読書で人の脳は耕される――立花隆氏、東京国際ブックフェアで講演東京国際ブックフェアリポート

東京国際ブックフェア初日。評論家・ジャーナリストの立花隆氏による基調講演が開催された。

» 2014年07月07日 12時00分 公開
[宮澤諒,eBook USER]
立花隆氏 立花隆氏

 東京ビッグサイトで7月2日〜7月5日にかけて開催された「第21回 東京国際ブックフェア」。初日の基調講演を努めたのは、評論家・ジャーナリストの立花隆氏。立ち見がでるほどの人気ぶりだった「『知の巨人』が読み解く 出版の現在、過去、そして未来」と題した講演で、氏は何を語ったのだろうか。

 2010年のいわゆる“電子書籍元年”から4年。「来る、来る」といわれつつもも、なかなか広がりを見せない電子書籍だが、「今度こそ本当にやってくる」と立花氏。その理由として同氏が挙げたのは、学校教育へのタブレットの導入だ。

学校教育に導入されはじめているタブレット

「いよいよ本当に電子書籍の時代がやってくる」と力強く語る立花氏

 立花氏は、佐賀県武雄市の小学校で行われているiPadを用いた学校教育を例に挙げ、タブレットによる学習で同校児童の知識理解や技能成績が向上したと説明。

 また、2012年と2013年に東京と仙台の小学校で、同氏が実験的に行ったという授業についても言及。系外惑星(太陽系の外にある惑星)をテーマにした調べ学習を実施したところ、児童はインターネットを使用して情報を集め、その成果を持ち寄って驚くほど熱心に議論を交わしたという。

 現在こういったインターネットを用いた学習はどこの小学校でも行われており、その延長線として今後はタブレットを導入するようになるという。そして、日本ではタブレットを持つ子どもと持たない子どもの差を埋めるため、どの学校でもタブレットを導入するようになり、その結果、「本を読むという習慣、そして本の概念が変わる」と述べた。

小・中学校へのタブレット導入が全国規模に

 また立花氏は、日本で電子書籍の普及が遅れたことについて、フォーマットの統一がとれていなかったことが原因だと話す。

 Kindle発売以前、日本ではソニーの「LIBRIe(リブリエ)」や松下電器産業(現在のパナソニック)の「ΣBook(シグマブック)」といった電子書籍リーダーが作られていたが、両社のフォーマットは異なったもので、その結果、電子書籍ブームを生み出すまでには至らなかった。

 しかし現在、フォーマットの統一は進み、さらに上述した学校教育でのタブレットの導入が同時進行している状況にある。そういった理由から、早ければ2015年度には全国的な規模で小・中学校へのタブレットの導入が始まるという。

電子書籍の抱える問題

 電子書籍の利点を語る一方で、購入した電子書籍が読めなくなる事例にも言及。紙の本と違い、データの利用権を購入する電子書籍では、電子書店のサービス停止などにより、購入した本でも読めなくなる可能性がある。そういったことから立花氏は、電子書籍では「世代間での常識に差が生まれるだろう」としている。

 また、電子書籍に置き換えられないものとして、スイスの精神学者・ユングの『The Red Book』を紹介。同書はユングが手書きでしたためた作品をそのままのサイズで複製した大型本。電子書籍には拡大や縮小といった機能はあるが、「同じことを電子書籍でやろうとすれば、本と同じサイズのパネルが必要だ」として、必ずしもすべての紙の本が電子書籍に向いているわけではないことを説明した。

人間にとって読書がいかに重要であるかを説く、立花氏

 最後に立花氏は、「地球上にはたくさんの生物がいるが、本を読むのは人間だけ」「人間の文明社会は本を読むことの上に築かれている。本を所有して、自分の書棚をもって、自分の周辺に、自分の書籍で作った空間を作り出すことによって自分自身を育てるという行為をする」という人間と本との関係を述べた上で、「読書することで人の脳は耕され(cultivate)、教養を得ることができる」。世界的に読書する人は少なくなってきているが、「読書は人の生きる上での営みの1つである」とその重要性を説いた。

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