できるのか? 木で作る“鉄”の軍艦――木で軍艦をつくった男

映画『トラ・トラ・トラ!』で美術チーフを務めた近藤司氏へのインタビューと当時の貴重な資料で構成される『木で軍艦をつくった男』が刊行された。

» 2012年11月16日 15時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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 ボイジャーは11月16日、電子書籍『木で軍艦をつくった男』を自社の運営する電子書店「BinB store」で販売開始した。価格は450円。

福岡県遠賀郡芦屋町。遠賀川河口に作られた『トラ・トラ・トラ!』のオープンセット。町並みの背後に巨大な戦艦長門と空母赤城の建造物がみえる(画像出典:近藤司さん所蔵の資料から)

 本書は、映画『トラ・トラ・トラ!』で美術チーフだった近藤司氏へのインタビューと、近藤氏自身が保存した、圧巻と呼べる当時の写真の数々で構成されたもの。

 『トラ・トラ・トラ!』については多くの説明は不要だろう。クランクインからほどなく、黒澤明監督が解任され、その後紆余(うよ)曲折を経て完成・公開された作品である。そうした事情も含め、今なお高い評価を受ける同作品は、その撮影に当たって、福岡県の芦屋町には航空母艦赤城と戦艦長門のオープンセットが建造された。黒澤明監督降板の後も映画完成まで美術チーフとして従事し、このオープンセットを担当したのが近藤氏だ。

 この木で作られた軍艦の建造費は4億円掛かったとされる。それがいかにスケールの大きなものだったかは、当時、日本映画は1本2000万円くらいの予算で制作されていたことで推して知ることができるだろう。

 映画にかかわった多くのスタッフがすでにこの世を去った中、わずかに生き残る証人の一人だった近藤氏、本書は、近藤氏へのインタビューから構成されたものだ。そして、その近藤氏も2012年10月10日、この世を去った。そのため本書の内容は期せずしてその存在意義をさらに深めるものとなった。

 本書の構成を、ボイジャー代表取締役の萩野正昭氏自らが手掛けていることも特筆すべき点だろう。ボイジャーは2011年12月8日、真珠湾攻撃から70年目のその日、黒澤明監督が小國英雄氏、菊島隆三氏とともに書き残し、成しえなかった映画『虎 虎 虎』のシナリオ準備稿を電子出版している。『木で軍艦をつくった男』は、その延長線上にあるもので、『トラ・トラ・トラ!』という映画の一片でしかないかもしれないが、そこには記録に残したい、あるいは残すべき内容が記されている。編集者としての、あるいはボイジャーという電子出版一筋で20周年を迎えた会社の創作活動にかける矜持(きょうじ)をみることができる作品といえるだろう。

4月に降ったという大雪で赤城の甲板が雪で覆われたところ。これらの貴重な500点以上の画像リンクも本書に含まれている(画像出典:Voyager Archives)

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