日本の貴重なデジタル化資料を公開している国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)。本連載では、デジコレで見ることができるデジタル化資料の中からコレは! というものを探し出し、紹介していきます。
昨日、宝くじが当たる夢を見たのよ。
起きた時むなしくなかったですか?
そりゃあもう……「わたしの1億円を返せ!」って感じよね。
「お金」「夢」といえば、第1回で桃太郎の赤本を取り扱った際に、世相を描いたという「黄表紙」について軽く触れましたが、その黄表紙の始まりとなった作品がお金と夢をテーマにした物語なんですよ。作品の名前は『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』といいます。
金々先生……まさしくって名前ね。それで、誰の作品なの?
作者は江戸中期の浮世絵師、そして戯作者の恋川春町です。1763年に小島藩士となり、その後は出世しながら作品を書き続けます。しかし、1786年に書いた『鸚鵡返文武二道』が松平定信の寛政の改革を批判する内容だったため、定信に出頭を命じられるも病気を理由に断り、同年亡くなります。
病気で亡くなった、とも思えないわね。
出頭してもただでは済まされないでしょうからね。本当のところは分かりませんが。さて、それでは『金々先生栄花夢』はどんな話なのか、デジコレの画像とともに見ていきましょう。
ここまでで上巻は終わり。本来は上・下巻の2冊に分かれていますが、デジコレのものはどうやら合本になっているようです。
目を覚ました金兵衛は最後にこう悟ります。「夢の中で栄華を極めて一生分遊んだけれど、それは栗餅ができあがるまでの短い時間だったのだなあ」と。
栄枯盛衰ということね。
繁栄を極めてもいずれは滅びてしまう。はかないものです。このように黄表紙ではちょっとした教訓めいた内容になっています。
また、教養を試される内容でもあります。作品に登場した、源四郎という名前は浄瑠璃の隠語で「盗人」という意味があるそう。さらに、清三も隠語で「酒」の意味があります。分かる人にとっては、登場したときにニヤリとできそうな仕掛けですね。
なお、物語は沈既済の小説『枕中記』の「邯鄲の夢」を題材としています。こちらは栄華が思いのままになるという枕を使い、夢の中でさまざまな贅沢を尽くしたけれど、結局はおかゆすら炊けていない短い間のことだったという話になっているそうです。
ちなみに『金々先生栄花夢』は鱗形屋から出版された後、江戸の出版人・蔦屋重三郎によって再刊されます。彼はTSUTAYAの名前の由来となった人物ですね。彼は吉原の生まれで、初めは吉原大門の前に店を構え、吉原細見と呼ばれる店ごとの遊女の名を記したガイドブックのようなものを販売していたのだとか。その後は、戯作者・朋誠堂喜三二の黄表紙や、浮世絵師・東洲斎写楽の役者絵などを出版します。
彼の偉業については、次回彼の手掛けた作品とともにお伝えしましょう。それでは次回もお楽しみに!
(出典=国立国会図書館)
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