インタビュー
» 2011年12月23日 09時00分 UPDATE

福井健策弁護士ロングインタビュー:「スキャン代行」はなぜいけない? (1/3)

書籍のスキャンを代行する業者に対して、7人の作家が原告となって差し止め請求を行ったことにさまざまなコメントが飛び交っている。果たして、今回の告訴はユーザーの事情や感情を無視し、さらには電子書籍の普及に背を向けるものなのか? 福井健策弁護士に行ったインタビューから、問題の本質をあぶり出してみよう。

[まつもとあつし,ITmedia]

 12月20日、書籍のスキャンを代行する業者に対して、7人の作家が原告となって差し止め請求を行ったことは既報の通りだ。作家からの包み隠さない裁断行為への拒否感も表明され、ブログTwitterで多くの反応が寄せられている。

 反応のほとんどは、ユーザーの間で熱心に(しかしある意味やむを得ず)行われている自炊の手間を省くことになっているであろう代行業に対して、訴えが起こされることに対する不満がまず一角を占める。

 そしてもう1つは「そもそも出版社がユーザーに対して利便性の高い電子書籍を用意すれば、スキャン代行など使わないのに」といった苛立ちが占めているように見受けられる。

 果たして、今回の告訴はそういったユーザーの事情や感情を無視し、さらには電子書籍の普及に背を向けるものなのだろうか?

 筆者は、インプレスジャパンから発売中の『【自炊】のすすめ 電子書籍「自炊」完全マニュアル』(山口真弘著)の執筆協力を行っている。その際、著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、今回の訴訟でも原告側の弁護を務める福井健策(ふくいけんさく)弁護士に、ロングインタビューを行った。本記事では、このロングインタビューの内容を抜粋して紹介する。まとめを含む全文については、出典となった書籍にてご覧いただきたい。なお、インタビューは2011年1月初旬に行われている。

『「自炊」のすすめ 電子書籍「自炊」完全マニュアル』

「自炊」のすすめ 電子書籍「自炊」完全マニュアル
  • 山口真弘 著/執筆協力 まつもとあつし
  • 出版社:インプレスジャパン
  • 発売日:2011年7月22日
  • 定 価:1500円(税別)

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著作権など「自炊」にまつわる法律についても、著作権の第一人者、福井健策弁護士のインタビューでしっかりフォロー。安心して「自炊」が始められます。


 インタビューが行われたのはおよそ1年前だが、すでにそこで提示されていた問題は、いま現実のものになっている。そしてそれ以上に、事はスキャン代行に留まらず、電子書籍の未来(流通や再販制度)にも大きく影を落す問題だということも示されている。

福井健策(ふくい・けんさく)

福井健策

弁護士(日本・ニューヨーク州)骨董通り法律事務所代表パートナー 日本大学芸術学部客員教授

1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法を専門とし、出版、音楽、映像、舞台芸術ほかのクリエイター及びエンタテインメント関連企業の顧問先多数。著書に『著作権の世紀 ――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)などがある。「自炊」について多くのメディアでコメントし、ニコニコ生放送『ネットの羅針盤』『「自炊」と電子書籍』にも出演。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中

骨董通り法律事務所Webサイト


法律とユーザーの感覚の乖離

―― スキャンしたデータのコピーを有償・無償で譲ったり、インターネットで公開したりすると、著作権の侵害になる、ということは、一般にもよく理解されるようになりました。

 ところが、自分のお金で買った本を、あくまで自分用としてデータ化するにも関わらず、スキャン代行サービスを利用したり、友人に頼まれて友人の本を自炊してあげたりすると、違法になってしまうと知ると、やや違和感を覚える人もいそうです。

福井 確かにごく親しい少人数のグループのために自炊(スキャン)してあげるようなケースを除いて、恐らく違法ですね。私的複製を作成する作業は、あくまで自分自身で行うのが原則なのです。

―― ネットオークションなどで裁断済み書籍が販売されることは問題ないのですか?

福井 裁断済み書籍の転売は、現行法では違法とする根拠が見当たりません。というのは、古書もそうなのですが、正規流通品の場合、入手したあとのその物の再譲渡は自由なんですね。

 購入した音楽CDを人に売るつもりでCD-Rにコピーしたら違法ですが、iTunesなどに取り込んだ後で元のCDを販売するのは現行法では可能です。それと同じ考え方です。ただし、明らかにスキャンしたあとでの転売ですから、大量に販売する場合など絶対に安全とまでは断言できませんが。

―― 自炊したデータは転売してはいけない。けれど、データが入ったハードウェアを譲渡することはできる、ということなのですが、それでは、自炊データが入ったハードディスクやメディアを第三者に譲渡してもいいということですか?

