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» 2014年11月06日 14時00分 UPDATE

図書館総合展リポート:OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が示した「7つの教訓」

電子図書館は利用者に何をもたらし、導入する図書館はどんなことを考えるべきか。メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏とOverDriveアジア統括責任者のピーター・ハース氏が語った。

[西尾泰三,eBook USER]

 「メディアドゥが考えているのは、本質的にいうとITを活用して本をどうエンドユーザーに届けるか」――メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏は、この2週間ほど人前で語る機会が増えている。

 10月29日にはJEPA主催によるセミナーで、また、11月8日までパシフィコ横浜で開催されている図書館界最大の展示会「図書館総合展」のフォーラムに登壇した溝口氏。来場者の興味は、電子図書館サービスだ。

 メディアドゥは5月に、電子図書館プラットフォームの世界最大手、米OverDriveとの戦略的業務提携を発表。OverDriveは、米国で1万8000館、45カ国58言語で3万館以上に導入されている電子図書館サービスを展開している。日本でも2015年4月から本格的に展開されるこのサービスに、関係者の注目が集まっている。ここでは、JEPAのセミナーと図書館総合展でのフォーラムの内容をまとめて紹介しよう。

スマートフォンの世界に「本」を溶け込ませる

メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏 メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏(写真はJEPAセミナーのときのもの)

 溝口氏は2000年にNTTドコモへ入社。PHSを使った大容量コンテンツ配信の時代に音楽配信サービスを手掛けるなど、モバイルコンテンツを携帯の上でどう流通させるかのビジネスに携わってきた経歴を持つ。メディアドゥに加わったのは2008年のことだ。

 溝口氏が気に入っているというメディアドゥの事業理念は「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人に届けること」。それを本について考えてみると、例えば10年前なら、電車内で器用に折りたたんだ新聞や文庫本を読む姿を見かけることは珍しくなかったが、今はそれがスマホに取って変わられているのは誰もが感じているところだろう。溝口氏は「現代において、ユーザーの余暇時間はスマートフォンに占有されている」とこれを紹介する。

 しかし、そこで楽しまれているのは、ゲームやSNSなど「本」以外のコンテンツだと溝口氏。特にゲーム産業は、「デバイス×コンテンツ×サービス」という観点から、スマートフォンにどうフィットさせていくかを考えてきたことが今のよい結果につながっていると述べ、読書時間そのものが減っている中、スマートフォンの世界に「本」を溶け込ませ、ゲームやSNSに奪われた時間をどう取り戻すかを考えていくことが必要であると話す。同社がLINEとのアライアンスで展開する「LINEマンガ」でLINEマンガ連載が始まったのも、スマートデバイスへ「本」を溶け込ませるための取り組みの1つだという。

 こうした中、幾つかの市場調査では、電子書籍市場の成長を予測している。メディアドゥは電子取次を行っている関係で、そうした調査の数字をある程度実態と照らし合わせることができる立場にあるが、「実感値として、今年度は予測に沿ったものになると思う。ただし今後の成長は、ぼけっとみてて行くかな、というものだと思う。米国よりも(日本の)電子書籍サービスは難しい、それを分かった上でもっとやらないとあの(市場調査の)数字に届かないのではないか」と話す。

 「本を読んでいただく環境を整えないと、紙か電子かは問わず、本を読んでいただけなくなるのではないかという危惧がある。メディアドゥが考えているのは、本質的にいうと本をITを活用してどうエンドユーザーに届けるか。流通するスピードが上がらないと産業としては沈んでいく。わたしたちはユーザーにコンテンツを届けるトライを続けていきたい」(溝口氏)


OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が示した「7つの教訓」

 電子図書館サービスに話を移すと、この領域に同社が踏み込んだのは、母数を広げる挑戦なのだという。

 「電子図書館の可能性はどこにあるのかにはいろいろ議論はあるが、(図書館で本を借りて)読んでいる人が多いのも事実。そこにもっと手軽に読んでもらうため」の取り組みであるという。

