インタビュー
» 2014年09月08日 11時00分 UPDATE

まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト:LINEマンガで無償連載はじまる――その狙いと影響は?

変化の最前線を行く人々にその知恵と情熱を聞くこの連載。今回は、8月にはじまった「LINEマンガ」の新たな展開「LINEマンガ連載」の全体事業統括を行う舛田淳氏、責任者の村田朋良氏にお話を伺った。

[まつもとあつし,eBook USER]

 8月13日より、LINEマンガアプリで「LINEマンガ連載」がはじまった。これは無料で、100タイトル以上の作品を毎週更新していくというもの。マンガボックス、comicoなど無料マンガアプリが人気となる中、他のサービスとの違いや強みなどを、事業を統括する舛田淳氏、そして、LINEマンガの最初の立ち上げ時にもお話を伺った責任者の村田朋良氏に聞いた。

デリバリーの方法としてのコミュニケーション――LINEマンガの基本的な考え方

村田朋良氏 村田朋良氏

―― 昨年4月に始まったLINEマンガですが、基本的に電子コミックを1巻ずつ購入するスタイルが中心でした。今回始めた「LINE マンガ連載」とはどういうものなのでしょうか?

村田 LINEマンガではサービス開始から「無料連載」という作品は扱っていましたが、今回はそれを大幅に拡充したという位置づけです。毎日15作品から20作品、全体で100タイトル以上の国内作品が、連載形式で無料にて読めるようになりました。

 原則として、(LINEマンガの)ストアで1巻単位を有料で販売している作品の中からピックアップし、1話単位を無料で配信しています。前者はダウンロード、後者はストリーミングでの提供です。作品によっても異なりますが、冒頭3話分ほどは常に無料で読めるようにして、それ以降はその週のエピソードに更新されていく形です。

―― 以前の連載はcomicoなどと同様、いわゆるスマホ閲覧に適した縦スクロールでしたね。

村田 そうです。私たちはこの方式をWebtoon(NAVERが韓国で展開しているコミックサービス)と呼んでいますが、今回は紙の雑誌に連載された作品が中心ですので、EPUB形式

のファイルを横に開いてみていくことになります。

舛田淳氏 舛田淳氏

舛田 スマホのUIですから、Webtoon方式のように縦の方が読みやすいという意見もあると思いますが、いまLINEマンガ連載で取り上げている作品は、横開きを前提に制作されていますから、縦スクロールで、というのは難しいかなと思いますね。

―― ずばり、今回、無料連載という策に出た理由や背景とは?

舛田 まず大枠の話をすると、PonP(プラットフォーム・オン・プラットフォーム)つまり、LINEというコミュニケーションプラットフォームの上に、コンテンツやサービスのプラットフォームを構築しようという基本的な考え方は、当初からあるものです。

 LINEでのコミュニケーションを通じて、「コンテンツとの出会い」を創りださないと、コンテンツ産業が衰退してしまうのではないか、そんな危機感も背景にはあります。例えば、本であれば書店、動画であればテレビ、といった「出会いの場・機会」に、いま人が居なくなってしまっている。それを改善していかないといけない、ということです。

 従来そういった「場・機会」はマス的なものでした。それがポータルになり、検索になり、SNSになり、いまメッセンジャーの時代になってきている。デリバリーの方法としてコミュニケーションを使うのが、コンテンツと人が出会う仕組みとして有効とわたしたちは考えているわけです。LINEマンガもそういった考えの下に開始しました。

『寄生獣』特典LINEスタンプ 『寄生獣』特典LINEスタンプ

―― 確かに、スタンプ付きのマンガを販売するなど、コミュニケーションに重きがあるのが、LINEマンガが他の電子書店と異なる点でしたね。

村田 はい。作品を読んだことをLINEのトークやタイムライン、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアに共有するのはLINEマンガ連載でも同様に行えます。自分がどんな作品を読んだか、という履歴をリストとして公開し、友だちと共有することも可能です。

 また、作品ごとにコメント欄を設けていますが、そこが盛り上がっている作品は「○巻無料」といったキャンペーンを行うとやはり売上も大きく跳ねますね。僕は結構コメント欄はじっくり読んでます(笑)。

巻数単位とエピソード単位、スマホ時代のタッチポイント作り

舛田 そういった他の電子書店にはない特徴がご評価頂けて、LINEマンガには当初から非常に多くの作品が集まり、スマホアプリベースのマンガブックストアとして急成長し、このカテゴリではナンバーワンの存在(7月20日に700万ダウンロードを達成)になったと自負しています。

