東京国際ブックフェア、今年は何が新しかったか東京国際ブックフェアリポート

東京ビッグサイトで開催中の「第20回東京国際ブックフェア」。さまざまな出展があるが、注目を集めているブースを幾つかピックアップしよう。

» 2013年07月04日 20時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 7月3日から東京ビッグサイトで開催中の「第20回東京国際ブックフェア」。「第17回国際電子出版EXPO」など5つの展示会との同時開催となった今回のブックフェアでは、さまざまな出展を目にすることができる。すでに発表されているものも少なくないが、中には、このイベントに合わせて参考出品されているものもある。ここでは、そうしたものの中から幾つかピックアップして紹介しよう。

凸版印刷

 電子出版EXPOの入口付近にブースを構える凸版印刷。販促用のマイクロコンテンツを表示するビューワアプリなどのデモもあるが、注目を集めているのは「中吊アプリ」。

 バンダイナムコグループのVIBEと共同開発したこのアプリは、電車の車内を模したUIに中吊り広告を配置、各見出しは細分化されたマイクロコンテンツあるいは雑誌単位で購入・閲覧できるというもの。乗車中、中吊り広告で気になる見出しがあっても、実際に購入して読むには至らないという方は少なくないだろうが、それをその場で読む手軽な手段を提供しようとするものだ。

凸版印刷の「中吊アプリ」。写真はiPhoneの画面をモニタに表示している。画面の中吊り広告を見ながら、気になる見出しをクリックすれば購入画面に遷移する
こちらが中吊り広告を拡大したところ、見出しごとに安価なマイクロコンテンツとして提供する

 面白いのは、端末のGPSや加速度センサーを用いて、どの電車のどの車両に乗っているかまで解析できるとしている点。それにより、アプリ内の中吊り広告を変化させたり(例えば女性専用車両に乗っているときは女性雑誌の中吊り広告を出すなど)、近くの書店を紹介したり、あるいは、同じ車両がアプリ経由でツイートしたものをまとめて表示したりできるのだという。ただし、デモ機ではそうした機能は検証できなかった。

 また、簡易なゲーム機能も備え、例えばスロットゲームで絵柄がそろえば任意のマイクロコンテンツを無料で提供するなど、ゲーム業界のノウハウを取り入れた仕組みといえる。中吊り広告からの情報の流れをよくしようとする動きともいえるだろう。それはプッシュ型の情報配信への取り組みでもある。ブース担当者によると、8月には実証実験を開始したい考えだという。

 そのほか、ブックフェアに併せて同社から発表されている電子書籍向けのオリジナル新書体も、本文明朝体が参考展示されている。計5書体を2016年春までに取りそろえる予定で、その先駆けとして一番需要が多い本文用明朝体が最初に登場した格好だ。凸版明朝体など同社のフォントは電子出版コンテンツの表示において、やや苦戦を強いられている。それ故にこの新フォントの開発に着手しているわけだが、同社はこの秋の商戦に向け、本文明朝体をまずはリリースしていきたい考えだ。

大日本印刷ブースにはtxtr Beagleが

ブースの一角ではこうしたセッションも

 凸版印刷と並んで印刷業界、広義では出版業界をけん引するプレイヤーの一人である大日本印刷(DNP)は、東京国際ブックフェアの方にブースを出展している。ここでは、ドイツのtxtrが開発した低価格の小型電子書籍端末「txtr Beagle」が「honto pocket」として展示されているのに注目したい。

 txtr Beagleは1000円以下の電子書籍リーダーとして昨年末から海外で話題となっている端末。その詳細は「txtr Beagleのレビュー」が詳しいが、簡単に紹介すれば、単4電池2本で動作する110グラム前後の5インチ電子ペーパー搭載端末で、その価格と相まって話題となった。

 honto pocketとして公開されているものは、主に書店に来店する電子書籍ビギナーに向け、作品の電子版と端末を合わせたパックを安価に提供することで、電子書籍の利用を促進しようとするもの。紙書籍のサイズに模したパッケージで、書店などで手にとってもらうことを想定している。展示されていたものは15冊程度のコンテンツが入っていたが、同端末は4Gバイトの内蔵メモリを備えているので、例えばシリーズ全巻を入れた販売形態なども考えられる。

写真内に2つ存在するhonto pocket端末(txtr Beagle)。写真中央右はパッケージを開いた状態だが、本来は左のような紙のコミックスに似たパッケージサイズ。全巻入りの電子書籍端末を書店で販売、という日はそう遠くないのかも

 昨年のブックフェア最終日に開催されたシンポジウム「電子書籍時代に出版社は必要か? −『創造のサイクル』と『出版者の権利』をめぐって」で岡田斗司夫氏が発言した「(電子書籍端末は)1000冊くらい入って1000円くらいになるべきだし、タダみたいな状態で売られるのが3年以内だと僕は思っている」という言葉を体現する最初の製品になるかもしれない。

将来的にはhontoのビューワなどにモジュールとして組み込むことなども考えられる

 また、同社ブースでは、コンテンツとコンテンツを結びつけようとする取り組みも展示されている。これは例えばある作品とその作品に関係するWebサイトなどを結びつけ、必要に応じてより深い情報を提供しようとするもの。

 展示では講談社の『宇宙兄弟』をサンプルに、コマごとに任意かつ複数のWebサイトなどと連動させて表示できるアプリがみられる。雑誌の電子化などで期待されていながら実際にはほとんど進んでいない電子書籍とコマースとの連動なども視野に入っているようだ。


 今年のブックフェア、電子出版EXPOともに、新製品といえる電子書籍リーダーは今のところみられない。強いて挙げれば、honto pocketに使われているtxtr Beagle、あとはBookLiveが「BookLive!カメラ(仮)」アプリを載せていたタブレットは、現状同社のラインアップにはないモデルで、かつ、すでに世の中に出ている端末でもなかった(よって、秋商戦などでタブレットを自社から、あるいはeBookJapanにおけるMeMO Pad ME172Vのような形で提供する可能性がある)。

 シンガポールに拠点を置くGAJAH INTERNATIONALは幾つかの端末を展示している。これは先日のCOMPUTEX TAIPEIでも目にすることができた8インチ1024×768ドットのE Ink端末「BK8001」などだが、そのほかにもE Ink製の電子ペーパーディスプレイを搭載するiPhone 5専用カバー「popSLATE」と同種の製品も展示されている。まだ日本で流通していないが、こうした商談会でいいパートナーが見つかれば、今後目にする機会が生まれるかもしれない。

 このほかにもまだ見応えのある出展は多い。次回は、ボイジャー、Koboなどを中心に紹介していく予定だ。

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