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» 2012年07月05日 16時28分 UPDATE

e-Book Expo Tokyo 2012 Report:国内の電子書籍市場の「今と未来」を楽天と講談社の社長が語る

「第16回 国際電子出版EXPO」の基調講演に当たる国際講演が4日に行われた。楽天の三木谷浩史氏、講談社の野間省伸氏などが電子書籍のこれまでとこれからを語った。

[西尾泰三,ITmedia]

 東京ビッグサイトで7月4日から6日まで開催されている「第16回 国際電子出版EXPO」。基調講演に当たる国際講演が4日に行われた。

tnfigbet1.jpg 第16回 国際電子出版EXPOの国際講演より。左から小城氏、三木谷氏、野間氏、ビル氏

 「人々が求める書籍/出版に私たちはどう応えていくのか」というテーマが掲げられた同講演は、7月2日に電子書籍リーダー「kobo Touch」を発表、国内サービスを19日から開始する楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長のほか、国内大手出版社の講談社から野間省伸代表取締役社長、電子書籍の国際標準フォーマット「EPUB」を推進する国際電子出版フォーラム(IDPF)からビル・マッコイ事務局長が登壇、電子書籍市場のキープレイヤーが今何を考えているのかを語った。モデレーターは丸善CHIホールディングスの小城武彦代表取締役社長。

楽天三木谷氏「出版社、書店とのWIN-WINな関係を構築していく」

三木谷氏 「まだ予約受付を開始して1日だが、シルバーがよく売れている」とKobo Touchの販売状況に触れる三木谷氏

 冒頭、話題に上がったのは楽天の電子書籍事業について。楽天は昨年買収を発表したカナダのKoboが持つサービスと端末を国内でも展開することを7月2日に発表している。グローバルでのビジネスを想定したKoboのプラットフォームを使うことで、海外のコンテンツを日本からも入手しやすくし、一方で国内のコンテンツを海外に輸出する「場」になることで市場を広げようとするものだ。

 小城氏が「流通業からすると外資の参入は手強く、『まいったな』と思う部分もあるが、楽天もそう(外資としてみるべき)なのか」と、楽天がKoboを軸に進める電子書籍事業のスタンスを三木谷氏に尋ねると、「音楽産業で起こった電子化の流れはいいケーススタディ。これをよく学習した上で発展したのが米国を中心とする電子書籍市場だと思う」とし、書店で電子書籍端末を販売している海外の状況を紹介。「われわれは既存の枠組みを壊さず、それをうまく活用することで伸びていきたい」と話し、書店との提携関係を強化するなどして出版社、書店とのWIN-WINな関係を構築していく方針を語った。

講談社野間氏「紙と電子を同時にやるマイナスは感じない」

野間氏 「紙と電子を同時にやるマイナスは感じない」と野間氏

 講談社の野間氏は出版社の観点から、「出口が少なすぎると独占化し、出したい本が出せなくなる懸念がある」とした上で、電子書籍市場の健全な発展には競争環境が必要であり、強固な会員基盤を持つ楽天の本格参入で専用端末の普及にも貢献するのではと期待を寄せる。なお、野間氏は将来的に電子書籍普及のトリガになりそうな次のポイントとして“教科書の電子化”を挙げた。

 電子書籍に関しては出版社ごとに温度差があるのではないかという小城氏からの問いかけに野間氏は、国レベルでいえば経済産業省の「緊デジ」事業が、業界としては出版デジタル機構の設立や電書協で進めているフォーマットなどルール面の整備、そしてインフラ面ではスマートフォンやタブレットの普及が進み、全体として電子書籍は本格的な普及期に入ってきており、それぞれ取り組んでいると説明。「電子書籍の市場は歩みが遅いといった批判もあるが、今回の緊デジやパブリッジが失敗したらだめでしょうね。国も電子書籍の発展を支援するために支援しているのだから、これでうまくいかなければ国も見捨てる」と冗談めいた発言もあったが、そこにある業界の覚悟を語った。

 また、電子書籍を語る上でときおり耳にする「電子書籍ならではの商品開発の必要性」や「(電子書籍の)採算性」にも言及があった。講談社は6月からほぼすべてのタイトルについて電子と紙の同時刊行ができる体制を整えたが、電子書籍ならではの商品開発といった部分はまだこれからと説明。しかし、「プロジェクト・アマテラス」のような取り組みを開始し、さまざまな才能を加工して世に送り出す取り組みを進めているという。

 採算性について野間氏は、iPadが国内販売された当時、紙の半額で電子版を刊行した京極夏彦氏の「死ねばいいのに」、そして昨年、紙販と価格をそろえて同時刊行したベストセラー「スティーブ・ジョブズ」などこれまでの取り組みを振り返りつつ、「何をやっても批判されるが」と笑いながらも、「紙と電子を同時にやるマイナスは感じない」と強調。講談社としては電子書籍だけの採算性を見るのではなく、トータルで見ていく方向性だとする方針を語った。なお、講談社におけるフィーチャーフォン向けとスマートフォン・タブレット向けの電子書籍コンテンツの売り上げはすでに後者が前者を上回っているという。

 「電子書籍の売り上げは紙の(書籍の)売り上げにプラスオンしており、両立している。相乗効果が作り出せるさまざまな施策を打てればと思う」(野間氏)

 ただし、複数のフォーマットを制作するのは非効率なため、EPUBのような国際標準のフォーマットに対する期待値は大きいと野間氏。一方でEPUB3ビューワのリファレンス実装などがまだ整備されておらず、細かな部分で解決していくことは多いという考えを示すと、IDPFのビル・マッコイ氏からはEPUB3ビューワのリファレンス実装を開発するReadiumの取り組みなどが紹介され、三木谷氏も「規格のところはEPUBに統一して別の部分で競争したい」と楽天がIDPFに参加する理由を述べた。

海外の出版社が気にする「GAFMA」とは?

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 野間氏は海外の動向について、先日IPA(International Publishers Association:国際出版連合)の会議に出席した際のエピソードも披露。そこでのホットな話題は「電子書籍」「著作権」だったと紹介した。その中で野間氏が幾度となく耳にした言葉が“GAFMA(ガフマ)”。これはGoogle、Amazon.com、Facebook、Microsoft、Appleの頭文字を並べたもので、巨大なプラットフォームを持つこうした企業とどう付き合っていけばいいのかが先進国の出版社で経営判断を行う人間の大きな関心事になっていると述べた。

 「先進国の出版社の経営幹部と話をすると、そうしたプレイヤーはもちろんパートナーだが、競合する部分もあるという。どう付き合い、どう競争するのかが大きなテーマ」と述べ、一方で日本では楽天やソニーといった企業も含めた多様性が健全な競争環境を創り上げていくことを期待したいと述べた。

 三木谷氏は最後に、「今年はある意味で(真の)電子書籍“元年”になる。これは出版業界のピンチではなくチャンス。中途半端に終わらないよう楽天グループとして社運をかけてコミットしていく」と強調。野間氏は「国内の紙市場で勝ち抜いていかない限り、デジタルも海外もない。それが最優先課題だが、紙とデジタル、そして国内、海外で私どもの創り上げたコンテンツを届けていく」とした。

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