LINE マンガのダウンロード数推移 LINE マンガのダウンロード数推移

 そこで得られた知見として、1巻、あるいは2巻まで無料といった「試し読み」を行うと、それに伴って売上が向上するという実績があります。つまり、LINEを通じてだけでなく、こうした試し読みを通じてもマンガとの出会い(タッチポイント)を増やす、ひいては購買につなげていくことができる――そんな生態系(エコシステム)を出版社の皆さんと共に構築できるはずだと考えたんです。

 「巻数単位で無料」というタッチポイントだけでなく、いま商業誌で連載中の作品、あるいはアニメで放送され注目が集まっている作品も「エピソード単位で無料」で読めるようにすれば良いのではないかと。これまでその役割の中心にあった週刊誌・月刊誌を読む人も残念ながら減っている、そして休刊も相次ぐ中、LINEやLINEマンガが新たにスマホ時代のタッチポイント作りのお手伝いをできるはず、と各社に提案させて頂き、ご協力を頂けたというわけです。

―― その“協力”の結果、『進撃の巨人』といったビッグタイトルが並ぶわけですが、調達コストなどはどうなっているのでしょう。

村田 今舛田がお話ししたように、LINEのユーザーベースを生かせば売上の向上が図れるはずです。このため、LINEマンガ連載についてはプロモーションメリットを鑑みて基本無償でご協力頂いています。

 ローンチ前には「無料で公開してしまったら、売上が下がるのではないか」という懸念を頂くこともありました。しかし、蓋を開けてみれば、無料連載によって、「○巻無料」以上に単行本の販売に貢献することが実証されつつあります。

 例えば、進撃の巨人もすでに14巻まで刊行されており、通常、1巻が大きく動く(売れる)のは珍しいのですが、LINEマンガ連載であれば一気に何十万人のユーザーがそれを読んでくれます。いま2話まで公開した段階(取材時)にも関わらず、1巻が連載開始前の約10倍のペースで売れています。これから話数を重ねていけば、さらに購入に至る率は高まっていくのではないかと思います。

よりライトな層へ――「マンガ全体を包含できる」プラットフォームを志向するLINEマンガ

―― LINEマンガ連載も、メディアドゥ社を介しての配信・調達ですか?

村田 はい。これまで同様メディアドゥが提供する「MD-DC」を使っており、1巻単位の有料販売はダウンロードで、1話単位の無料配信はストリーミング配信で、といった制御をしています。

 ただ調達については、従来のダウンロード型の販売に比べ、出版社とのより緊密なコミュニケーションが必要ですから、システム的にはメディアドゥを介しつつも、私たちが出版社と直接やり取りをする場面は多くなっています。いずれにしても3者で密に連携を取りながらやっています。

LINE マンガ連載水曜更新作品例 LINE マンガ連載水曜更新作品例

―― これまでの「1巻無料」という形も継続していくのでしょうか?

舛田 そうですね、これからも1巻単位での無料キャンペーンは行っていく予定です。1巻ごとに無料で読めるようにするのと、1話ごとに更新していくのは、実は読者に与える影響が異なると僕は考えているんです。

―― それはどのように異なるのでしょうか?

舛田 「○巻無料」が与える影響は、その作品を好きになるか否かの2択。でも連載は、曜日ごとにラインアップされるさまざまな作品が目に入ることになります。つまり、週刊誌や月刊誌を読むときと同様に、新しい作品と触れる機会が生まれるはずです。その結果として「好きなマンガが増えていく」のが大きな違いだと言えます。

―― 連載という形式は、マンガボックスやcomicoと体裁は似ていますが、既に単行本化されて販売されている作品からの配信という点が大きく異なりますね。

舛田 そうですね、「新規作品」を自ら生み出すのか、マンガ産業全体を見て、既存作品へのタッチポイントを生み出すことに力点を置くのか――その点が、マンガボックスやcomicoとの違いですね。われわれは「単行本を売る」というゴールも始めからあります。ストア(電子書店)からスタートした、という経緯ももちろんこの選択をした理由にはあります。

 コンテンツは既に十分に面白い、ただタッチポイントが少なくなっているのが課題。そして、LINEマンガでの1巻無料や特典スタンプなどでコミュニケーションをベースにしたタッチポイントを増やせば、単行本の売り上げが増えた実績もある。その効果をLINE流にさらに増やしていきたいからこその「連載」なんです。他のサービスとは狙いが異なりますし、恐らく読者層も異なります。マンガ雑誌や書店にもいろいろなスタイルがあるように、棲み分けられると考えています。

 理想的には、LINEマンガは今回の連載も含めて、「マンガ全体を包含できる」プラットフォームになれたら良いなと思っていますが(笑)。

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―― その「全体を包含」という観点から、作品の選択はどのように行われているのでしょうか?

