かわいい女の子と素敵なドレスの組み合わせ 妄想がはかどる『貴婦人のワードローブ』司書メイドの同人誌レビューノート

秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。

» 2015年07月10日 12時00分 公開
[eBook USER]

 一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。

貴婦人のワードローブ ヴィクトリア編 貴婦人のワードローブ ヴィクトリア編

紹介する同人誌

タイトル:『貴婦人のワードローブ ヴィクトリア編』

著者:花園あずき

サークル名:少女ヶ原(オトメガハラ)

形態:B5 36ページ 表紙カラー・本文モノクロ

ブログ:本当は萌える!源氏物語

Twitter:@genjihikaru

同人誌入手先:COMIC ZIN


 貴婦人……なんて素敵な響きなんでしょう。表紙には凛と立つ、かわいくもきりりとした女性。身に付けた赤いドレスが一層、彼女を引き立てます。この本はヴィクトリア時代の女性のドレスと、そこからイメージした作者さんオリジナルのドレスのイラストがたっぷり載った同人誌です。

クリノリン、バッスル、アール・ヌーヴォー、アール・デコ!

 ふわっと広がったドレスに、お花で飾ったボンネット。あああー! この『若草物語』(ルイーザ・メイ・オルコットによる、19世紀後半のアメリカを舞台にした自伝的小説)に出てきそうなドレスの世界がとってもかわいいです! クラシックで上品なドレスをさまざまな女の子が着こなしているイラストが次々に出てきて、髪型や小物も時代に合わせてあって、見ているだけでその世界に浸ってしまいます……。1850年〜1930年の時代を追って描かれたイラストの横には「照明器具や暖炉にドレスが引火する事故が多発し、暖炉の周りをフェンスで囲うなど対策が取られたそうです。衣装を変えるという発想はなかった」などといったコメントが付いていて、ふむふむとうなずきながら、その時代のエピソードを知ることができます。

この目次にそって、各時代のドレスが紹介されています。丸襟のドレスって、かわいらしいことこの上ないですね!

 そうそう、メイドの衣装に触れてくださっているのも個人的にうれしいポイントです。うんうん、エプロンをボタンで留めるスタイルもかわいいですよねぇ! 巻末に参考文献一覧が掲載されているのもまたうれしい。

 わたしはこの落ち着きのあるヴィクトリアの雰囲気が大好きですが、もっと華やかなものが好きな人には、同シリーズの『貴婦人のワードローブ ロココ編』がお勧めです!

妄想が叶えられてた! オリジナルドレス

 素敵なドレスのイラストを見ているうちに、ついつい考えてしまうのが「このドレス、うちのメイドの、あの子に似合いそう!」「もし私が縫うのなら、色はどんな色にしようかしら?」という妄想! この本、あーしたい、こーしたい……という妄想が、すでに作者さんによって叶えられているのが素晴らしい!

こんなドレスがあったらいいなぁ……という妄想にダイブ!

 コルセットに金属の飾りを合わせたスチームパンク風の「魔力結晶ガトリングガール」、帽子にクッキーがくっついているみたいな「魔法少女のスウィーツマジック」は現代のロリータ服に近いアレンジ。時代のエッセンスを抜き取って、現代とほどよくミックスされたアレンジドレスは、「これ、あったらかわいいなぁ!」と妄想の世界に誘(いざ)なってくれます。そして、ドレスをまとった女の子たちが、これまたかわいらしくて、存分に「かわいい」の妄想に浸らせてくれるんです。

時代衣装とニュードレスの二段合わせ技!

 胸を高鳴らせてこの本を拝見していて、ふと小さなころに、紙人形にドレスを作ってあげて遊んでいたのを思い出しました。作ってあげるといっても、気の向くままに紙に描き散らかしたドレスを切り抜いて、紙人形に乗せてみるだけです。でも、「どんなドレスにしようかな」「どこにリボンをつけようかな……」と考えるのはとっても楽しかった!

 歴史的なものを踏まえた時代衣装で、自分の脳内のドレス畑に種を撒き、そこから新しい発想で、オリジナルなドレスの花が咲く……。「貴婦人のワードローブ」の二段合わせ技が、幼いころのようにわくわくする感覚を味わわせてくれるのです。

ミソノ流ワンポイント用語解説

シリーズもの

 同人誌では「前後編もの」より「シリーズもの」の方が、何だか安定している気がします。新刊を読んだときに「ごめんなさい。続いてしまいました。次は冬コミで後編を出します」と書いてあると、ちょっぴりショックじゃありませんか? 「後編は次のイベントで」と言われたものの、スペースにたどり着いたら完売していたり、奥付に「今回は中編です。次こそ完結です!」と書かれているのを発見してしまったり、はたまた、発行自体がなんとなくあやふやになって立ち消えてしまったり……。そんな思い出が脳裏をよぎって、どきどきする前後編ものに比べると、シリーズものは長くてもしっかり続けてらっしゃる印象があります。皆さまの周囲ではいかがですか?

ミソノ:いつでも優しい笑顔で、皆の心をいやしてくれる。普段は大きな図書館で司書をしており、司書ならではの本に関するお話は、日常では知る機会の少ない情報満載で、一聞の価値あり

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.