コラム
» 2014年12月26日 17時00分 UPDATE

記事で振り返る「2014年の電子書籍市場」(書店連携編)

2014年も残すところあと1週間ほど。少し気が早いですが、年末にかけて2014年の電子書籍市場で起こったトピックの中から、eBook USERが今年その動向を注視していたものを幾つか振り返ってみたいと思います。今回は「書店連携」。

[西尾泰三,eBook USER]

 2014年も残すところあと1週間ほど。ということで、少し気が早いですが、年末にかけて2014年の電子書籍市場で起こったトピックの中から、eBook USERが今年その動向を注視していたものを幾つか振り返っています。

 2014年、eBook USERが注目していた動きは、大きく分けると、「Webマンガ、無料コミックアプリ」「定額読み放題」「電子図書館」「書店連携」「セルフパブリッシング」「権利関連」の6つ。前回は「定額読み放題」について触れました。今回は、「書店連携」について振り返ります。

実書店との連携が模索された1年

 書店連携というと、大きく分けて2つの流れが存在します。1つは、電子書店間の連携、もう1つが電子書店とリアルの書店(以下、実書店)の連携です。

 2012年から2013年にかけてはBOOK☆WALKERを中心に「本棚連携」という形で前者の動きが幾つか見られましたが、2014年になるとそうした動きは少し鳴りを潜めました。

 電子書店間の連携があまり進まないのは、コンテンツ(作品)に対するコントロールを一般的な電子書店が持ちにくいからだと推察できます。自らがコンテンツホルダーでもあるKADOKAWAグループのBOOK☆WALKERはこうした本棚連携を推進できましたが、そのBOOK☆WALKERも2014年は、トーハンの「Digital e-hon」との本棚連携の予定を発表した程度でした。KADOKAWAとドワンゴが10月1日に経営統合しKADOKAWA・DWANGOとなったことで、BOOK☆WALKERの戦略はより大局的なものへとシフトしそうです。

 KADOKAWA・DWANGOの角川歴彦取締役相談役は11月末に、リアル書店を「ネット書店への対抗軸」と位置付け、アマゾンとの関係について「ネット書店は大きな取引先であり大事にしていくが、対抗軸をつくることが健全な業界発展に結びつく」と述べていますが、これが方向性をよく示しているといえるでしょう。

 上述のトーハンとの連携も目的は“リアル書店の店頭活性化”とあり、e-honに加盟する実書店との連携が視野に入っていることは明らかですし、KADOKAWA・DWANGOは経営統合を記念したキャンペーン企画のひとつとして、11月から2015年3月にかけて、全国10カ所の書店で「ニコニコ書店会議」も開催するなどしています。

 広義では出版社の自社アプリも含めた電子書店と実書店(書店以外の店舗含む)の連携を図ろうとする動きは幾つか見られました。例えば「書店における電子書籍販売推進コンソーシアム」からの流れで生まれた「BooCa」が挙げられます。

 BooCaは、特定の電子書店で作品をダウンロードできるコードが記載されたコンテンツカードを実書店で販売するというもの。現金で決済可能な電子書籍の販売を実店舗と絡めて行おうとする取り組みはほかにもコンビニエンスストアなどでのプリペイドカード販売もありますし、イオングループの未来屋書店が運営する電子書店「mibon」で店頭決済の仕組みを取り入れたこともその1つといえます。実書店のメリットをまだ十分に生かしきれていないようにも見えますが、電子書店がアプローチできないような顧客層とどう向き合うのかは、2015年も引き続き重要なテーマとなっていくでしょう。

rmfig086-1.jpg 随時新刊を並べていき、約3000タイトルを販売する(場所:有隣堂 AKIBA店)

tnfigab006.jpg カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は2014年6月にBookLiveと業務提携を発表。Airbookも予定通りの開始となりました

 12月から始まったTSUTAYAの「Airbook」も意欲的な取り組みです。これは、TSUTAYA店舗で、Tカードを提示し、対象の紙の本(主に雑誌)を購入すると、その同一商品の電子版を提供するというもの。文教堂グループホールディングスが2013年から展開している「空飛ぶ本棚」や三省堂書店の「デジ本プラス」なども同様のアプローチですが、広範な店舗で一気に展開したAirbookは今後認知が進みやすいのではないかと思います。

 なお、紙版の購入者に電子版を無料で提供することが景表法に違反するかどうかの問いに対して、CCCは、「同一事業者(CCC)が、同一の内容の書籍を2つの媒体で利用させる単一商品」は景表法及び公正取引規約の対象外、という見解を示しています。よって、事業者間の連携ではこの種の取り組みは簡単ではなさそうだと考えられます。逆に言えば、実書店と電子書店の両方を運営していたり、グループ内にそれらが存在するなら、同様のサービスは展開し得るということになります。

