BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は渋谷のアートや写真に強い古本屋「Flying Books」を紹介する。
今回の本屋探訪記は渋谷のアートや写真に強い古本屋「Flying Books」(以下は2012年3月30日時点の記録だ)。
原宿に出るということで「昼飯どこで食べよう」とツイートしたらリプライしてくれた方がいた。そのときにオススメの店の場所と一緒に教えていただいたのが「Flying Books」だ。
このFlying Books、雑誌で本屋特集が組まれれば、高い確率で紹介されるところで名前だけは前から知っていた。なかなか行く機会もなく何カ月もたってしまっていたのだが、フォロワーさんにオススメされるとすぐ行きたくなるというのも面白いものだ。
渋谷駅西口を出ると正面にある飲み屋街(渋谷中央街)。東急プラザ斜め裏に立つ「渋谷古書センター」という建物。ここの2階に入っているのが、Flying Booksだ。
分かりやすいよう、始めにまとめを。
渋谷古書センターの階段を上ると、すぐガラス張りのバーのような空間がある。ドアも何もないがこげ茶のフローリングが敷いてある場所が店舗だ。
入ってみるとジャズが丁度良いくらいの音量で流れており、この時点でジャズ好きの僕は思わずリラックスした気分になってしまう。
正面左手にあるカウンターはレジも兼ねているが、椅子が少ないながらも並べてありドリンクが注文できるようになっている。店主のお姉さんがカウンター前で作業中だ。
店のレイアウトは、右手に広い長方形の店舗のやや右手の中央に本棚が2列。左辺のカウンターがある場所以外はガラス張りの通路側も含めて壁沿いの本棚だ。しかし、例外がある。カウンターの両隣がガラスケースとなっていて、ここには貴重書が展示されている。そう、Flying Booksは雰囲気だけのお店ではない。しっかりした古書店なのだ。
それでは手前から順番に本棚を見ていこう。まずは、入ってすぐ目に入ってくる中央の棚を左から右に見ていき、その裏側……というように見ていくことにする。
入口側(手前側)は音楽関連の本と古雑誌が多い。ジャンルは主にジャズとクラシック。ほか、膝くらいの高さに平積み台があって、『an・an』『nonno』などの古雑誌が置かれていた。
以下に気になったものを記す。
この本棚の裏側はエロチシズム、建築、デザイン、アートが多く、そのほかには海外の絵本が少々。平積みには『季刊 デザイン』や『エバーグリーン』などの古雑誌。
総じて1本目の棚は「耳と目で楽しむ棚」と言えるだろう。
1本目の棚を見終わり、振り返ると2本目の棚である。1本目とは様子が違い、新刊書店で見かけるような雑誌用の面陳棚が半分を占めている。
ここには、海外の古雑誌がメインで置かれている。『ニュートンズイラストレイテッド』『セブンティーン』といった名前があるのだが、どういった種類の雑誌なのか見当もつかない。勉強不足が身に沁みる。しかも、残り半分は雑誌用の面陳棚ではなく普通の棚だが洋書メインだったりするのだ。平積みはもちろん洋雑誌。もう何が何やらさっぱりなのである。
そうやって頭の上に?マークをたくさん浮かべながら棚を眺めているとようやくなじみ深い日本語の書名があった。ここはカメラの棚でもあったのだ。『篠山紀信と28人のおんなたち』など篠山紀信の本や『花人生』『灰色の街』『劇写 女優たち』などのアラーキーの本。木村伊兵衛の本や雑誌『アサヒカメラ』があり、平積みの余った部分には『百貨店進化論』や『世界の服飾デザイナー』『ブランドの世紀』など服飾デザインの本が置いてあった。ふーっと一息ついて裏側に回ると、店舗の奥の壁と今見ている2本目の棚に挟まれる格好となる。
こちらには何があるかというと「文学」である。書名で言うと、『妖精物語』『グリム兄弟』『アンデルセン』『アニルの亡霊』『サンデグジュペリの生涯』『ジャンコクトー伝』(全8冊48000円)、『イシス幻想』『ヘンリ・ミラー全集』『サイバネティックフィクション』など。
雑誌も幾つか『本とコンピューター』『ユリイカ』が3段分、『ウェイブ』が10冊くらい、『エナジー』『対話』『カイエ』『本の手帖』『現代詩手帖』『現代のエスプリ』『創造の世界』など。著者名で言うとド、ストエフスキー、バタイユ、シェークスピア、ヘミングウェイ、ジョイス、カポーティーなどである。イギリス文学、アメリカ文学を中心に海外文学を幅広くそろえていたように思う。
