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» 2012年01月12日 14時30分 UPDATE

文化庁の検討会議報告書から:出版社への著作隣接権付与は継続審議へ

文化庁が14回にわたって実施してきた「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の結果報告が行われた。争点の1つとなっていた出版社への著作隣接権付与については広く意見を聞くべきとして継続審議扱いとなった。

[西尾泰三,ITmedia]

 文部科学省は1月10日、外局の文化庁がこれまで14回にわたって実施してきた「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の結果報告資料を公開した。争点の1つとなっていた出版社への著作隣接権付与については、電子書籍の製作や流通に係る中小事業者や配信事業者、一般の電子書籍サービスの利用者(読者)の意見も踏まえて結論を出すべきであるとして継続審議扱いとなった。

 この検討議会は、2010年3月から6月に掛けて総務省、文部科学省、経済産業省が合同で開催した「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の流れを汲むもの。同懇親会は電子書籍の利活用の推進に向けた検討を行うために企画されたもので、その後各省で具体的な取り組みが進められている。例えば総務省であればEPUB日本後拡張試用や電子書籍交換フォーマットの策定などが具体的な取り組みとして挙げられる。

 文部科学省が2010年11月に設置した同検討会議の検討事項として掲げられたのは「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方」「出版物の権利処理の円滑化」「出版者への権利付与」の3つ。分かりやすく言えば、1つ目が、国会図書館が持つデジタル化された所蔵資料を各家庭や公立図書館などへ送信し、広く利用してもらおうとするもの。2つ目が、いわゆる「孤児作品」(orphan works)も含む著作物の権利を円滑に処理するため、例えば音楽で言うJASRACのような集中管理を行う取り組みの是非。そして3つ目が、出版社に著作隣接権を付与するかどうかだ。

 このうち「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方」については早期に送信サービスとして実現することが必要という認識で一致しており、まずは国会図書館のデジタル化資料を公立図書館などへ送信し、情報アクセスの地域間格差を解消していく方向が示された。

tnfigb1.jpg 出版者への権利付与についての結論(出典:文部科学省)

 出版者への権利付与の是非については、「電子書籍の流通・利用の促進」「権利侵害への対応」の2点を主な根拠として議論されており、出版流通対策協議会(流対協)は要望書を提出するなどして権利付与を強く求めていた。

 検討会議では、出版社への権利付与による権利処理手続きの円滑化など一定の効果が期待できるとする意見がある一方、新たな権利者を増やすことによる新規参入の阻害につながらないかという意見も示された。また、出版社にとって喫緊の問題となっている海賊版への対応については、出版社が主体的に対抗措置を取る必要性があるということで意見が一致したが、現時点では大半の諸外国で出版社に対して著作隣接権など独自の権利は付与されておらず、海外での著作権侵害に対する実効性が疑問視される点などが指摘された。

 また、著作隣接権付与以外に、著作権の一部譲渡、民法で規定されている債権者代位権の行使、現行の著作権法における出版権の条文修正、「プロバイダ責任制限法」に基づく発信者情報開示請求の活用など、対抗措置は複数の方策が考えられるとし、権利付与の必要性を否定する意見は示されていないものの、なお慎重な検討が必要という結論となった。

 検討会議の結論としては、後に紹介したものほどより慎重な検討が必要というもので、具体的な取り組みの方向性を示すところまで至っていないものが多い。出版を文化事業だとするなら、文部科学省、あるいは文化庁が担う役割は大きく、その意味でこの検討会議の動向も注目されていたが、足かけ1年以上掛けて行われた会議の結果が「要継続検討」という内容となったのは残念だ。

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