インタビュー
» 2014年09月08日 11時00分 UPDATE

“オモシロそう”が原動力――裏サンデーが始める3つの取り組み

Webコミックのみならず、グッズ販売からリアルイベントまで幅広く展開する小学館のWebコミックサイト「裏サンデー」。サイト立ち上げから2年以上が経過した今、裏サンデーは何をしていくのか、裏サンデー編集部の編集長・石橋和章氏と編集・小林翔氏にお話を伺った。

[宮澤諒,eBook USER]

 小学館のWebコミックサイト「裏サンデー」。2012年5月「漫画界のルールと伝統をぶちこわす」を合言葉に、週刊少年サンデー編集部の有志によって始まった同サイトは、立ち上げ当初から『モブサイコ100』(ONE)、『ケンガンアシュラ』(原作:サンドロビッチ・ヤバ子 作画:だろめおん)、『ヒト喰イ』(原作:MITA 作画:太田羊羹)などの人気作を掲載。オープン2年で月間ユニークユーザー(UU)120万、月間ページビュー(PV)2700万を突破する人気Webコミックサイトとなった。

 その裏サンデーがいま、「オモシロそうなこと」を求めて、リアルイベントやアプリ開発などの新たな取り組みをスタートさせている。一体裏サンデーはこれから何をしていくのか、裏サンデー編集部の編集長・石橋和章氏と編集の小林翔氏にお話を伺った。

新たな風を呼び込む――そのカギは“パートナー企業”にあり

rmfigura1-1.jpg 左から編集長の石橋和章氏、編集の小林翔氏 「恥ずかしいので顔は勘弁してください」とのこと

―― 7月に週刊少年サンデー編集部から独立したとお聞きしました。独立したことで何か変化はありましたか?

石橋和章氏(以下、石橋) 決定スピードが格段に早くなりました。編集部員は立ち上げ時と同じ3人という少人数でスタートしたので円滑に動けるようになりましたね。『週刊少年サンデー』というブランドは使えなくなりましたが、その代わり自社内のいろいろな媒体と協力できるというメリットも生まれました。

―― 現在新たな取り組みを始められていますが、詳しく教えてください。

小林翔氏(以下、小林) 裏サンデーでは5月ごろから、企画やイベントを共催するパートナーを募集していまして、応募いただいた数十社の中から3社と事業を展開することになりました。すべての企業と組んで企画を始めたかったのですが、僕らの人手が足りないため、まずは第1弾として裏サンデーらしい”新しくオモシロイこと”ができそうなpixiv、零狐春、LINK-Uさんと企画を始めることにしました。

―― pixivとの企画では作画担当を募集していますが、どういった意図があるのでしょう。

石橋 読者の中には、裏サンデーのマンガはこういうものだという“裏サンデーらしさ”みたいなイメージを持っている方がたくさんいまして――

―― 裏サンデーらしさ、というのは?

石橋 いわゆるWebマンガらしい、尖った作品のことですね。現在、裏サンデーでは第3回の連載投稿トーナメントを開催中ですが、そういった作品が数多く寄せられています。もちろん尖った作品も必要ですが、どんなマンガでもオモシロければそれでいいと思うんです。なので、裏サンデーらしさみたいなものは今のところなくてもいいと考えています。

 そういった意味で、ちょっと毛色が違うpixivのクリエイターさんたちに裏サンデー作品の作画をしてもらうことで、いろんな方向性を持った作品を増やしていく、といった狙いがあります。

マンガが読めるだけじゃない、裏サンデーが目指すアプリとは

―― 今回の取り組みではアプリの開発も行われていますが、なぜサイトのオープンから2年以上経過した今、アプリを作ることになったのでしょうか。

アプリ開発などを行う「LINK-U」と共同で開発中 アプリ開発などを行う「LINK-U」と共同で開発中

石橋 裏サンデーの月間UUは120万で、この数字は国内のWebコミックサイトでは最大級だと思うのですが、ブラウザ版の限界だとも思っています。作品を増やしても、120万という数字からなかなか増えていかない。一方で、comicoやLINEマンガのようなアプリでは、500万〜700万ダウンロードというびっくりするようなダウンロード数になっている。新規の読者を増やそうと思ったら、アプリを作る必要があるんです。

―― どんな機能を実装する予定ですか?

石橋 詳しくはまだ開発中なのでお話しすることはできないのですが、コンテンツフリーの問題をどうにかしたいとは考えています。

―― 裏サンデーの作品は誰でもダウンロードできるようになってますよね。アプリではそういったことはできないようになるということですか?

