秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。
一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。
タイトル:『Hallo journal』(oはアキュート・アクセントを付したもの)
著者:ダイモンアヤカ
形態:A5 28ページ 表紙カラー・本文カラー
Webサイト:http://ayakadaimon.com/
Twitter:@nigari
同人誌入手先:Webサイトにて
次回参加イベント:ZINE DAY OSAKA、COMITIA114
「同人誌レビューを始めたのよ」とお知らせしたら、「この本、私の好きな同人誌なんです」と、メイドが一冊の同人誌を読ませてくれました。あら、落ち着いた色使いの本なのねーと、何気なくページを開いたら、すっごく素敵な誌面が目に飛び込んできて「びょん!」と背筋が伸びました。
最初のページには異国の地図と、異国の言葉で書かれた行き先。シンプルに、文字と図だけの目次。でもその地図の一部分、フィンランドとアイスランドが、緑色で色づけられています。この本は、作者さんが旅した10日間の出来事を、写真とイラスト、そして文章でつづった同人誌です。
目的地に塗られた緑色は、水が滲(にじ)んだような色合いで、文字と図だけの目次のはずなのに、「あっ! これから素敵な旅が始まるんだ」という気持ちにさせてくれます。たった一ページめくっただけなのに、「これは……ものすごくおしゃれで素敵な本だわ!」と心が浮き立ってしまいます。
マフラー、手袋、耳当てのついた毛糸の帽子を用意して、2月の北国に旅立ったこと。ヘルシンキではトラムに乗っておいしいシナモンロールを食べに行ったこと。空港を出ると、迎えてくれるのは強く吹き荒れる風と、苔(こけ)に覆われた溶岩の原野……。作者・ダイモンアヤカさんの紡ぐ文章は、現地の様子を穏やかに語り、ひんやりとした北欧の空気と、そこで感じることのできる温かさが交互に編み込まれているようです。そして、それがとっても読みやすい!
文章の柔らかさと同時に感じるのは、紙面のデザインが少しも読む邪魔にならないこと。文字とイラストの分量、時折入る小さな写真が良いアクセントになっています。本の作りも、分厚いしっかりとした紙に印刷されていて、その感触もしっくりと手になじみ、ゆったりと旅の話に浸つことができます。
掲載されているイラストはどれも作者さんが描いたもの。控えめな色使いの中に、ぽっと明るい色が混ざることで、まだまだ寒い2月の北欧の景色が、ただ寒々しいだけに見えないんです。きっと、この旅が良いものだったんだなぁというのが、絵から伝わってきます。
この本を読ませてくれたメイドのロクムが、「旅行本って、『実際に旅をした人の思い出を、後からのぞき見ることができるもの』というのが、あまり旅行本を読んだことがないわたしのイメージでした。でも、この本を読んでいる時に感じたのは、わたし自身が旅先で呼吸をしているような感覚……! まるでこの本の中に現地の空気が閉じ込められているみたい!」と興奮気味に話してくれるのに、うんうん! と深くうなずきます。蒸し暑い夏、木蔭でゆっくりと向き合えば、涼しい北欧からの風を感じそうな一冊です。
『本文用紙』
原稿を「書き上げたー!」と思ったら、次はどんな紙に印刷するかを決めなくてはいけません。そう、同人誌は文章や絵を生み出すだけでなく、本に仕立て上げるところまでも自分でプロデュースできるのが楽しい! 本文用の紙は概ね白い紙ですが、それでも、真っ白とクリーム色っぽい白では、受ける印象がずいぶん違って驚きます。厚い紙にしようかな? つるつるした紙がいいかな? 今回の話にはどんな雰囲気の紙が似合うかな? と迷うのは、原稿が書き上がった後の楽しいひとときです。
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