福井 音楽CDをコピーしたCD-Rなどと同じ扱いになります。

 私的複製を目的として、自炊を行い、そのデータが格納されたメディアをそのまま特定の知人に譲渡する(デジタルコピーを伴わないで譲渡する)のであれば、適法です。有償でも無償でも、です。ただし、あくまでも、最初の段階で個人使用を目的としていたことが重要で、はじめから譲渡を目的とした自炊は、そもそも「私的複製」とは認められません。

 他方、「特定の知人への譲渡」に当たりませんから、メディアをネットオークションに出品する行為は、「譲渡権の侵害」といって、違法と判断されます。ネットワーク上にアップロードするなど、データの送信・アップロードを伴う場合は、今度は「公衆送信権の侵害」などといって、違法となります。

―― スキャン代行サービスや機材・場所のレンタルなどの新しいサービスも登場していますが、これらはどこまでが合法で、どこまでが違法なのですか?

福井 単なる機材の貸し出しサービス、書籍裁断サービスまでは、合法と考えてよいと思います。が、今行われているようなスキャン代行サービスは、現在の法律ではかなりの確率で違法になると思います。まだ実際の裁判の例は聞きませんが、それは、いつ、どの本をスキャンしたかを、どう証明するかが課題になるからかもしれません。(筆者注:冒頭で述べたように取材は2011年1月に行われた)

 ネット上などでは、スキャン代行を支持する意見も少なからず聞かれますが、現行法での適法・違法の判断の前に、「ありであってほしい」という思いもあるのでしょうね。

―― あらかじめ裁断された本がマンガ喫茶のように用意されている自炊カフェも登場して、話題を呼びました。

福井 皮肉なことに、これは現在の法律的にはスキャン代行よりも、グレーの部分があるサービスでした。当初発表されたサービスについて、理論的には適法と考える研究者もいたのです。

 しかし、ネット上では自炊カフェを否定する声が非常に大きかった。これは、実質論で見たのでしょうね。フリーライディング(ただ乗り)がそこにあるかどうか、という意識が働いているのだと思います。

 つまり、作家・出版社などが苦労して作品を生み出し、それで食べている、これは常に忘れてはいけない事実です。読者にせよ、業者にせよ、そこにただ乗りする人が増えればその分、作品を生み出した人々が疲弊することになってしまいかねない。

tnfigjs2.jpg 「自炊の森」のように私的複製する“環境”を提供し、代行ではないことを強調するところも。ちなみに同店がサイト上で公開している「在庫本検索」によると、今回原告となった7名の作家のうち5人の著作が「裁断済み書籍」として掲載されている

―― 自炊カフェの中には「法律的には問題がない」という主張をくり返しているところもあります。

福井 権利者の反応や、社会的影響への配慮という点で、自炊カフェを開店しようとしたときの店側の判断はどうだったのか、疑問も感じます。

 現行の法律では、ユーザーが自分でスキャンし、自分のメディアで持ち帰る仕組みであれば、著作権法上の違法性は問われにくいと考えたのでしょう。この理解にも疑問符は付きますが、それ以前に、作家・出版社・読者からの反論を予想できなかったのか? 仮にビジネスが成功した場合、著作権者にまったく収益が還元されないこの業態が拡がることの影響を、どう考えたのか。この疑問は先ほど述べたように、スキャン代行業に対しても感じます。「法律専門家に確認しました」とか「持ち込まれた本は著作権者の許可を取っているとみなします」などとサイトに書く前に、考えること、やることがあるでしょうというのが、反発した人々の気持ちじゃないでしょうか。

 複合カフェ(筆者注:いわゆるマンガ喫茶)もさまざまな論争を招きましたが、作家などの逸失利益の大きさから見ると、それでも一人の人間が一度に読める本の数には限りがあるし、蔵書は物理的に摩耗もします。

 けれども、自炊カフェは違います。1冊の本から、劣化しないデジタルデータが、あっというまに大量にできてしまう。裁断済み書籍をスキャンしても摩耗も少ない。権利者から見たときの逸失利益が、ずっと大きいように思える。そこにお考えが至らなかったのかな、と思いますね。利害関係者との調整を図った様子も見られませんし。

 われわれ法律の専門家は、ガイダンスはできます。しかし、こうしたビジネスや社会的な影響も含めて最終的に決めるのは当事者であり、個々人の責任なのです。

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