木陰にいながら、球児たちと一体感を味わう『おおきく振りかぶって』私設図書館シャッツキステ16冊目

本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。連載16回目は、司書のミソノが司書見習いのサヤに何やらおすすめしています。

» 2013年08月16日 12時00分 公開
[ITmedia]
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 街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。

 そこには書架を守る司書メイド、ミソノがいます。

 いつもはメイドたちからミソノに本をおすすめしていますが、今日は先日のお礼にと、ミソノからメイドへ、本をおすすめするようですよ。


木陰にいながら、球児たちと一体感を味わう『おおきく振りかぶって』

ミソノ

先日、サヤちゃんが夏に読みたい本をおすすめしてくれたので、今日はわたくしから「夏にぜひ」のマンガを紹介します。


サヤ

やっぱり作品によって似合う季節ってありますよね! 少女マンガに限らずマンガは大好きなので、すごく楽しみです!


ミソノ

ああ良かった!

夏……日差しは真っ白なくらいに強く、でも学校の図書室はひんやりとしていて。

開け放たれた窓の向こう、グラウンドから運動部のかけ声と金属バットの打球音。きっと、白いボールは青空に放物線を描いて……そう、野球です。夏!高校野球の季節!

と、鼻息荒くなってみたものの、実はわたくし、野球のルールはさっぱりでした。いえ、もちろんボールを投げて打ったら、どちらのベースに向かって走れば良いのかは知っておりますよ。しかし「ホームラン以外の打球は、失敗作なのよね。偶然にでも、ホームランになると良いですよね」というレベル。

おお、なんということでしょう。


サヤ

わ、わたくしも野球はさっぱり……。先日母に「イニングって何?」と聞いたら鼻で笑われてしまいました。イニングとは常識なのでしょうか?


ミソノ

 分かるわ……。イニングとかビハインドとかチェンジアップとか、専門用語におののいてしまいますよね。

けれども! そんなわたくしがいつの間にか、「まぁ、上手にバントを転がして!」とか「ここで四番に打順が回って来るなんて、ドラマチック!」とこぶしを握って高校野球中継を眺めることができるようになったのですよー。

 月刊アフタヌーンで連載中の『おおきく振りかぶって』は高校野球部の物語。現在21巻まで刊行、以下続刊中で、手塚治虫文化賞新人賞受賞、講談社漫画賞一般部門受賞、そして2度のアニメ化と、これまでに多くの方を惹きつけてきた魅力的な作品であることが伝わります。

『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ/講談社)

 新設された野球部なので、メンバーは全員一年生。しかも野球未経験者も混じってようやく10名。この野球部メンバー一人一人がどう野球部に入ってきたか、どう野球に取り組んでいるかを読み進めていくうちに、部の設立、合宿、練習そして試合へと自然に……むしろぐいぐい世界に入っていきます。

 もう、1巻だけ読んでみても、「主人公のピッチャー、三橋くんがどうしてもおどおどしてしまう過去とは」「キャッチャー阿部くんの亭主関白系野球バカっぷり」「野球は頭脳」「合宿」と、この先が気になって面白くなる要素がぎゅっと詰まっています。一巻で試合よりも先に合宿を描く! そんなことされると、10人それぞれの個性が伝わって、ポジションどうなるのかしら……とか、どんどん気になってしまうじゃないですか!

サヤ

うんうんそういうエピソードってすっごく大事だと思います! キャラクターのことを知れば知るほど共感できますもんね。それにほかの場面でも「ここで彼はこんなふうに思ってるのかな」とか「彼だったらこうするのかな」などなど想像も膨らみます! それが登場人物の数だけ! すてきです!


ミソノ

 繰り返しますが、わたくしも、全くの野球知らずです。

 ところが『おおふり』を読み進めると、主人公の高校どころか、敵の高校すら応援したくなるはらはらどきどき感に身もだえるんですよ……。各学校に、小さなころから野球一筋で頑張ってきた野球少年たちがいて、それを支えるマネージャー、監督、そして保護者がいるという周囲の様子も楽しくて。例えば主将、花井くんちのお母さまは大の高校野球ファン! 息子が出場していなくても、毎夏、高校野球のトーナメント“やぐら”をチェックする勢いとか。そんなほっと息つくエピソードが、またグラウンドに立つ選手たちへの思いを強くするんです。

 敵チームの、あるピッチャーが心の中で思います。「負けるにしたって アウト取らなきゃ 終われねェんだから 野球ってシンドイなあ!」と。ああ、そうだね、シンドイねぇ! と紙面のこちら側でわたくしはうなずきます。マウンドでただの一球だって投げたことのないメイドなのに、どうしてこんなに彼のセリフが真に迫って感じられるのでしょう。勝ったり負けたり、打ったり投げたり、喜んだりシンドクなったり。彼らの一投一打に声援を送りたくなります。

 「がんばれば勝てる」系精神論スポーツにうっとりするのとは、全く違う野球マンガを味わえるこの感じ……例えて言うなら、野球部近くの商店街のコロッケ屋さんのおばちゃんになった感じ! ともすると、選手の幼いころのことだって、彼らが朝夕に懸命に練習するのだって知っている(ミソノの架空の設定です)……そんな子たちが甲子園に出るため毎日汗水流してたら、応援しちゃうでしょう! コロッケおまけしちゃいますよね!?

サヤ

もうコロッケどころかハムカツにメンチカツまでおまけしちゃいますね! 読んでいるうちに彼らのことを本当に知っている気分になれちゃうなんて。それはもう応援しないわけにはいかないです! 高校球児たちにも『おおふり』のようにそれぞれエピソードがあって、毎日頑張っているんだと考えると、自然にリアル高校野球にも興味がわいてきそうですね。


ミソノ

こうして、見ず知らずの高校球児たちに共感できる脳を与えられたら、なんと紙面を離れていたって、世にあふれるリアル高校野球情報で楽しくなれるのです! 夏を味方につけたも同然ですよ……!

夏空に白球を追わなくても、木蔭でページを開くだけで夏がぐんぐん楽しくなりますよー!


ミソノの好感度パラメーター

本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?

エリス:12% レイラ:21% サヤ:21%


本日のメイド

ミソノ ミソノ:いつもニコニコ、図書館を影から支える司書メイド。好きなジャンル:絵本、児童書、旅行記、本、紙、図書館
サヤ サヤ:三度のご飯より小説が好きな新米メイド。司書見習いとして、本棚整理などミソノの仕事をよく手伝っている。好きなジャンル:近現代文学、少女漫画

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