「はみだしYOUとPIA」も復活? 電子書籍時代の「ぴあ」は何を生み出すのか

あの『ぴあ』が電子雑誌的なWebサービスとして12月16日17時から復活を果たす。Windows Azureをバックエンドに据えた「DO!BOOK[SV]」によって、2010年代のぴあはどのような価値をもたらすのか。

» 2011年12月16日 00時14分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
岡政人氏 ぴあのメディア局映画グループの岡政人氏。通常号などのコンテンツで課金は現時点で考えていないと話す

 日本デジタルオフィスと日本マイクロソフトは12月15日、日本デジタルオフィスが提供している電子書籍クラウドサービス「DO!BOOK[SV]」が、ぴあが12月16日から新たに開始する「ぴあ+<plus>」に採用されたことを発表した。

 ぴあ+<plus>は、2011年7月21日発売号を最後に休刊となった雑誌『ぴあ』がWebサービスの一環として12月16日17時から復活を果たすもの。その一報は14日に「雑誌『ぴあ』が電子書籍で復活、12月16日から」ですでにお届けしたが、システムを提供する両社から詳細な説明が行われた。

ぴあ+<plus>

 ぴあ+<plus>は、サイト自体が本棚のようなデザインとなっており、まずは毎週の映画情報を「通常号」として電子書籍形式で提供していくとともに、紙での抜き刷りと絡めた「特別号」、「増刊号」「PR冊子」なども用意するという。また、PDFでのダウンロードも提供する。

 ぴあ+<plus>で採用されたDO!BOOK[SV]は、もともと電子カタログの公開システム(SVはSaaS Ver.だと思われる)。日本デジタルオフィスと日本マイクロソフトは協業関係を強化し、システムのインフラ部分にMicrosoftのWindows Azureを、また、全面的にHTML5を採用することでマルチデバイス対応のクラウド型電子書籍ソリューションとして熟成させた。スタジオジブリ公認として前日から一足先に公開された「電子ジブリぴあ」も、バックエンドはDO!BOOK[SV]が採用されている。実際の公開手順は簡単で、基本的にはPDFをクラウドに送るだけで済む。HTML5に準拠したWebブラウザであれば、細かな挙動の違いはあれど、基本的には同じように読むことができる。

 ぴあのメディア局映画グループの岡政人氏は、「インターネットがない時代に創刊した『ぴあ』だが、ぴあが果たしてきた役割はインターネットにシフトした」とぴあの休刊を振り返る。しかし、ぴあがその歴史の中で完成させていった一覧性の高いカレンダー形式での見せ方を求めるニーズはWeb全盛の時代においても依然根強く、また、すでに社内に構築された情報の収集フローや自動組版の活用を考える中で、Webサービスの一環としてぴあ+<plus>を立ち上げたのだとその経緯を説明した。

 「データベースの情報をわざわざ組版しなくても、と思われるかもしれないが、そうしたニーズがあるのも事実。多様なユーザーニーズに応えるもので、電子に移行、とかそういう話ではない」と記者に話してくれた岡氏。また、今日までの情報を明日出すという紙媒体では物理的に難しかったことも、ぴあ+<plus>ではできると新しい取り組みに自信を見せた。

はみだしYOUとPIA+<plus>の実現に期待

 発表会で確認した限りでは、端末ごとにある程度最適化されるとはいえ、PDFベースの固定レイアウトが大きく変わるわけではなく、スマートフォンなどの小さな画面では読みにくい場合もある。雑誌を想定したソリューションなだけになおさらだ。PDFもダウンロード可能にしているのなら、わざわざDO!BOOK[SV]を使う必要はないのではないかと考える方もいるかもしれない。

 PDFもダウンロード可能にしているのは、オフラインでも読める環境を提供するという意味合いもあるが、HTML5に準拠したWebブラウザがあれば基本的にそれがそのままビューワとなるのは、ユーザーからするとアプリの切り替えもなく、ストレスが少ないので利便性は高いといえる。しかし、その真価はDO!BOOK[SV]が持つデータ分析機能にあり、これをうまく使うことでコンテンツの価値を高めることができる。もちろんこうした要素は自社で開発することも可能かもしれないが、それをクラウドサービスとして簡便かつ安価に提供しているのがDO!BOOK[SV]のポイントであり、そのショーケースがぴあ+<plus>や電子ジブリぴあだといえる。

 また、DO!BOOK[SV]自体がTwitterやFacebookなどとの連携を視野に入れて開発が進められている。以下の画像はぴあ+<plus>と同じシステムを採用した「電子ジブリぴあ」からツイート(またはFacebookのシェア)を行ったものだが、ページ情報が関連付いていることが分かる。

DO!BOOK[SV]を採用している「電子ジブリぴあ」からツイートしようとしたところ(分かりやすくするためページ情報のURLなどをはり付けている)。バックエンドではこれらの情報を活用する分析ツールが整っているのもDO!BOOK[SV]の特徴だ

 これはつまり、DO!BOOK[SV]の分析ツールからはどのページが人気であるかなどが可視化されることを意味している。それをうまく使えば、ぴあを知る人には懐かしい「はみだしYOUとPIA(はみだしゆーとぴあ)」のような読者投稿欄を、昨今はやりの“まとめ”の形でユーザーにコンテンツとして還元することも比較的簡単に行える。岡氏は、こうした「はみだしYOUとPIA+<plus>」の姿を示しながら、映画への新しい「気付き」を提供していくサービスとしてぴあ+<plus>を成長させていきたい考えを明らかにした。

濱田氏 日本デジタルオフィスの濱田潔代表取締役社長

 「ぴあ+<plus>と同等のものであれば、Windows Azureの使用料込みで価格は年額30万円から」と日本デジタルオフィスの濱田潔代表取締役社長は話す。今後、Facebookページへの組み込みモジュール(2012年1月リリース予定)、決済システム連携モジュール(2012年3月リリース予定)とし、機能拡張も積極的に行う意向を明らかにしている。紙のように、雑誌それ自体の販売収益は存在しないため、現時点ではタイアップなどの特別編集版などで利益を出したいぴあだが、決済システム連携モジュールが登場すれば、また別の形のECにもつなげられるかもしれない、と岡氏は取材後に語ってくれた。


「Webサーバレスの利用方法としてベストプラクティスだ」とDO!BOOK[SV]を評する日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナー&クラウド推進本部長の平野和順氏

 従来の電子書籍とは少し異なるアプローチを提供していきたいと話す茺田氏。日本デジタルオフィスとの協業関係を強化した日本マイクロソフトも、「コンテンツの格納先に(Webサーバ機能も備える)Azureストレージを使い、Webサーバレスのソリューションにするなど、うまい利用方法だと思う。Windows Azureも登場から2年ほど経つが、本物のソリューションが出てきたなと感じる」(日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナー&クラウド推進本部長の平野和順氏)とDO!BOOK[SV]を高く評価した。

 なお、日本デジタルオフィスは8月に米国法人を立ち上げており、2012年からは海外でもソリューションを販売する予定。今後1年間で500社、3年間で国内外の1万社にDO!BOOK[SV]の導入を目標としている。

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