ちなみに、ここの平積み台は平積みではなく背を向けて並べられており棚と同じく「文学」関係の本で3分の1が洋雑誌。『ライフ』『ルック』などが積まれている。表の洋雑誌が溢れたのだろうか。文学棚に洋雑誌というのも不思議な組み合わせである。
壁から独立している本棚は見終わったので、次は壁棚だ。
まずは、入り口横のガラスに面している棚から始めよう。ここは「詩とシュールレアリズム」。そして、zine、リトルマガジンなどインディー系の棚である。個人的にはいちばん好物な棚だ。
シュールレアリズム系は、コクトーや『シュルレアリスム読本』などアンドレ・プルトンの本。ダリ、ランボー、ポワロー、『二グロと河』など。zine、リトルマガジンなどインディー系の本『0円ハウス』や『スペクテイター』『アメリカンブックジャム』『黒猫ナイト』。詩は島耕一、金井美恵子、谷川俊太郎、長岡三夫、宮沢賢治などの詩集で、どれも単行本なのが秀逸である。
しかし、ここの棚で声を大にして言いたいのは小林大吾のCDがあるということなのである! zineやリトルプレスなどと混ざってCDが置かれておりライトループス、小林大悟、SUIKA、アナログレコード盤の『降神』などだが、小林大吾という詩人のCD「オーディオ・ビジュアル」がどどーんとちょうど目の高さの位置にポップ付きで紹介されているのである。
と言ってもこの小林大吾。実はこの店で初めて知った人だったりする。ここまで大仰に言っておいてなんだがこのFlying Booksでメモを取っているときに流れたのが最初なのである。初めのうちは「なんかボソボソ言っているなー。ヒップホップは苦手なんだよなー」くらいの印象だったのだが、2曲目3曲目と聞いているうちに「あれっ。この曲。もしかしたら好きかも」となり、4曲目5曲目と聴いて「さあ買おう。やれ買おう」という目の覚めるような豹変をしてしまったのである。
手のひら返し、朝令暮改……それはとにかく、初めに「良いな」と思った曲は『青ナイルのほとりで』。「CIAとPTAとBGMが…」というフレーズに思わず吹いたのである。
閑話休題。棚紹介に戻ろう。次に紹介する棚は、壁沿いにそのまま進んだ「カウンター真正面奥の壁棚からカウンター左(入り口から見て一番奥)の壁棚」だ。
面陳が多めのこの棚は、Flying Booksで一番長い棚となっている。右から順に、「神話と古代文化」「日本思想」「民俗学」「海外文化」「右翼左翼系の本」「海外思想」「デザイン」「サブカル・アングラ系」「山・川・アウトドア」「メディア」「宗教」「オカルト」「ビートニク」など多種多様なジャンルが境目は曖昧ながらも流れるように棚を構成している。古本なのにジャンル分けが緩やかにでもできているのが凄い!
以下、それぞれのジャンルで気になった書名を箇条書きで挙げる(ここは長くなるので、流し読みを勧める。もしくはCtrl+Fで検索だ。もしかしたら目当ての本があるかもしれない)。
最後にカウンター両横にあるガラスケース。大事そうにしまわれている本はどれも何万円もするものばかりだ。
カウンター奥の方は、背の丈以上もあるケースで、『朱もどろの華』『対立と調和』『トランスアジア』、森山大道『ハワイ』など100冊くらいが展示され、手前は腰くらいの高さで『センチメンタルな旅』や『デュシャンの1991アントワープエキシビション』、ブラック・スパロウ・プレスの年賀詩集などだ。
手前の方はマニアックな品ぞろえでブラック・スパロウ・プレスは、ビートニクについて調べる中で知ったのだけれど、チャールズ・ブコウスキー(正確にはビートニクの作家ではない)の本を出版していた会社である。そんな会社の年賀詩集。ファンにはたまらない品であろう。
これでFlying Booksの棚はすべて見終わった。しかし、話はこれで終わらない。
先に小林大吾の「オーディオ・ビジュアル」について触れたが、一瞬で好きになったため、帰りに「取扱説明書」というユーモアが切れまくった冊子がついた特装版のCDを買ったときのことである。
連れが写真集を買うかどうか迷っているのを見ていたのだろう。店主のお姉さんが「THE PHOTO/BOKS HUB,TOKYO」のことを教えてくれたのだ。これは僥倖と写真に興味が出てきた僕ら二人は翌日に訪問することになるのである。
本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、本を贈る文化をつくる活動「贈本計画」に参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。ネット書店を近日中に開店予定。
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