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» 2012年06月14日 10時30分 UPDATE

胡瓜の「このWeb漫画読もうぜ!」第8回:漫画家は作画兼“ボーカル”――漫画と音楽が生み出す「感傷ベクトル」の世界

漫画を音楽を同時に配信して、1つの世界観を作り上げる――そんな取り組みをWeb上で展開している「感傷ベクトル」。別々のクリエイターが漫画と音楽を作っているのかと思いきや、“セルフ・メディアミックス”というから驚きだ。

[山田胡瓜,ITmedia]
photo 感傷ベクトル第2話「シルク」より

 作品の中で音楽を描く漫画というのはこの世にたくさんある。でも、漫画と実際の音楽がセットになって1つの作品世界を作り上げているケースはそれほどないだろう。しかも、クリエイターが漫画と音楽の双方を手がけているとしたらなおさらだ。Webサイト「感傷ベクトル」を訪れれば、そんなユニークな世界が体験できる。

 感傷ベクトルは、漫画家の田口囁一さんと脚本家・春川三咲さんによるクリエイティブユニット。彼らは“ハイブリッド・ロック・サークル”を標榜し、1つの作品テーマごとに漫画と音楽の両方を自分たちの手で作り上げている。田口さんは、作画に加えボーカル、ギター、ピアノを、春川さんは脚本とベースを担当しているという。サイトには“セルフ・メディアミックス”なんていう言葉もおどっているが、まさに言い得て妙である。

 漫画とリンクした音楽を漫画家自らが発表するケースは過去にも例はある。例えば浦沢直樹さんの「Bob Lennon」がそうだ。ただ、感傷ベクトルの楽曲はこうした“漫画からのスピンオフ”的なものとはちょっと違う印象を受ける。彼らの漫画と音楽には、主従関係がない。双方が作品として独立できる高いクオリティを持ち、それでいてお互いの世界がからみあっている。

photophoto 漫画は全10話。ギターをかき鳴らすエピソードもあれば、ファンタジーなお話もあったりする

 ちなみに田口さんは春川さんとともに、人気ライトノベルをコミカライズした「俺は友達が少ない+」を隔月誌「ジャンプSQ.19」で連載中。なので絵のうまさには納得がいくのだが、楽曲を聞いてしまうと……素直に驚くほかない。疾走感のあるメロディと、ささやくようで芯もある田口さんのボーカルが、青々としたロックサウンドを作り出している。ちなみに、感傷ベクトルのサイトや楽曲はビクターエンターテイメントがサポートしていて、このことからも楽曲の本気具合がうかがい知れる。

 サイトでは最終話(最終曲)となる「シアロア」が6月6日に発表され、全10話のストーリーが完結したばかり。漫画はオムニバスのように進行しつつ、それぞれのストーリーが徐々に結びついていくようになっている。各話をつなぐのは、シアロアという謎のバンドの存在。どことなく閉塞感のある日常を生きる若者たち(と時々オヤジ)が彼らの楽曲に出会い、どうなるのか――音楽の雰囲気同様、青春的なテーマが作品に散りばめられている。

 天は二物を与えずというものの、感傷ベクトルのような多才なクリエイターも世の中にはいる。商業誌の連載をしながらWeb漫画を掲載し、楽曲も発表するバイタリティはどこから生まれるのだろうか。ところで、6月19日に発売される「ジャンプSQ.19」では感傷ベクトルに関する重大発表があるとのこと。漫画雑誌で発表する以上は、漫画に関する新展開だろう。作品とともに、こちらの動向もチェックしたい。

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