秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。
一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。
タイトル:『おじいちゃんとパン』
著者:たな
サークル名:棚
形態:A5 20ページ 表紙・本文カラー
『おじいちゃんとパン』はフルカラーの見開きイラストに短い文章を添えた、絵本のような作りの同人誌です。男の子とおじいちゃんが向かい合って過ごす時間……彼らの真ん中にあるのは小さなテーブルと食パン。じーっと見つめられて「なんだちびすけ 食べたいのか しかたねぇな」と、こたえるおじいちゃん。このおじいちゃんのパンが、ものすっごくおいしそうなんです!
バターを塗って、さらにその上にたっぷりのイチゴジャム……! ちょっと大きくなった男の子とかじるのは、お腹にしっかりたまりそうな、バター+あんこ+きなこトースト。
さらに、成長して背が伸びた少年と一緒に食べるのは、ラム酒に漬けたレーズンを無塩バターに練り込んだとっておき。マシュマロを乗せて焼いたパンはどんな舌触りなんでしょう。
大きく描かれたパンは、やわらかなタッチでありながら、かぶりつく「サクッ!」という音が聞こえてきそうなほどリアル。黄金色のバターの魅力的なことと言ったら! ページをめくるたびにお腹が空いてきちゃいます。
さまざまな食パンアレンジと一緒に、どんどん大きくなる少年と、彼を迎えるおじいちゃんとの時間が紡がれます。テーブルの端っこにしがみついていた男の子は、やがてランドセルを傍らに置くようになり、スポーツバッグ、背広姿に似合うビジネスバッグ……とその持ち物も変わっていきますが、おじいちゃんはいつも開襟の半袖シャツでのんびりと椅子に腰掛けています。
成長する幼子と老人の姿に、シェル・シルヴァスタインの絵本『おおきな木』を連想しました。『おおきな木』では、子どもは大人になると、自分を見守ってくれていた木のそばから立ち去ってしまうのですが、この本では姿が見えなくなるのは……いえ、皆まで言いますまい。でも大丈夫です。最後はちゃんと笑顔で本を閉じられますとも!
改めて表紙に目をやれば、きつね色の食パンの横に描かれているのは、パン袋のカラフルな留め具。そういえば、おじいちゃんの服も色とりどりでとってもおしゃれなんです。絵に添えられた手書きの文字も味わい深く、細やかなところにまで作者さんの気持ちが行き届いている、素敵な同人誌です。
『同人誌』
「同じ」「志」を持った人々が集い、その気持ちを本の形にして表現したもの。マンガ、イラスト、小説、短歌、俳句、評論、写真集などなど、表現方法は多岐にわたります。個人で発行することも多いです。
その形状から「薄い本」と呼ばれることもありますが、私の本棚は隙間なく同人誌に埋め尽くされていたりします。
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