本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。連載11回目は私設図書館シャッツキステでミソノを手伝っており、文学好きメイドのサヤが登場。今日は熱っぽく語ります。
街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。
そこには書架を守る司書メイドがいます。ほんわりおっとりした司書メイド ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。
司書メイドの好感度を上げようと、今日もお気に入りの1冊を持って、書架にメイドがやってきます。
ごきげんよう、サヤちゃん。あら、お勧めの本をもってきてくれたのかしら?
ごきげんよう。ミソノさん、夏目漱石の『こころ』を読んだことはありますか?
さすが文学好きのサヤちゃん。文豪、夏目漱石さんの作品紹介ですか?
学校の教科書に載っていることも多いので、読んだことがある方も多いですよね。わたくしもはじめて読んだのは、教科書に載っていた先生の遺書の一部でした。
その後続きが気になったので文庫本を買って、面白くて今も何度も読み返しています。『こころ』は読めば読むほど「なぜKは自殺したのか」などなど、いろいろな疑問がわいてくるのですが、『「こころ」大人になれなかった先生』は、その疑問に答えを示してくれます。
あらまぁ。『こころ』そのものではなく、作品論なんですね。
この本はテクスト論(文章を作者の意図と切り離して、文章に書かれていることだけをみる)に基づいて『こころ』を読んでいくという趣旨の本です。普段は読み飛ばしてしまうようなささいな部分にまで目を向けた読み方がされていて、それが面白いポイントです。
例えば「子供を持ったことのないその時の私」という記述の、「その時の」という部分に注目します。手記を書いている時点の青年には子どもがいて、それが青年と静の間にできた子どもであるとする説には、「そういう読み方もあるのか!」と驚きました。確かに「その時の」とわざわざ言うなら、今は違うということですよね。読み方に多少強引なところがあっても、「その考えもありだな」と思わせるだけの説得力と面白さで、うまい具合にカバーしています。
もう1つ、わたくしははじめて『こころ』を読んだ時なんとなく、Kは静との恋に破れたから自殺したんじゃないかなと思っていました。しかしこの本ではKは恋によって自らの孤独を自覚したために自殺したとされています。最初はどうかなぁと思いましたが、読んでいるとだんだん説得されていくのです。最終的にわたくしの疑問もなんとなくすっきりしました。それにKの「覚悟」とか、襖が開けられていた意味とか、テクストの細部に目を向けていくと、Kが孤独を自覚したために自殺したんだという証拠がたくさん出て来て、目からウロコでした。そういう新しい発見があるのもこの本の面白いところだと思います。
だいたいこのような感じで、筆者の『こころ』論が展開されています。ふつう『こころ』論とか夏目漱石論とかいうと、難解で読みづらいというイメージがありますよね。でもこの本は筆者の『こころ』論を高校生向けに書き直したもので、内容の濃さはそのままなのに、とっても読みやすいのです。この読みやすさで疑問を解消してくれて、新しい読み方を知ることができて、発見まである。なんてお得な一冊なのでしょう。
サヤちゃん、熱い! 淡々と紹介しつつも、その眼差しが熱い!
これを機会に『こころ』を読んで、その次に『「こころ」大人になれなかった先生』も読めば二重の楽しみが待っていますね。
本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?
エリス:12% レイラ:21% サヤ:17%
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