すべては妄想に過ぎないと気付かされる『勝手にふるえてろ』私設図書館シャッツキステ62冊目

本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。今日はサヤからの紹介です。

» 2014年07月25日 12時00分 公開
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 長い雨が明けて、夏がやってきたこの街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。

 そこには書架を守る司書メイドがいます。ほんわりおっとりした司書メイド ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。

 彼女の好感度を上げようと、今日もお気に入りの1冊を持って、書架にメイドがやってきます。

すべては妄想に過ぎないと気付かされる『勝手にふるえてろ』

サヤ

最近はときめき系の作品ばかり紹介していたので、すっかりときめき担当みたいな感じになっていますが、私は文学メイドですからね、他にも色々と小説を読んでいるわけです。


ミソノ

でも今日持ってきた本のあらすじに「キュートな恋愛小説」って書いてあるわ?


『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ/文藝春秋) 『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ/文藝春秋)

サヤ

確かに『勝手にふるえてろ』は26歳の主人公ヨシカが、中学生からの片思いをしている相手と、猛烈なアプローチをしてくる同僚との間で揺れる話です。なので恋愛小説でないことはないのですが、ヨシカは恋愛なんて全然していないんですよ。


ミソノ

んん? 片思いをしているのに、恋愛はしていない……?


サヤ

何でもヨシカは、片思いの相手とはろくにしゃべったこともない上に中学卒業以来一度も会っていなくて、アプローチしてくる同僚のこともよく知らないしこれっぽっちも好きじゃない。しかもそれぞれをイチ、ニと呼んでいます。イチ、ニと順番で名づけてしまうセンスは読んでいる分には面白いですけど、自分がやられたら泣きますね。


ミソノ

こだわっていないと言うか、そっけないと言うか……。


サヤ

恋愛していない代わりにヨシカは、叶えることが難しそうな理想を貫くか、手ごろに叶えられそうな現実をとるかで悩みます。でもこの小説が面白いのは、理想が理想のままでいてくれなかったからなんですよね。


ミソノ

相手が変わってしまったってことかしら。


サヤ

イチに会うために開いた同窓会で、イチが自分の名前を覚えていなかったことが発覚します。ここで、現実のイチが自分の好きだったイチと違うこと、自分の好きだったイチは妄想によって作られた自分の中にいるイチだったことに気付くんですよ。そしてそれに気付いたときに、ヨシカは現実を見るの? 見ないの? ってところに『勝手にふるえてろ』の醍醐味があると思っています。


ミソノ

長い間思っていたのに! 長ければ長いほどダメージ大きそうだわ。


サヤ

『勝手にふるえてろ』を読んで、ヨシカと私ってなんだか通じるところがあるように思いました。私はとあるゲームのキャラクターがとても好きで、日々妄想に励んでいることはミソノさんもご存じだと思います。でもそのゲームの中で、「この言動はこのキャラクターらしくないな」と思うことがあるんです。これってヨシカと同じように、私の中に私の妄想によって作られたキャラクターがいて、それが現実と離れてしまっているんじゃないでしょうか。


ミソノ

自分で「きっとこんな人なんだろうな」って思い込む……きゃーきゃー! 私にもちょっと思い当たる節があるわ!


サヤ

『勝手にふるえてろ』には「ちゃんと現実見ようよ」っていうメッセージが込められているような気がして、なんだか耳に痛いです。


ミソノの好感度パラメーター

本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?

エリス:31% レイラ:66% サヤ:71%


本日のメイド

ミソノ ミソノ:いつもニコニコ、図書館を影から支える司書メイド。好きなジャンル:絵本、児童書、旅行記、本、紙、図書館
サヤ サヤ:三度のご飯より小説が好きな新米メイド。司書見習いとして、本棚整理などミソノの仕事をよく手伝っている。好きなジャンル:近現代文学、少女漫画

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