本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。34回目は、ミソノからのご紹介です。
ほんのわずかばかりの葉を残している街路樹の植えられたこの街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。そこには書架を守る司書メイドがいます。
ほんわりおっとりした司書メイド・ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。いつもは司書お気に入りの1冊を持って、書架にメイドがやってくるところですが、今日はミソノからオススメ返しをしているようですよ。
すっかり寒くなりましたねぇ。
急に風が冷たくなって! 凍えちゃうわ。そろそろ図書館の周りでも雪が降るかしら。
「年の瀬」という言葉も聞こえはじめましたね……今日の絵本は『かさじぞう』です。
あら、有名な昔話ね。
はい。大みそか、雪の中にたたずむお地蔵さまに、親切に笠をかぶせてあげたおじいさん。翌朝、不思議なことにおじいさんの元には宝物が届けられました……と、こんな昔話です。お地蔵さまが宝物をひっぱってくる場面などは印象深いのではないでしょうか。とっても有名な日本の昔話だけあって、同じ『かさじぞう』という名前で古今東西、たくさんの絵本が出版されています。その中でもこの絵本は、文も絵も極上の味わい。わたくしのベストオブ『かさじぞう』です!
文章の瀬田貞二先生は『ナルニア国ものがたり』も『指輪物語』も翻訳されていらっしゃる方ですね。ほかにも『三びきのやぎのがらがらどん』など、児童文学を学ぶ界隈では知らぬ者はいないといっても過言でない著名な方!
そうなんですよ。数々の翻訳作品を手掛けた瀬田先生のつづられる日本語の心地良いことといったら!
「むかし、あるところに、びんぼうなじいさんと ばあさんと あったと」というシンプルな出だしから始まって、「ゆきが もかもか ふってきたので」とか「すっぽりめしを さくさく たべて ねてしまったと」などという、独特の擬音を挟む文章の圧倒的なリズム感!
ふふふ。くすぐったくなるような擬音ですね。
かわいい印象の言葉ですが、昔話の文中にぴたりとはまって、味わい深さがありますよ。
目で追っても楽しいですが、これは口に出すともっと好きになる文章ですよ。「あ、わたしはここはちょっと早口で読むと気持ちいいなぁ」と、探りながら読むと、そのうちに文にぴったりと寄り添う感じすらします。肌なじみのいい文章ってあるんだな……そんな気持ちです。
絵もね、これもまた高名な赤羽末吉先生。
この『かさじぞう』は、のちに『スーホの白い馬』の絵など、高い評価を得る氏の絵本画家としてのデビュー作と言われています。
墨絵のような白黒を基調とした色遣いを要所要所の藍色が引きたてます。筆跡はざっくりとして見えるのに、そのかすれ具合は多様なニュアンスを含んでいる気がするのです。吹雪の中、やっと帰ってきたじいさんを両手を広げて迎えるばあさんのかわいらしさ! 「まっていましたよ」という声が聞こえてきそう。たった1ページでおじいさんとおばあさんが仲むつまじく暮らしているのが、考えるより先に目で理解できてしまうのです。
ストーリーも、じいさんとばあさんの気立ての良さ、雪の冷たさ、お地蔵さんのユーモラスな様子、そして訪れる幸運……短い絵本の中でありながら、昔話らしい地に足のついた展開をしっかり堪能できます。「子ども向けだから」という余計な味付けも感じさせず、さっぱりとしつつ、過不足なくものがたりを楽しめるって、実は昔話絵本では貴重だったりします。
もう……本当に……ベストオブかさじぞう! かさじぞう最高!
せわしない年末、ほっと一息いれるのもいいですね。
ええ。読み聞かせとか、人前で読まなくてもいいんです。ひとりで読んで、時々口に出して楽しむ、または黙って目で作品を味わうのも良い!大人になった今だからこそ、その良さがいっそう身に染みるのです。
本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?
エリス:12% レイラ:35% サヤ:31%
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