石橋 まだそこはシークレットということで(笑)。10月には何かしら発表ができると思いますので、もう少しお待ちください。

―― 楽しみにしています。裏サンデーといえば、初期のころは作品のアーカイブを公開していましたが、なぜやめてしまったのでしょう。

裏サンデーのレーベル「裏少年サンデーコミックス」の創刊は2012年11月16日。現在『シンドバッドの冒険』の第1巻が50万部に届く勢いだという 裏サンデーのレーベル「裏少年サンデーコミックス」の創刊は2012年11月16日。現在『シンドバッドの冒険』の第1巻が50万部に届く勢いだという

石橋 正直にいってしまうと、アーカイブを公開することで、コミックの売り上げが伸びなかったからです。何度も何度も繰り返し読むことで、読者の中でそのコンテンツの魅力が薄れていき、簡単にいえば飽きてしまう。実際にアーカイブの公開をやめてから、コミックの売り上げは伸びました。

 そういうことも含めて、アプリでは新しい仕組みを導入しようと思っています。全話を無料で公開したりはせず、課金制を導入したり。いまのような無料で毎日読めるという感覚は残しつつ、もう少し新しいことを取り入れる予定です。

小林 読者のためを思うと、どうしてもサイトは無料で作品を公開するようになります。でも、ずっとそれをやっちゃうと、作家や作品の価値を下げることにつながる。作家がどれだけがんばっても、無料なのが当然ということになり、オモシロいものを作った対価が支払われないと、若いクリエイターにとって魅力的な場でなくなってしまう。

石橋 それを原稿料という形で補うことはできるんですが、私たちが利益を出さないとそういうこともできないので、アプリでは作家に何かしら還元できるような仕組みも導入していくつもりでいます。これ以上は、また10月にお知らせできたらなと思います。

―― 裏サンデーでは、作家さんへ利益を還元することをかなり重要視されているように感じます。

小林 僕らはWebで公開しているけど、雑誌のマンガよりもオモシロさが負けているとは思っていません。Webコミックって、雑誌よりも原稿料が安いというイメージがあるかもしれないですが、むしろ裏サンデーでは紙と同じかそれ以上支払っています。

石橋 コンテンツに対してお金を支払わないという習慣が、日本人の中でだんだん広まっているんじゃないでしょうか。音楽にしろ、ゲームにしろ、コンテンツにお金を支払わないという意識はおかしいんじゃないかと思っていて、その空気を少しでも変えていきたい。目指すは、日本一原稿料が高い編集部です。

作家と読者が一緒に楽しめる場、それが裏サンデー

―― 『モブサイコ100』のTシャツ販売など、グッズにも力を入れていますね。

小林 『モブサイコ100』の企画はデザイン総選挙という形で、読者の投票でTシャツのデザインを決めました。裏サンデーでは、作家と読者が一緒に盛り上がるという文化祭みたいなお祭り感を大事にしていて、デザイン総選挙はまさしくそういったイベントでした。

この企画だけの限定生産。注文は9月15日まで受け付けているがすでに売り切れも出始めている この企画だけの限定生産。注文は9月15日まで受け付けているがすでに売り切れも出始めている

―― LINK-Uや零狐春はいずれもできて間もない企業や団体ですが、パートナーに選んだ決め手は何だったのでしょう。

石橋 やはり、若くて、考えが柔軟で、発想が新しいからですね。私たちは自分たちのことを社内ベンチャーだと考えているので、組むなら同じベンチャー企業や学生だろうということで。LINK-Uはまだできて2年目ですし、零狐春は学生団体なんですけど、開拓精神やチャレンジ精神といったものを持っていて、一緒にやりたいと思わされました。

10月4日〜5日に開催予定、『マギ シンドバッドの冒険』の世界観を再現した「リアル攻略ゲーム ―迷宮バアル 攻略篇―」。学生団体「零狐春」とタッグを組んだ裏サンデー初のリアルイベント 10月4日〜5日に開催予定、『マギ シンドバッドの冒険』の世界観を再現した「リアル攻略ゲーム ―迷宮バアル 攻略篇―」。学生団体「零狐春」とタッグを組んだ裏サンデー初のリアルイベント

石橋 思いついたらやってみる。オモシロいことをかたっぱしからやってみて、どれか事業化できたらいいなぐらいの心構えでいます。なぜリアルイベントをやるのかといわれたら、それは“オモシロそう”だからです。もちろん企業である以上は利益を出していかなければならないですけど、チケットが完売しても黒字になるかどうか(苦笑)。

小林 でも、イベントをやることで経験にもなりますし、今度はもっと大きなイベントを開催できるようになるかもしれない。編集業務とイベントと宣伝はそれぞれ別の担当者がやるのが一般的ですが、裏サンデーでは1人の編集が全部やる。作品を担当しながら新しいことを始めるにはとても少数ですが、社内にいながら独立したベンチャー企業にいる感覚なので、これからも読者が楽しめる作品や、企画を生み出せるようにしていきたいと思っています。

石橋 これからも企業や団体と協力して、さまざまなイベント・企画を行っていくつもりです。ご期待ください。



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