OverDriveアジア統括責任者のピーター・ハース氏 OverDriveアジア統括責任者のピーター・ハース氏

 図書館総合展のフォーラムでは、溝口氏とともに、OverDriveアジア統括責任者のピーター・ハース氏も登壇。ハース氏が時間を割いて紹介したのは、同社の地元である米国オハイオ州・クリーブランドにあるカヤホガ郡公共図書館(CCPL)の成功事例だった。OverDriveの電子図書館サービス導入第1号が、このCCPL。それはもう10年前のことである。

 CCPLが電子図書館サービスの提供を開始したとき、ラインアップは650タイトル、初月の貸し出しは257件だったという。それが5年で1万タイトルに、さらに5年後の現在では21万以上のタイトルに拡大、貸し出しも月間約16万件になったことを紹介した。ハース氏によると、全米の電子図書館の傾向として、貸し出された書籍の40%超が後に購入されているとし、「本との出会いが減り、存在を知らなければ買ってももらえない。これは紙でも電子でも変わらない」と述べ、電子図書館は紙の販売を阻害するものではないことを改めて強調した。

 CCPLの導入事例で見るべきは、これをけん引したサリー・フェルドマン女史の手腕である。彼女がCCPLの電子図書館サービス導入で採ったさまざまな手法やリーダーシップは高く評価され、先般、American Library Association(アメリカ図書館協会:ALA)のプレジデントにも選ばれている。

 ハース氏は、彼女がCCPLでの取り組みから得た教訓を7つにまとめたものを紹介した。それは以下のようなものだ(文中のpatronsはエンドユーザーを指す)。

Seven Lessons from Cuyahoga:Drivers of growth

  1. Responding to a new digital age
  2. Digital lending service promotion
  3. Better content choices for patrons
  4. Better responses to patron demand
  5. Local solutions for local community needs
  6. New media for new audiences
  7. Leadership!

 その要旨を解説すると、肝心なのは、「デジタルのシステムを入れたことでなく、ユーザーにとって魅力あるコンテンツをそろえられるか」。ただし、そのシステムは、ユーザーが一番使うデバイス(モバイル)をきちんとサポートしなければ意味がないし、実態として、米国でも公共図書館で電子書籍が借りられるのを知っている人は少ないので、サービスのプロモーション(または啓蒙)は欠かせない。

 コンテンツ面では、単に数があればよいのではなく、選書という観点で考えると、ユーザーからの要請や利用傾向を元にそれを行う必要がある。さらに、コンテンツは電子書籍だけでなくオーディオブックや動画なども提供できるようにし、個々の図書館が地元ユーザーのためにサービスをカスタマイズするローカライズも必要だという。そして、これらは強力なリーダーシップの下で進めることが望ましいというものだ。

 上述した教訓を、OverDriveのサービスに落とし込んで考えてみると、貸し出し待ちの多い書籍、あるいは出版社の売れ筋作品を自動的に選定する選書サポート機能や、図書館が保有する地域資料・郷土資料(音楽や動画も登録可能)を利用者に公開できるローカルコンテンツ追加機能の有用性を指している部分がある。また、サービスのプロモーションについては館内端末(OverDriveではこれを『Media Station』と呼んでいる)の活用を提案している。ちなみに、OverDriveでは電子雑誌も来月から取り扱う予定で、子ども向けのコンテンツもブラウザベースで提供していく予定だとハート氏から説明があった。

 ハース氏は、OverDriveは国際展開しているが、そのほとんどが直営である中、重要だと考えている日本市場については、パートナーが不可欠だと考えていたと話し、メディアドゥとともに日本向けの展開を進めてきたいと述べた。また、溝口氏からはフォーラム来場者特典として、ソリューションの初期費用無料、ランニングコストも特別価格で提供するプランが示された。同社ブースではある程度日本語にローカライズされたソリューションのデモを見ることができる。

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