書物は手からも“読んで”いる? 電子書籍と紙の違いを研究

紙の本が読み手に与えるようなストーリーの再現を助ける力が現在の電子書籍にはないという研究。電子書籍に向いたコンテンツを考える上でも興味深い研究だ。

» 2014年08月27日 11時00分 公開
[Michael Kozlowski,Good e-Reader Blog]
Good E-Reader

 Kindleで読書する人は、ペーパーバックで読む人よりもストーリーの筋立てを覚えていないことが、新たな研究論文で明らかになった。

 先月イタリアで開催されたカンファレンスで発表されたこの研究では、推理作家のエリザベス・ジョージの短編小説(28ページ)を50人に読ませた。25人にはペーパーバックで、残りの25人にはKindle DXで読ませた後、物語に登場する人物や物、設定など幾つかの点についてテストを実施した。

 この研究のリーダー、ノルウェーのスタヴァンゲル大学のアン・マンゲン准教授は「Kindleで読んだ被験者の筋立て再構成テストの結果は非常に悪かった」と話す。再構成テストというのは、ストーリー内の14の場面を時系列に並べるもの。「Kindleの触覚フィードバックには、紙の本が読み手に与えるようなストーリーの再現を助ける力がない」と研究者らは指摘する。

 マンゲン氏は次のように語る。「紙の本を読む場合、読み進めるにつれ本の片側のページが増え、もう片側のページが減っていくのを手のひらで感じることができる。視覚だけでなく、触覚からも(ストーリーの)進行を把握できるということだ。(ペーパーバックを読んだ被験者の方がKindleの被験者より成績が良かったのは)紙の本では文章が紙の上に固定されていることと、ストーリーが進むに従ってページをめくることが進捗の視覚的な把握を助けている可能性がある。恐らくこうした視覚と触覚が、テキストの、ひいてはストーリー進行の固着化をある程度助けているのだろう」

 「われわれは出版社に対し、各種コンテンツを読むためにどんな手段(iPad、Kindle、紙の出版物)が適しているのか調査と根拠に基づく知識を提供する必要がある。どんなテキストなら電子版で読むことの影響を受けにくいのか、紙で読む必要があるのはどのようなものなのかといった知識だ」とマンゲン氏。「(ジェームス・ジョイスの)『ユリシーズ』のように500ページ以上あり、持続的な集中力と単語すべてに対する注意力を必要とする作品と、軽くて面白い小説では結果が異なると考えている。この研究テーマは非常に興味深い」

 デジタル版と紙版での読書における精神的処理に関しては、この論文は大いにうなずけるものだ。ペーパーバックを読み進めると具体的な進展が目に見えるので、達成感を得られる。

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