インタビュー
» 2013年12月17日 17時00分 UPDATE

よしもとばななインタビュー:iBooks Storeからのサプライズギフト『HOLY』――時代を超えて届ける一冊

クリスマスというタイミングに向け、Appleがサプライズギフトとして選んだのは、1988年に刊行されたよしもとばななさんの本だった。よしもとさんに話を聞いた。

[西尾泰三,eBook USER]

いつか未来のクリスマスに、思い出せるといい光景だと私は思った

 読み終えると、そんな気持ちになる一冊がある。その本の名は『HOLY』。少し縦長の、小冊子と形容した方が正しいこの本は、1988年に刊行。そのタイトルから連想されるように、クリスマスという特別な日を舞台にした20数ページのショートストーリー。著者は『キッチン』『TUGUMI』『アムリタ』などの作品でも知られるよしもとばななさんだ。

HOLY HOLY

 よしもとさんのファンでも、この本を所有している方は少ないかもしれない。しかし、その価値を高く評価し、クリスマスに向けた特別なギフトとしてユーザーに贈るサンタが現れた。AppleのiBooks Storeである。

 Appleの「12 DAYS プレゼント」は、クリスマスの翌日、12月26日から1月6日までの計12日間、ミュージック、映画、ブックなどiTunesの有料コンテンツが毎日日替わりで1日1つ無料でプレゼントされるというもの。「12 DAYS プレゼント」アプリをダウンロードする必要がある。

 全120カ国以上で同時に実施されている企画だが、日本では特別なデイゼロ(Day 0)企画も用意された。これは、12月16日から19日まで、12 DAYS プレゼントアプリを立ち上げると、よしもとばななさんの『HOLY』という作品を無料でダウンロードできるというもの。Appleのしゃれたサプライズギフトといえる。

 iBooks Storeからのサプライズギフトとして時代を超えて選んだ“本”。著者のよしもとばななさんに聞いた。

クリスマスに贈ろうという取り組みで生まれた本だった

よしもとばなな 電子ペーパー端末も所有しているが、電子書籍はiPadで読むというよしもとばななさん

―― 9月に、よしもとさんの著作23作品が幻冬舎から電子書籍としてiBooks Storeで独占先行発売されました。幻冬舎から、というのは何か思いがあったんですか?

よしもと 幻冬舎さんは出版業界の中でも常に先を行こうとする、開拓していく心をお持ちで、昔から何か一緒にできることがあったらなと自分の中でちょっとずつ優先していたんですけれども、今回、これなら本当の意味で価値あることができる、というのが1つ。

 iBooks Storeでというのは、さまざまな人の縁もありますが、わたしが昔からMacユーザーだったということがありますね。「がちゃ・じわー」みたいなマシンだったときから。

―― その音がどのMacか後で想像する楽しみができました(笑)。

よしもと 条件がいっぺんにそろったというのが正直なところですね。条件がそろうかどうかも運のうちですから。自分にとっても、もうこれは絶対やった方がいいんだ、と思って、ほかの出版社から出した本とかもまとめて。

 あと、わたしが引っ越しをして、「もう紙の本なんてうんざりだ」と自分の中でバシッと切り替わったのもあると思います。

―― ご自宅にある蔵書もかなり処分されたんですか?

よしもと わたしが持っている本は特殊なものが多くて、特殊な装丁とかデザインとか、どうやっても電子書籍にはならないだろうっていうものは取っておいて、あとはもう切り替えていこうという。それでも、考えたくないほど、ほんとに考えたくないくらいあります。引越し屋さんが「詰めても詰めても終わらないんです! もう1日ないと!」と泣くくらい。

―― 『HOLY』は「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞されたのと同時期に書かれたものですよね。

よしもと これ、みんなで書いたんですよ。確か10人以上で書いたんじゃなかったかな。小さい本で、プレゼント用封筒とカードがついて、クリスマスに贈ろうという取り組み。

―― 当時の角川書店が“贈物用の本”として企画した「角川グリーティングブック」ですよね。村上龍さんや銀色夏生さんも書かれていました。今では入手困難になっています。

よしもと その中でももっとカード寄り、言葉の入ったカードに近い扱いだったと思います。わたしも「これだけが手に入らないんです」って問い合わせを何回受けたか。自分も持っていないんですけど。

クリスマスに人から贈られて、ただいい気分になることを意識して書いた

―― HOLYは、すべてが祝福される優しく幸せに満ちたショートストーリーですが、どういうことを意識して書かれたんですか?