 そうした意味では、大日本印刷(DNP)グループのトゥ・ディファクトの動きも要注目です。同社は、運営するハイブリッド書店(紙と電子を扱う)「honto」のネット通販のほか、提携実書店で購入した紙の本が電子化されている場合、その電子版を50%オフで購入できるサービス「読割50」を来春にも開始予定です。こちらは一般書籍にも適用されるかどうかが注目です。

 紙版の購入者に電子版を無料で提供することが書店連携のすべてだとはとても思えませんし、実書店の持つ価値を生かした別のアプローチも2015年は期待したいところですが、少なくとも紙と電子が対立軸で語られることも珍しくなかった数年前と比べれば、書店連携は進んだな、というのが2014年の印象でした。

 一方、楽天Koboの「書店内Koboストア」のように、実書店の一角で電子書籍専用端末やアクセサリーを販売し、そうした端末を購入したユーザーが購入する電子書籍の売り上げをレベニューシェアするモデルも存在します。ただし、専用端末よりアプリで電子書籍を楽しむ方が多い日本では、店頭でアプリのインストールをサポートし、アプリからの購入にもレベニューシェアを示すなどの方向性を打ち出せなければ広がりはないかもしれません。

実書店でiBeaconの導入は進む?

 2014年はオンラインとオフライン、ネットとリアルをつなげる施策として「O2O」が出版業界でも見られた1年でした。とりわけ、iBeaconを用いた取り組みに目新しさがありました。中でも印象に残っているのは、『「わたしのマーガレット展」にみるO2O施策――集英社はiBeaconをどう使った?』です。

tnfigas001.jpg 「わたしのマーガレット展」でのBeaconを用いたサービスイメージ

 iBeaconは、2013年にAppleのiOS7の新機能として追加された近距離通信技術・規格。「Beaconモジュール」と呼ばれる信号を発する端末を店舗などに設置すれば、対応端末がそのモジュールの近くまで来くるとプッシュ型のコンテンツ配信が可能になる、位置情報と連動したサービスの基盤技術の1つです。わたしのマーガレット展では、これを用い、実書店など特定のエリアでコンテンツ配信する取り組みにより展示会場や書店への来訪を促進しようとしていました。

 iBeaconはうまく使えば、ユーザーの行動履歴情報と合わせた活用も図れるなど可能性を感じさせますが、現時点では課題もありそうです。例えばiBeaconモジュールの設置がまだまだ局所的であること。こちらは12月に入ってACCESSがiBeaconモジュールを1万個無償配布することを発表しています。

 また、iBeaconは基本的に、iBeaconモジュールとアプリが1対1の関係となります。そのため、該当アプリが端末にインストールされている必要があります。iOS 8からはiBeacon信号をデバイスがキャッチすると、該当アプリのダウンロードを促す仕組みも導入されていますが、アプリダウンロードのハードルが解消できたわけではないため、その周知には課題が残ります。

 また、1対1の関係であることから、いかにiBeaconモジュールが小さいといっても、1つの実書店にそれぞれ異なるアプリと対応する大量のiBeaconモジュールが設置されるとは(運用面も含めて)考えにくいものがあります。よって、実書店でiBeaconモジュールの導入が進むとすれば、その実書店が電子書店も運営している場合は、その電子書店のアプリをiBeacon対応にするのがスマートですし、そうでない場合は実書店と版元、あるいは電子書店事業者との個別連携ということになります。

 例えば紀伊國屋書店は11月に、「グランツリー武蔵小杉」内にオープンした武蔵小杉店で、iBeacon対応スマートフォンアプリ「B+POP」を使用したO2Oマーケティング施策を開始することがインフォシティから発表されています。Kinoppyアプリではなく別のiBeacon対応アプリを用意していることから、成果をみながらKinoppyアプリに実装するかどうかの意志決定を下す考えなのだろうと思われます。iBeaconがポイントソリューションになるのか、大きなエコシステムになり得るかはまだ見極めが難しそうです。

 この「わたしのマーガレット展」の取材では、以下のような発言があったことが印象的でした。

コミック販売の担当者を通じて、書店さんの声を聞くと、「お店にまで来てもらえれば、何かしら興味のあるものを手に取ってもらって、買って頂けるような商品展開はしているし、売れる商品をそろえている自信もある」とのことなんです。しかし、書店自体に足を運んでいただけなくなっていることが切実な悩みだそうなのです。

 電子書店は実書店より優れている部分もありますが、同時に劣る部分もあります。例えば、思いがけない作品との出会いは、電子書店ではリコメンドエンジンへの依存が強く、イノベーションはまだ起こっていませんし、ソーシャルリーディングがこれを補完するような動きもまだみられません(「i文庫」「読書メーター」を買収したドワンゴの動きが気になるところです)。両者が補完し合い、実書店に足を運ぶ動機も明確なサービスやソリューションがどういった形で現れるのか、2015年も実書店との連携はホットな領域となりそうです。

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