秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。
一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。
今週は、前回ご紹介した『おじいちゃんとパン』のたなさんのインタビューをお届け。作品への思いや、今後の活動についてお話いただきました。今後も不定期で、レビューで取り上げた作家さんのインタビューをお届けしていきます。
タイトル:『おじいちゃんとパン』
著者:たな
サークル名:棚
形態:A5 20ページ 表紙・本文カラー
ミソノ どうぞよろしくお願いします。まずは、お名前とサークル名を教えてください。
たな 「たな」と申します。サークル名は「棚」で申し込んでおり、読み方はいずれも「タナ」です。
ミソノ 『おじいちゃんとパン』を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょう。
たな 白ごはんの絵を描いている時に、息抜きでパンのことを考えていたら自然におじいちゃんが出てきました。おじいちゃんがいちごジャムをたっぷり塗ったパンを食べている姿はかわいいなあ、と。
ミソノ そのお気持ち、伝わってきます! パンと少年を前にしたおじいちゃんの顔は、飄々(ひょうひょう)としつつとっても愛らしいですもの! そしてどのパンもすっごくおいしそうです。食べ物に対するこだわりはおありですか?
たな 描く上でのこだわりは自分でもおいしそうだと思えること、食べる上でのこだわりは残さず食べることです。
ミソノ 食べることもお好きなんですね。とってもおいしそうに見えるイラストの数々は、どのような作画環境で描いていらっしゃいますか?
たな ほとんどの絵は、ラフから仕上げまでデジタルで制作しています。PCはiMac、ソフトはPhotoshopです。
遅筆なので、できるだけ作業工程を減らせる手段を選んでいて、下書きも以前は紙に描いていましたが、PCに取り込む行程を端折りたくて自然とフルデジタルになりました。
ミソノ 実は、たなさまの作品に出会ったのは単行本『ごはんのおとも』が最初でした。とても素敵な作品で「もっとこの方の作品を読んでみたい!」と思って調べたところ、コミティアに参加してらっしゃって、嬉しくていそいそと出展スペースに伺いました。
「ごはんのおとも」はごはんのおかずをキーポイントにされた作品で、人と人との温かな交流をとっても心地よく拝見しました。「おじいちゃんとパン」も食を中心として、人と人とのふれあいを描くという共通部分があるように思います。ストーリーを考えるときは、「パンを中心に描こう」というように、ポイントになる食べ物から発想されますか?
たな ありがとうございます、お声をかけていただけてとても嬉しかったです。アイデアを思いつく順番はその時々で、パンなどのモチーフから考え始める時も、思いついた話にパンを添える時もあります。
時々、モチーフも話も一気に思いつくことがあり、「おじいちゃんとパン」はそうして勢い良く思いついてそのまま形にした一冊でした。
ミソノ 「ごはんのおとも」のように、一般の本屋さんで手に入る単行本を発行するといった商業活動もされている一方で、同人誌も出していらっしゃいますが、ご自身で何か違いを感じることはありますか?
たな 商業作品の場合は、作品の方向性を出版社の方に伝えるために描くラフやネームなど、「完成前に自分以外の誰かにアイデアを共有するためのアウトプット」を行うというのが、同人や趣味でやってきた一人での作品作りと一番異なっているところです。
どうすればラフでも伝わるか、何度もアイデアを見直すことで、自分自身でも客観的に見られる瞬間が生まれ、思いがけないアイデアが見つかることもありました。
逆に、何度も見直すことで最初に思いついたアイデアの「良さ」が新鮮に感じられなくなって見失うこともあったため、思い描いたままを作品の完成としても良い同人は、勢いを失わないで良いという自由度が魅力だと感じています。
ミソノ 「おじいちゃんとパン」の表紙に描かれたカラフルなパンの留め具だったり、本編の手書き文字だったり、気付くと「あ!」と嬉しくなる仕掛けを発見して読んでいて楽しくなりました。デザイン面で気を付けていることはありますか?
たな 手に取ってもらえるように目を引くことがデザインの最初の役割だと思っていますが、一番気を配りたいのは、繰り返し読んでも楽しめるような一冊になるよう、面白そうだと思ったことを詰め込むことです。だから「あ!」は本当に嬉しい反応です。
ミソノ 紙の本にする時に、こだわっている部分や気を付けていることはありますか?
たな 手触りや質感が本の内容に合うものを選ぶようにしています。紙見本をめくって触りながら仕上がりを想像するのはとても楽しく、紙の本にだけ伴える作品の大事な要素だと思っています。
ミソノ これから、どのような活動を考えていらっしゃいますか?
たな 不定期にはなりますが、コミティアなどのイベントにも参加しながら面白いと思ったものを色んな本にしていきたいと思っています。自分の作った本を家の本棚にたくさん並べられるようになるのが目標です。
ミソノ 「食べる上でのこだわりは残さず食べることです」という言葉に、たなさまの姿勢が現れているように思いました。とってもおいしそうな食べ物の絵、読むと優しい気持ちになれる作品が生み出されていく過程を丁寧に教えてくださり、ありがとうございました!
『商業誌』
出版社を通して発行され、全国の本屋さんに流通して、販売されている本を指します。ISBN(あいえすびーえぬ、International Standard Book Number)と呼ばれる国際標準図書記号が一冊一冊に付与されているので、どこの本屋さんや図書館でも同じデータで間違いなく本を探すことができます。
同人誌の事を指して「ISBNのない本」と言うこともありますね。
同人誌の活動から、商業誌の場に活動の幅を広げる人、商業誌でばりばりご活躍中のプロの方がある日突然に同人誌を出したり……と、近年、どちらでも活動されている方が増えてきている印象です。
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