よしもと クリスマスに人から贈られて、気分が悪くならない、ただ、いい気分になる――それだけを意識して書きました。あんまり恋愛寄りにしちゃうと、用途が限られちゃうから、それを意識した記憶があります。

―― よしもとさんがクリスマスで記憶に浮かぶものは?

よしもと クリスマスっていうと思い出すのが、小学生のころにもう「絶対サンタはいない」と思っていて、自分はいないと思ってたけど、世の中的には一応いるってことになってる時期ってあるでしょ。

 小学校3、4年生のころかな。そのころわたし、野球が好きで、「誰かのサイン入りの何かがほしい」って言っていたら、朝、阪急ブレーブスの選手の誰だろう……、盗塁で有名な人のサイン入りバットが枕元にゴロッと置いてあって。全然望んでいないものだったのがすごい印象的なんですけど、そんなことじゃなくて、もっと素敵な話を、ですよね。

 そういえば、実家の「きよしこの夜」を流すオルゴールの音程が狂ってて、わたし、小学校で習うまで、違う曲を歌っていました。子どものころのことって大きいですよね。膨らみますよね、気持ちが。

―― ちなみにそれはポジティブ、ネガティブの二極で言うとどちらになるんでしょうね。

よしもと ポジティブなイメージですよ。高度成長期で日本人がやっとツリーを家に飾ったりケーキとかを買ってくるようになったときに育ったから、「クリスマスって何て楽しいんだろう」と思いました。お正月って、和食でつまらないですよね、子どもにとっては。

安全重視の世の中になって見えてきたこと

―― 今年が2013年ですから、HOLYは約25年前、四半世紀前の作品となりますが、これを書かれたころと比べて何か変わりましたか? 子ども、あるいは若い人、という視点で感じることがあれば。

よしもと バブルに疲れて、心の隙間を埋めはじめたころですよね、ちょうど。そのころと比べると、今は若い人が慎ましいですよね。言ってることもやってることも。

―― 近著の『すばらしい日々』の中にも、おばあちゃんの言葉として「若い人たちに元気が無いとおっしゃっている」とありました。

よしもと 若い人はほんと大変だと思いますよ。何をすればいいのかも分からないでしょうし、先も見えないでしょうし。でも、自分で切り開いていける人にとっては面白い時代だと思います。

 わたしが10代くらいまでは、子どもが無茶なことをするのを親が止めない時代でした。夏休みを40日間北海道を自転車で走るとか、彼女に何か贈りたいから徹夜で1週間バイトするとか、そういうのを親は止めなかった時代です。

 わたしは止めないですけど、今の大体の親御さんは止める方向で。確かに、東日本大震災もあったし気持ちは分からなくはないんですけれども、型破りな人が育ちにくい時代ではあると思います。わたしも、これでよしとする時代なんだと思ったらいろいろ見えてきたことがありました。

―― 何か意識が変わったんでしょうか。

よしもと 安全重視、でしょうか。リスクを取らないっていう。それはそれでいいと思うんですけど、その中でもやっぱり何か「親が何と言おうと、俺はこうなんだ」みたいなのを持っていないと、これからは生きていけないのかなと思います。

―― 子育てだったり、親しい方とのお別れだったり、震災だったり、さまざまな経験を経て書かれた近著の『すばらしい日々』と『HOLY』をあえて比べるなら、それぞれどう位置付けますか?

よしもと 正直言って、HOLYを書いたころはメンタル的にまったく余裕がなかったです。人生で最も世の中の汚いものに接していた時期でした。余裕がない中で捻出してるから、「よく頑張ってるな、偉いぞ」って今読むと思います。

 『すばらしい日々』は心に余裕がある状態で書いてるから、ある意味、自分では成長を感じます。

―― ありがとうございます。最後に、よしもとさんが子どもにこれだけは必ず読ませたいと思う一冊を挙げるとしたら?

よしもと 『1Q84』を勧めるかも。子どもに読んでほしいという意味では『ゲド戦記』ですね。

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