インタビュー
» 2014年05月16日 11時00分 UPDATE

海外の電子書籍市場で日本の小説を売るということ――プロデューサー清涼院流水に聞く (1/3)

作家自ら作品を英訳し、電子書籍として海外の市場で販売するという、清涼院流水氏が立ち上げたプロジェクト「The BBB」。その取り組みと展望について聞いた。

[陰山遼将,eBook USER]

 作家・清涼院流水。

 1996年に『コズミック 世紀末探偵神話』で第2回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。その前代未聞の設定やストーリーは、読者だけでなくミステリー作家の間でも大論争を巻き起した。現在までに70に及ぶ著作を持つ。

 まさに流れる水のごとく、歩みを止めずに意欲的で斬新な取り組みを次々と打ち出す流水氏。30歳からは独学で英語を学び(TOEICスコア990点取得)、近年は英語指導の領域へも活躍の場を広げている点などは、ありふれた物差しでは測れない氏の一面だろう。2013年には世界初となるTOEICを題材にしたミステリー小説『不思議の国のグプタ』(アルク)を発表し、2014年8月には自身が主催する「英語部」の勉強法をドキュメンタリータッチでまとめた『社会人英語部の奇蹟(仮)』をKADOKAWAより刊行予定。

The BBB The BBB。BBBは“Breakthrough Bandwagon Books”の頭文字。すでに主要な電子書店に配信が行われている

 しかしここでは氏の類いまれな筆力ではなく、氏の手掛けるプロジェクトを取り上げたい。それは、2012年末に始まったもので、日本人の小説家やビジネス書著者の作品を英訳し、電子書籍として全世界に発信する「The BBB」(以下、BBB)だ。

 作家自身が電子書籍を自主出版する動きがみられるようになった昨今。しかし、作家自ら作品を英訳し海外に向けて日本のコンテンツを発信するBBBの取り組みは他に類を見ない。作家でもあり、同プロジェクトのプロデューサーでもある清涼院流水氏にその真意と、海外市場で日本の作品を売るという取り組みのなかで見えてきたものについて聞いた。

プロジェクト「The BBB」 その目的とは?

作家・清涼院流水氏 作家・清涼院流水氏

―― 最初にBBBプロジェクト発足の経緯から伺いたいと思います。清涼院さん自ら小説の英訳を行い、電子書籍として海外にコンテンツを発信する取り組みの背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

清涼院流水(以下、清涼院) 2009年に、親友でもあるカナダ人マンガ家のカイ・チェンバレンと、「bbbcircle」という英語コミックを無料で読めるサイトを始めたんです。4コママンガのシナリオを僕が英語で書いて、彼が絵を描くという方式で。いざ作品を発表してみると、世界中から毎日1万を超すアクセスがあり、その予想外の反響に驚きました。

 最初は4コママンガの1話を書くだけでも大変でしたが、2年以上も続けているうちに慣れてきて、次第に「もう短篇小説なら英訳できるんじゃないか?」と感じるようになったんです。マンガのシナリオの次は本業の小説でも挑戦してみたいな、と。bbbcircleで世界中から作品の感想が寄せられる経験を経て、インターネットと英語を組み合わせた活動の可能性に感動しまして、その快感から離れられなくなって(笑)。

―― 世界中からの感想というのは作家冥利(みょうり)に尽きる快感なのでしょうね。

清涼院 そうですね。国内での活動からは決して得られない、不思議な感覚でした。次に立てた目標としては、自分自身の作品を中心に英訳するつもりでしたが、ある集まりで近しい関係の作家さんたちに企画の構想をお話しした際、「ぜひ参加したい」という方が何人もいらっしゃって。

 そのとき、思ったんです。自分の作品を海外へ発信したいという熱意を持ったクリエイターがこれだけいるのなら、日本の出版業界の流れをも変えるような大きな挑戦ができるのではないか、と。それから2年以上の試行錯誤と準備期間を経て、2012年12月にプロジェクトとして発足させました。

悲鳴をあげる日本の出版業界のなかで

―― そこには今の出版業界に対する問題提起というような気持ちもあったのでしょうか?

清涼院 日本の出版業界は英語圏に対しての訴求力がとても弱いんです。これまでの活動でさまざまな出版社さんとお仕事をさせていただきましたが、語学出版社さんは別として、英語ができる人材はどこも本当に少ない印象を受けています。

 例えば僕の作品、特に関連コミックはアジアやヨーロッパでは多くの国で翻訳されていながら、英語圏にはまったく紹介されていません。昨年からBBBに加わってくださった森博嗣さんは日本を代表する人気作家のおひとりですが、意外なことに、数にして260を超す森作品ですら今まで1つも英訳されていないんです。日本のミステリー作品で英語圏に紹介された例というのは、数えられる程度でしょう。

 そんな状況下で、森さんも他の作家さんたちも、ご自分の作品を英語圏に向けて発表することを渇望されています。日本のコンテンツとしてはアニメやマンガ、ゲームばかり注目されがちですが、僕は日本の小説もとても優れていると信じているんです。英訳できる人材がいない、という理由で良質な作品を海外の読者に届ける機会を失い、作家さんたちの夢を叶えられない状況は何とかしたいです。

―― そういった状況には、出版業界全体の落ち込みというのも関係しているのでしょうか?

清涼院 日本の出版業界では一時期から特に、お笑い芸人やグラビアアイドルたちが次々に売り出されては消えていくように、誰かがまぐれ当たりでヒットするまで続々と新人作家をデビューさせたり、ごく数人の旬の作家を潰れるまで消費する、という流れが強くなってきたように思います。

 編集者の中にも「作家さんたちを商品として消費してしまっている」と罪悪感を抱いておられる方は何人もいらっしゃいます。そういう状況をただ嘆くだけでなく、選りすぐりの作品を1作ずつ丁寧に作っていけるような環境と仕組みを何とか構築できないかと、もう何年も模索し続けてきました。

 デジタルなものの普及が進んで業界全体が明らかに新たなフェーズに突入しているのに、出版社内の世代交代が進んでいない、という問題もあります。大手出版社などでは定年退職目前の方たちが役員なので改革を嫌がっている、というケースもよく耳にします。あと数年で「勝ち逃げ」できる人たちにとっては、リスクを負ってまで改革する必要性はないのです。

 そうした出口の見えない閉塞感の中だからこそ、明るい未来へ通じる突破口を見出してみたい、という気持ちが強くあります。かつて野茂選手がメジャーリーグへの道を切り拓いたように、進むべき道筋のようなものを選択肢として僕が示して、みんなが救われる新しい仕組みを見つけられないかと。

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