラストだけでなく、「本」という形でも作品作りを続けたいと思っています。直近では、10月に大阪で開催する「ZINE DAY OSAKA」、11月開催の「COMITIA114」に参加予定です。

ミソノ ありがとうございました。これからのご活動も楽しみにしています!

ミソノ流ワンポイント用語解説

本文用紙 Part2

 先週に引き続き、本文用紙。今回はちょっとした体験談のようなものをお届けします。いろいろな紙を自分で選べるのはとっても楽しいのですが、バスケマンガ(主人公の髪が赤い方)が流行っていたころの、とあるサークルさんの同人誌で、「前回の新刊をざらざらした本文用紙にしてみたら、読者さんから『紙の質がなんだか良くないみたいですけど、大丈夫ですか!?』と心配されました。でも、週刊マンガ誌に憧れて、あえてあの紙にしてみたオシャレ気分だったんです……」と、そっとフリートークで語られているのを読んで、「紙選びとはなんと難しいものだろう……!」と深く印象に残りました。

ミソノ:いつでも優しい笑顔で、皆の心をいやしてくれる。普段は大きな図書館で司書をしており、司書ならではの本に関するお話は、日常では知る機会の少ない情報満載で、一聞の価値あり

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