出版業界としてオーディオブック市場を推進すべく、小学館・講談社・新潮社・KADOKAWA・オトバンクなど16社が協議会を設立。
小学館・講談社・新潮社・KADOKAWA・オトバンクなど16社は4月6日、「日本オーディオブック協議会」の設立を発表した。
代表理事には新潮社代表取締役社長の佐藤隆信氏が、常任理事には相賀昌弘氏(小学館代表取締役社長)、野間省伸氏(講談社代表取締役社長)、川金正法氏(KADOKAWAビジネス生活文化局局長)、上田渉氏(オトバンク代表取締役会長)らが、また理事にも集英社、文藝春秋、岩波書店などの会長・社長クラスが名を連ねている。
同日行われた設立発表会では、オーディオブック事業を長年展開しているオトバンクの会長で、同協議会の常任理事を務める上田渉氏からオーディオブック市場の概況が示された。
オーディオブックとは「耳で読む本」のこと。書籍などの内容を音声化したもので、手がふさがっていて紙の本が読めないような状況でも、あるいはスキマ時間などでも、さらには視覚障害など読書に困難さを抱えていても本を楽しむことができる。
国内では、ビジネスパーソンがビジネス書のオーディオブックを利用しているケースが多いと上田氏。現状、オーディオブックとして存在するのは1万5000点ほどだが、3年後には4倍の6万点に、またジャンルも文芸作品が最も多く(全体の約4割)なると見込んでいるという。ちなみに米国のオーディオブックは7割がフィクションだというのも文芸作品の割合が増えるとする根拠の1つだ。
国内のオーディオブック市場は現在、パッケージ(CD-ROMなどの形で提供されるもの)が約30億円、ダウンロードなど配信型のものが約20億円で、合計すると約50億円の市場といったところだという。上田氏によると米国では1600億円規模、グローバルでみると書籍市場の10%だとして、国内でも800〜900億円程度までスケールできると期待を寄せる。
協議会の活動内容として掲げられたのは以下の8点。これらを一言でまとめ、「電子書籍の次の柱としてオーディオブックの認知度を向上させ、出版業界としてオーディオブック市場を推進します」とされている。
しかし、そうした状況に持っていくには、課題が山積しているというのが記者の印象だ。冒頭のあいさつに立った代表理事の佐藤氏は「勉強しながら(各社の)資産を有効に利用する仕方を考えていきたい」と話し、小学館の相賀氏も「自社の作品でどれがオーディオブックになっているのかも十分認識できていなかった」と話している。これは、参加各社はオーディオブックに対して個別対応に近い形で進めてきたところが大半で、相賀氏の言葉を借りれば、「出版社がオーディオブックに対し十分に意識を向けられていなかった」ためだ。課題認識が各社でそれぞれ異なることが問題だともいえる。
その段階から一歩進めるべく、「オーディオブック(発表会では“音”と表現)は重要な出版物の1つ」ととらえ、参加各社そして業界全体でオーディオブックに対する意識化を図ろうとするのがこの協議会が目指すところだ。さらに、マラケシュ条約のように視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進する動きにも目を向けなければならない(日本では2016年4月から障害者差別解消法が施行される)し、そうしたオーディオブックを提供していくためには何より著作権者の理解とそのための説明が不可欠である。
出版業界としてオーディオブックの発展に向き合う姿勢を整え、市場の形成などにもつなげていこうとするこの協議会。国内におけるオーディオブック市場で今後の動向が注視される。
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