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» 2013年09月13日 12時00分 UPDATE

私設図書館シャッツキステ20冊目:宮崎駿描き下ろしを収録した『ブラッカムの爆撃機』

本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。20回目となる今回は、司書・ミソノの独り語りです。

[ITmedia]
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 この街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。そこには書架を守る司書がいます。

 その図書館の書架の一角。いつもはミソノをめぐる争いが繰り広げられ、にぎやかですが、どうやら今日は誰も書架には来ないようです。暑さも和らいだ書架で、独りお気に入りの本をめくります。

宮崎駿描き下ろしを収録した『ブラッカムの爆撃機』

 その本は二度、出版されました。改訂、改訳、復刊……さまざまな理由で、それはそう珍しいことではありません。ただ、この『ブラッカムの爆撃機』にとって、二度目の出版の際に、宮崎駿さんによる書き下ろし漫画が収録されたのは大きな幸いであったと言えるでしょう。

 宮崎さんの最新作「風立ちぬ」はご覧になりましたか? 戦闘機に携わる登場人物たちが動くたび、この本に収録された漫画、「タインマスへの旅」を思い出しました。宮崎さんがこの本の作者、ウェストールに会うため英国を訪れ、既に没しているはずのウェストールと会話する……という短編漫画が掲載されています。この中で宮崎さんの語る子ども時代、戦争体験、そしてウェストールと自分を重ねる姿が映画を見ながら、何度も頭をよぎりました。

 表題作『ブラッカムの爆撃機』は第二次世界大戦中のイギリスが舞台の、イギリスの作家による児童文学作品です。ドイツを攻撃する爆撃機に乗り込んでいるのは航空兵士養成学校を出たばかりの新米の少年たちと、痩せた中年の機長。彼らが「ウィンピー」と呼ばれる爆撃機で出撃していくのですが……。

wmfigschatz120.jpg 『ブラッカムの爆撃機』(ロバート・ウェストール作/宮崎駿編/金原瑞人訳|岩波書店)

 戦争への恐怖心と必死に戦いながら、なんとかそれを表に出してしまわないように、明るくふるまう少年たち。けれど、戦争はいつでもウィンピーのすぐそばで口を開けて待っているのです。敵の攻撃、先輩の死……それに飲み込まれそうになる少年たちを救うのは機長でした。少年たちから「親父」とあだ名をつけられる彼が、全くもってかっこいい。死への恐怖にとらわれた彼らを「ハムエッグを食いに行こう」と田舎に連れ出し、自然の中で過ごすひとときで少年たちに穏やかな時間を取り戻させるシーンは、機長の器の大きさを感じる美しい場面です。きっと、宮崎さんも機長のことお好きじゃないかしら。だって、たった一コマある犬顔化(犬ホームズに出てきそう!)された機長がとってもとってもかっこいいのですもの!

 そうそう、そのハムエッグや、戦闘機の中で飲むコーヒーがまた印象的で、ふと「この作品を宮崎監督が映像化しないかしら」なんて考えてしまいます。けれど、わたくしの中でその想像は実を結びません。戦闘機乗りの少年たちには小さな美しいシーンのほかには、ひどく残酷な日常が待っているのですから。

 戦闘機に乗り込む彼らの様子が、丁寧に描かれるさまは魅力的です。はじめて読んだ時、自分が「爆撃する飛行機に乗っている人たちを魅力的」と感じたことに戸惑いを覚えました。作中に血しぶきがあがることはありません。けれど、漂う匂いや通信機から聞こえる声、それらがどんなに残酷か……映像で表現するにはあまりに生々しい、そう思わせる描写は文字だからこそ、自分の中にゆっくりと落とし込んでいけた気がします。

 そんなにも残酷でありながら、ちょっとした会話で描かれる少年たちの仲の良さや、機長との関係が、ひどく楽しいのです。私設図書館でこの作品について話題となったとき「キャラ萌えを感じるね」と話された方がいらして、「あ! そういう感覚わかります」と、はっとしました。ぞっとするような描写と、わくわく感が重なりあったこの作品に、さらに宮崎さんの漫画が重なって、魅力的な本になっています。再刊される程に皆を引きつけるこの本、今ぜひ手にとっていただきたく思います。

ミソノの好感度パラメーター

本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?

エリス:12% レイラ:21% サヤ:26%


本日のメイド

ミソノ ミソノ:いつもニコニコ、図書館を影から支える司書メイド。好きなジャンル:絵本、児童書、旅行記、本、紙、図書館

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