小学館の電子雑誌戦略は順調? Adobe DPS活用の本音を明かすJEPAセミナーリポート

アドビが提供する電子出版ソリューション「Adobe Digital Publishing Suite」を採用している小学館。その活用度合いやこれからの取り組みなどについて担当者が語った。

» 2015年02月18日 12時30分 公開
[西尾泰三,eBook USER]

 日本電子出版協会(JEPA)は2月13日、アドビ システムズ マーケティング本部の岩本崇氏、小学館 デジタル事業局 コンテンツ営業室課長の小沢清人氏らを講師に迎え、「Adobe DPS活用事例紹介【小学館の電子雑誌戦略】」と題したセミナーを行った。

 Adobe DPSとは、アドビが提供する電子出版ソリューション「Adobe Digital Publishing Suite」を指す。これを小学館が採用したのは2013年のこと。2013年は各出版社が電子雑誌の取り組みを加速させた年だったが、小学館もこの年、女性ファッション誌9誌を電子雑誌で配信開始している。eBook USERでは当時、「小学館の電子雑誌戦略――Adobe DPS採用のワケ」と題した取材記事をお届けした。

 今回のJEPAセミナーの内容は、その後の状況を知ることができる機会となった。DPSの採用理由などは前述の記事で詳しく触れたのでそちらをご確認いただくとして、本稿では情報のアップデート部分を中心にお届けしたい。

読者が何を見ているか分かること――データ解析はより重要に

小学館 デジタル事業局 コンテンツ営業室課長の小沢清人氏 小学館 デジタル事業局 コンテンツ営業室課長の小沢清人氏

 小学館では現在、女性誌9誌を含む13誌を電子版でも提供している。

 雑誌の電子化を開始するに当たっての小学館の考えはシンプルで、「電子版を買ってくれ、ではなく、雑誌を読んでもらいたい」というもの。消費者のライフスタイルの変化に合わせて選択肢を広く――紙で欲しい方には紙で、電子で欲しい方には電子で――提供するために、Androidも含めたマルチプラットフォームで展開できることを重要視したと振り返る。

 電子版の中では、『Oggi』など30代をターゲットにしたものがよく動いていると明かし、紙と近い購買状況になってきたと小沢氏は話す。

 気になるのは、これら電子雑誌の販売状況。「目標よりはよい推移」と話す小沢氏によると、2014年4月時点での月間有料ダウンロード数は2万超だったが、2014年12月時点では月間2万5000件に伸びているという。ただし、この数字は電子書店での配信分も含み、全体に占めるDPSの割合は30〜40%程度だという。

 DPSを利用する意義を「読者が何を見ているか分かること」だと話す小沢氏。一般的に、電子書店経由で配信されたものは、出版社からすると売り上げこそ把握できるが、読者がどのページや特集をどれくらい読んでいるのかといった閲覧傾向などはうかがい知ることができない。だから、そうしたことが可能なプラットフォームを自社で持つことは意義があるという。

 もっとも、こうしたデータの活用はまだ途上のようで、例えば、新規読者獲得のためにLite版と呼ばれるダイジェスト版を提供する際、どの雑誌でそれをやるかを決定するための材料として閲覧時間を参考にする程度のようだ。

小学館が考える次の取り組み

Newsstandなどで配信されている『Oggi』アプリは10万ダウンロードを超えているという

 DPSの採用について、そのコスト感や得られた成果などを参加者から問われる場面もあったが、おおむね満足感が高いといった旨の回答を返す小沢氏。そんな小学館が考える次の取り組みとして、小沢氏は「閲覧状況の分析」「(電子雑誌の)体験促進」「コンテンツ管理」そして、実例を作っていくことの4つを挙げた。

 閲覧状況の分析はこれまで紹介したようにまだ途上だが、それに連動し、「コンテンツ管理」を挙げているのが1つ注目される。これは運用を通して上がってきたもののようで、要は、コンテンツを分類する際の尺度を有していないこと。小学館では現在、特集ごとに閲覧時間などを分析しているというが、こうした分類が存在しないため、個々の分析にとどまってしまっているようだ。データもそれを分析するためのツールもあるが、複数の雑誌や特集を横断して分析するための指標を定義することに課題を感じている印象を受ける。

 実例を作っていくというのは、体験促進と絡む内容だが、電子雑誌の存在を知っている人が少ない状況を変えていくための具体的な取り組みを指す。本との出会いの機会をきちんと設けていく必要性を説くものだ。記憶に新しいところでは、2014年末から年始にかけて日本雑誌協会(雑協)が実施した女性誌合同プロジェクト「NEXT MAGAZINE」がそうした取り組みの1つだという。

アドビ システムズ マーケティング本部の岩本崇氏 アドビ システムズ マーケティング本部の岩本崇氏。5年目に入るDPS、日本では出版社以外にもNTTドコモ、キヤノン、リコーなども採用しており、制作から管理、計測、収益化までこなすソリューションになっていることを強調する

 また、面白いところでは、電子雑誌の閲覧はスマホで見ている人が7割近くに上ると小沢氏は明かす。スマートフォンの小さな画面で雑誌コンテンツをより楽しんでもらうには、固定レイアウトで提供してユーザーにピンチイン/ピンチアウトなどの煩わしい操作を駆使してもらうのではなく、デバイスに最適化した形での配信形態についてどう考えるか、という質問が、同じくDPSを採用して『Newton』の電子版を配信しているニュートンプレスの方から投げかけられた。

 現時点のDPSはこうしたことはできないが、Adobeもそれが重要なポイントであるという認識の下、DPSの次のメジャーアップデートでは、それに関連した機能が備わる予定であることがほのめかされた。スマホに最適化した形で雑誌コンテンツが提供されるようになるのもそう遠いことではないのかもしれない。

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