切なくてやるせない、小学校最後の夏を描いた尾崎かおりさん作『神様がうそをつく。』を紹介します。
尾崎かおりさん作、『神様がうそをつく。』(講談社/アフタヌーンKC)を読みながら、ふと、自分の小学6年生のころを思い出してみた。けれど、こんなに眩しくて、切なくて、やるせない思いを抱いた経験なんて、わたしにはなかった。
小学6年生の七尾 なつる(ななお なつる)と鈴村 理生(すずむら りお)。この物語は、彼らの小学校最後の夏を描いた物語だ。
転校してきた学校で、とあるトラブルからクラスの女子に無視されていた七尾なつるは、ある日、サッカークラブの練習の帰り道で白い子猫を拾う。しかし、早くに父を亡くして以来、女手1つで育ててきてくれた母・七尾 律津子(りつこ)は猫アレルギーのため、なつるの自宅では飼うことはできない。
子猫を抱えながら慌てて外に飛び出したなつるは、その時、偶然、クラスメイトの鈴村 理生と、その弟の鈴村 勇太(すずむら ゆうた)に出会う。事情を把握した理生は、なつるを自宅に招き、そこでなつるは理生の抱えている秘密を知る。
…私たち 二人だけで暮らしてるの
誰にも言わないでね 七尾くん
後に、勇太が“とうふ”と名づけたこの子猫をきっかけに、急速に接近していくなつると理生。彼らは、夏の間、少しずつ自分たちだけの秘密を重ねていく。
理生の父のこと。
サッカークラブの新しいコーチのこと。
お祭り、夕立の降った日のこと。
鈴村 理生を好きになったこと。
少しだけ大人びた夏休み。しかし、なつるが理生の抱えている最大の秘密を知ったとき、どれだけ大人びていても、子どもにはどうしようもできない現実が彼らを襲った。
物語の舞台設定の時季と異なり、だいぶ肌寒いこの季節に、このお話を読むのは、案外最適なのかもしれない。過ぎてしまった夏に想いを馳せながら、なつるや理生の気持ちを推し量る。
けれど、
――…どんな理由があっても…
悪いことだってわかってても
それしかできない時ってどうしたらいいの!?
どうしたらよかったんだよ!?
他にどうしたら――…
けれど。そう、必死に訴えたなつるの言葉に対する答えを、わたしはまだ持ち合わせていない。
生きていく。やがて彼らは中学生になり、そしていつか大人になる。厳しい現実の中にも、必ず光が差している。そんな結末に救われながら、もう一度この物語をはじめから読むと、節々に理生の本音が表れていてまた泣きそうになった。
神様がうそをつく せいいっぱいのうそを
僕たちはそのうそに手を伸ばし生きていく
それでも生きていく。
せいいっぱいのうそに、せいいっぱいの生き方で。
(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)
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