村田 これまでの売れ行き、あるいは「○巻無料」の効果も見ながら、われわれから提案することもあれば、各社からご提案も頂くこともあります。もちろん、著者の方々のご判断もあります。そういった点を総合し、協議しながら決めています。また、曜日ごとにジャンルを決めて作品を絞り込む形ではなく、できるだけまんべんなく毎日幅広いジャンルを楽しんで頂けるよう編成しています。

舛田 企画段階からの方針として、「これから人気が出そうな」タイトルばかりで構成されることのないよう気を付けるということがありました。やるからには、『東京喰種』や『進撃の巨人』のようなメジャータイトルも含めてラインアップしていこうと。その結果として、これから伸びるタイトルにも光が当たり、読んでもらえることになるはずだと考えていたのです。

―― メジャータイトルとなってくると、出版社から見たときに他のビジネスとカニばる(共食いになってしまう)懸念はないのでしょうか?

舛田 それはなかったと思います。これまでお話ししてきたようにタッチポイントの役割が異なりますから。LINEマンガ連載で触れる前からその作品が好きな人は、単行本を紙にせよ、電子にせよ、いの一番に入手しているでしょう。LINEマンガ連載で初めて作品に触れる人は、そうではないかなりライトな層と言えるはずです。カジュアルよりも、よりライトな層――マンガを読む習慣すらない人たちも相当含まれているのではないでしょうか。

 そういった層に、新たなタッチポイントを提供し、マンガに触れてもらわないと産業自体がシュリンクしてしまうという危機感があるわけです。LINEマンガ連載がカバーしたいのはまさにそんな層ですね。

出版社の取り組みとLINEマンガは両立できる

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―― しかし、出版社自身がそういった取り組みを行っている場合はどうでしょうか? 例えば現在、ComicWalker(LINEマンガ同様、単行本化された作品も1話単位で更新を行っている)を展開するKADOKAWAはLINEマンガ連載には参加していません。

舛田 KADOKAWAさんとも、LINEマンガ(注:連載ではない従来の単行本販売)でのお取引はあります。LINEマンガ連載については現状が全てではないとだけお伝えしておきます。これからもタイトルは増えていく、あるいは連載が終わった作品は当然入れ替わりもあります。

 個々の出版社での取り組みももちろん大切ですが、われわれが提供できる価値は「LINEならでは」のものです。自社で行う場合は、ユーザー獲得のためのマーケティングコストが当然掛りますし、残念ながら直ぐにユーザーが増えるわけではありません。そして、お話ししてきたように、出版社あるいは雑誌媒体ごとの取り組みですと、どうしても「その出版社あるいはその雑誌が好き」なコアなユーザーが中心に集まってきます。

 横断的に作品を扱うLINEマンガには、よりカジュアルでライトな層――出版社独自の取り組みではなかなか出会うことが難しいユーザー層――が居るわけです。従って、出版社の取り組みとLINEマンガは両立できるものと私は考えています。

―― マンガへの「タッチポイント」を増やさねば、というのはマンガボックスやcomicoに話を聞いてもよく言及される点です。LINEマンガあるいはLINEマンガ連載では、その力点が既存の作品を売る=ストアへのタッチポイントを増やすこと、にあることも分かりました。逆に言えば、LINEマンガが、他のサービスのように自ら編集部、あるいはそれに類する機能を持って、新作を作ったり、その二次利用を図るといったことはしない、という理解でよいでしょうか?

舛田 今回はこういうカードを切りました。しかし、LINEの他のサービスを見ていただくと分かるように、LINEマンガでもさまざまなカードを用意していて、適宜それを切っていくことになるでしょう。僕はカードは沢山持ってないと不安なんですよ(笑)。

 いまは、とにかくマンガとユーザーの出会う場としての魅力を高めていきたい、ただそれだけですね。

―― そのカードの中に「定額制」が含まれているかが気になります(笑)。有料マンガのライブラリがあって、そこに無料でのエピソード公開を通じて誘導するスタイルを突き詰めると、定額で読み放題とすればさらに売上が上がる、という仮説が成り立ちませんか?

舛田 それは難しいのではないでしょうか。われわれは仕組みよりもコンテンツを大事にしたいと思っています。

 まず、定額制にして、コンテンツが今と同じように集まるのかどうか、という疑問が出てきますね。また、定額にしたから、さらに読者が集まるという単純な話でもないように思えます。そのためにはいろいろな仕掛けが必要ですよね。

 もちろん、これまでお話ししたような要素が上手く組み合わさり、「より売上があがる」という仮説が真となれば、音楽のようにそちらの道に進んでいくこともあり得るかもしれませんが。マンガについては、ちょっと違うのかなという感覚の方が現時点では強いですね。

著者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(いずれもアスキー新書)『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)など。

 取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto


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